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隆司になった歩美
しおりを挟む翌日の放課後、教室には数人の生徒が残って雑談をしていた。
窓際の席では、朋美(隆司の体)と歩美(朋美の体)が二人だけで話し込んでいた。
「ねえ、歩美。ちょっと考えたんだけどさ。」
隆司の体に入った朋美が、机に肘をつきながら切り出す。
「…何よ?」
朋美の体に入っている歩美は、不機嫌そうに返事をする。
「このノート、ほら、名前を書けば体が入れ替わるやつ。これって結構面白いと思わない?」
朋美はノートを鞄から取り出し、軽く叩いて見せた。
「面白い!?こんなめちゃくちゃな状況でよくそんなこと言えるね!」
歩美は目を丸くしたが、朋美は少し悪戯っぽく笑った。
「いやいや、だからこそよ。どうせ今こんなにぐちゃぐちゃなんだし、いっそのこと、あんたも男の体を体験してみたら?」
「は?」
思いがけない提案に、歩美は唖然とした。
「男の体ってさ、私も今体験してるけど、意外と面白いのよ。力が強いし、服装も楽だし。それに、トイレの問題とかも…まあ、慣れればなんとかなるし。」
「いやいや、そんな軽い気持ちで体を入れ替えるもんじゃないでしょ!」
歩美は困惑しながらも、朋美の言葉に少し興味を引かれている自分に気づいた。
「でもさ、せっかくだし、一回試してみるのもアリじゃない?元にはすぐ戻せるんだし。」
朋美がそう言うと、歩美はしばらく黙って考え込んだ。
「…本当にすぐ戻せるの?」
「もちろん。あたしが保証する!」
少し不安そうにしながらも、歩美は朋美の熱意に押されてうなずいた。
「…わかった。でも、もし変なことになったら責任取ってよね!」
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朋美はノートを机に広げると、ペンを差し出した。
「じゃあ、ここに自分の名前を書いてみて。」
歩美は緊張しながらペンを握り、ノートのページに「中村歩美」と書き込んだ。
すると、再びあの奇妙な感覚が体を包み込む。視界が揺れ、ふわりとした浮遊感の後、二人の体が入れ替わったのをはっきりと感じた。
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「…え?」
歩美が目を開けると、自分の目線がいつもより高いことに気づいた。
下を見ると、自分が隆司の制服を着ていることが分かる。
「本当に、隆司の体になった…。」
歩美は自分の声が低くなっているのを聞いて驚いた。
「でしょ?面白いでしょ?」
朋美の体に戻った朋美が笑顔を見せた。
「えっと、なんか…力強い気がする。」
歩美は拳を握りしめてみたり、腕を動かしてみたりして感触を確かめた。
「そうそう、それが男子の体の醍醐味よ!」
朋美は楽しそうに言った。
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その時、教室にいた数人の生徒が歩美(隆司の体)に目を向けた。
「ねえ、田中くん、なんか今日さらに雰囲気変わってない?」
「えっ!?いや、そんなことないけど!」
歩美は慌てて手を振ったが、低い声に慣れておらず、不自然に響いてしまった。
「…なんか、田中くん、声が変だよね。」
クラスメイトたちが首をかしげる中、朋美は笑いをこらえながら小声で言った。
「ほら、ちゃんと男子らしく振る舞わないとバレるよ。」
「む、難しいよ…!」
歩美は途方に暮れた表情を浮かべながら、改めて自分が巻き込まれた状況の奇妙さを実感するのだった。
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