俺が咲良で咲良が俺で

廣瀬純七

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困惑する二人

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教室内のざわめきが少しずつ戻り始めた中で、田中健太と山本咲良はお互いをじっと見つめていた。健太は自分の声が出ないことに戸惑い、咲良の表情が恐る恐る動くのを見て、自分が何か信じられないことに巻き込まれていると確信した。  

「田中くん、本当に田中くん、だよね?」咲良(健太の体)が低い声で尋ねる。  

「た、多分……でも、これ……なんでこんなことに?」健太(咲良の体)は自分の喉から出る高い声に一瞬驚いた。  

二人はお互いの顔を再確認するように見つめ合った。どう見ても目の前にいるのは自分自身で、鏡のように同じ姿が動いている。それがさらに二人の混乱を深めた。  

---

### 教室の異変

周りのクラスメイトたちは、机の下から立ち上がって教室の状況を確認していた。揺れによって落ちた教科書や筆記用具が床に散らばり、椅子もいくつか倒れていた。しかし、健太と咲良にとってはそんなものは目に入らない。  

「田中くん、これ、夢じゃないよね?」咲良(健太の体)が、自分の声の低さに戸惑いながらも聞いた。  

「夢だったらいいけど……どうやったら確認できるんだよ!」健太(咲良の体)は肩を落としながら、急にふわりと揺れる長い髪に気づいて目を丸くした。  

周りに人がいる以上、この状況を誰かに説明するのは不可能だと二人は感じていた。教室内の雑然とした空気の中、二人だけが完全に取り残されたようだった。  

---

### 暗黙の合意

「とりあえず、落ち着こう。これを誰かに話したら、もっと混乱を招くだけだし……」咲良(健太の体)は冷静さを保とうとしていたが、その声は明らかに震えていた。  

「どうするの?」健太(咲良の体)は咲良を見上げた。自分の体が少し高いことにも戸惑いながら、心の中で答えを求めていた。  

咲良は一瞬考え込むと、教室の隅にある廊下へ健太を連れ出した。  

「まずは、元に戻る方法を考えないと。だけど……それまでは、お互いのふりをするしかないわよ。」  

健太は驚きの声を上げた。「俺が、君のふりをする?そんなの無理だよ!ノートの字も小さくて全然読めないし、委員会のこととか全然知らないし……」  

咲良は苦笑いを浮かべた。「じゃあ、私があなたのふりをするのも簡単だと思う?サッカー部のことなんて全然知らないし、友達とも普段話さないのに。」  

二人は顔を見合わせ、苦笑いから次第に不安げな表情に変わっていった。この奇妙な状況で何をどうすればいいのか、全く分からないまま、授業再開のチャイムが静かに響き渡った。  

---

### 「新しい生活」の始まり

その日から、健太と咲良は互いのふりをしながら生活せざるを得なくなった。だが、周囲にバレないようにふるまう一方で、二人はこの入れ替わりの原因を突き止めるため、密かに情報を集めることを誓った。  

一見普通の高校生活に戻ったように見えたが、二人だけが知る秘密が、日々の些細な出来事を全く違うものに変えていくのだった。
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