入れ替わりノート

廣瀬純七

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混乱する歩美

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学校に着くと、いつもの朝のにぎやかな風景が広がっていた。  
隆司の体になった歩美は鞄を肩に掛け、気まずそうに下を向きながら廊下を歩いていた。  

ふと、教室の中に目を向けると、朋美と歩美の体に入った隆司が机を囲んで楽しそうに話している姿が見えた。  

「それでね、あのドラマの次の展開がさ!」  
「えー、それ気になる!私、まだその話数見てないんだよね。」  

朋美と歩美の体の隆司は、まるで元の歩美と朋美がそのままのように、自然に会話を楽しんでいた。  
笑顔の朋美に合わせて、歩美の体の隆司も嬉しそうにうなずいている。  

隆司の体の歩美はその様子を遠巻きに見つめながら、心の中に複雑な感情が渦巻いているのを感じた。  

(あれが…私…?でも、なんであんなに普通に振る舞えるの?私の体で、そんなに楽しそうに…。)  

胸が少しざわつくのを感じながらも、歩美は教室に入るのをためらってしまう。  
(私がいたら、あの楽しそうな雰囲気を壊しちゃうかも…。)  

廊下の隅に立ち止まり、窓の外をぼんやりと見つめた。  
気がつけば、自分の頭の中で一つの疑問が膨らみ始めていた。  

(もしかして、私は本当は歩美じゃなくて…隆司なのかな?)  

そう思い始めると、今までの出来事が一つ一つ、別の意味を持って思い返されるように感じた。  
男子の体でのぎこちなさや不便さ、それに伴う恥ずかしさや違和感が、次第に自分の一部のように思えてきてしまう。  

(私が女の子だって思ってるから、違和感があるのかもしれない。でも、本当は…。)  

再び教室を覗き込むと、朋美と自分の体の中にいる隆司が笑い合っている。  
その光景が、まるで「自分」ではなく、「別の誰か」を見ているように感じられてならなかった。  

(もし私が隆司なんだとしたら、この状況も全部納得がいく…?)  

歩美は思わず自分の胸を押さえた。  
隆司の体にある筋肉や、低い声、力強い動き――それが、まるで自分の本来の姿であるかのように感じられる瞬間が、確かにあったからだ。  

「……でも、それって変だよね。」  
そう呟いて、首を振ってみる。  

---

その時、教室から朋美がこちらに気づいて声をかけてきた。  
「隆司!どうしたの?廊下でボーッとして。」  

歩美は一瞬ぎこちなく手を振り返しながら、心の中で再び思う。  
(私は…歩美じゃなくて隆司…?いや、でも、私って…。)  

混乱したまま席に着いた歩美は、授業が始まっても心のざわつきが消えない自分に気づいていた。

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