5 / 20
マジカルダンシングナイトの夜はふけて
しおりを挟む
待ちに待った週末、40・50代ナイト当日。ついに、この俺が夜の表舞台に再び降臨する日がやって来た。
さぁ!大地を足掻く猿どもよ、我の帰還を祝福せよ!
「なんだよ、気持ち悪いなぁ、ニヤニヤして」
いかん、はやる気持ちを抑えきれず、気づかないうちに顔がニヤけてしまっていたらしい。
「な、なんでもないさー。久しぶりだから楽しみなだけさー」
「でも懐かしいよなぁ、ねるとんイベントなんて今どき珍しいし」
俺の事を気持ち悪いと言いながらも、隼人も満更ではなさそうだ。
「昔は皆勤賞だったもんな。懐かしいよな、あの頃が」
「なんか、あの頃の俺たちがこんな年になってイベント行って、こんな会話するなんて想像も出来なかったよ」
隼人が当時のことを思い出して感慨深そうにしている。
「お互いに、こんなに長生きするなんて思わなかったよな」
こんな昔を懐かしんで昔話をするのも、なんだかんだで俺たちが年を取ったという証明なのかもな。
「さて、着いたぞ」
俺たちは、小さな雑居ビルの地下へと続く階段を降って行く。
地下に降りると、扉越しに俺たちの世代には懐かしい音楽が聴こえてくる。まるで、あの頃に引き戻されたような錯覚に陥る。
料金を払い、手の甲に入場証明の蛍光スタンプを押してもらう。これで外出しても、スタンプをかざす事で再入場できるシステムになっている。
何もかもが20年前のままだ。
と、懐かしさに浸れたのはここまでだった。
「どうぞ、入場して下さい」
スタッフに促された。あれ?俺の番号札は?
「あの、番号札をもらってないんですけど」
「番号札?何ですか、それ?」
若いスタッフは、何を言われているのか分からない、とキョトンとしている。
「おいおい、何言ってるんだよ?」
隼人が俺に加勢する。
「番号札くれないと投票出来ないじゃないか、なぁ?わけわからない事言ってないで、早く番号札をくれよ」
「おめーが何を言ってんだ!だよ!」
隼人が呆れたような目で俺を見て、小さくため息を吐いている。
「え?どういうことだよ?」
「今どき相手の番号札見て投票するなんて、そんなアナログなことするわけないだろ?今どきはアプリでマッチングするんだよ!」
えぇ!?今のイベントって、そんなシステムになってるの!?
「いいか?今はそんなアナログな方法じゃなくて、マチアプを使うんだよ。タイプの相手がいたら、マチアプ開いてそこでいいねするなりDM送ってマッチングするんだよ」
そんな…それじゃあ、俺が普段から使っているこのマチアプを、ただこの会場で使うというだけのことじゃないか。
それだったら、わざわざ金を払ってイベントに来てまでマッチングする意味ある?
「ほらほら、後ろがつかえているんだから、さっさと奥へ行け」
俺は隼人に背中を押されてメインフロアへと入場した。
メインフロアの中は、俺と同年代のゲイ達でごった返していた。
友達同士で固まって、あちらこちらで盛り上がって嬌声を上げている。
最後にマッチングイベントに来てから十数年経っているわけだし、これも世の流れと受け入れるしか無いか。そうさ、どんなに世の中が移り変わってシステムが変わろうとも、始まってしまえばこっちのものだ。今でも俺の魅力が通じることを証明してみせる!
「それで、このあとどうなる?」
「だーかーらー、マチアプ開いていい男がいたらアプローチする。それだけ」
「えぇ?何もイベント起きないの?昔は定期的に番号貰ってた人を呼び出したり、モニターに番号出してお知らせしてくれてたのに」
「いつの時代の話をしてるんだよ?今は平成じゃなくて令和なんだぞ!全ては自己責任、自分で何とかしろ」
嘘だろ?それじゃあ、ただ狭い箱の中に人詰め込んで、あとは勝手にどうぞってだけじゃないか。これをマッチングイベントと言っていいのか?
しかも、ざっと周りを見渡しても、誰もイベントに参加しているようには見えないのだが、それは俺の気のせいか?
皆んな、友達とくっちゃべってるだけにしか見えないのだが、まるでただの社交場じゃないか。
「どうだ、久しぶりのイベントは楽しいだろ?」
「はぁ?誰も参加してない、ただ飲みながらお喋りしているだけの、ねるとんイベントが楽しいわけねーだろ!」
「そんなにガツガツするなよ。ほら、果報は寝て待てと言うだろ?しばらくしたら、きっと誰かからアプローチされるって」
隼人からそう諭されて、仕方なく俺は何かが起きる事を期待して待ってみることにした。
しかし、そんな淡い期待は徒労に終わることとなった。
隼人は終電で帰ってしまい、1人取り残された俺は、ただ何かが起きる事を期待しながら行き場も無いまま、夜が明けて始発が動き出すまで壁の花となっていることしか出来なかった。
時代の流れに乗れなかった俺は、この先どうしたらいいんだー!?
さぁ!大地を足掻く猿どもよ、我の帰還を祝福せよ!
「なんだよ、気持ち悪いなぁ、ニヤニヤして」
いかん、はやる気持ちを抑えきれず、気づかないうちに顔がニヤけてしまっていたらしい。
「な、なんでもないさー。久しぶりだから楽しみなだけさー」
「でも懐かしいよなぁ、ねるとんイベントなんて今どき珍しいし」
俺の事を気持ち悪いと言いながらも、隼人も満更ではなさそうだ。
「昔は皆勤賞だったもんな。懐かしいよな、あの頃が」
「なんか、あの頃の俺たちがこんな年になってイベント行って、こんな会話するなんて想像も出来なかったよ」
隼人が当時のことを思い出して感慨深そうにしている。
「お互いに、こんなに長生きするなんて思わなかったよな」
こんな昔を懐かしんで昔話をするのも、なんだかんだで俺たちが年を取ったという証明なのかもな。
「さて、着いたぞ」
俺たちは、小さな雑居ビルの地下へと続く階段を降って行く。
地下に降りると、扉越しに俺たちの世代には懐かしい音楽が聴こえてくる。まるで、あの頃に引き戻されたような錯覚に陥る。
料金を払い、手の甲に入場証明の蛍光スタンプを押してもらう。これで外出しても、スタンプをかざす事で再入場できるシステムになっている。
何もかもが20年前のままだ。
と、懐かしさに浸れたのはここまでだった。
「どうぞ、入場して下さい」
スタッフに促された。あれ?俺の番号札は?
「あの、番号札をもらってないんですけど」
「番号札?何ですか、それ?」
若いスタッフは、何を言われているのか分からない、とキョトンとしている。
「おいおい、何言ってるんだよ?」
隼人が俺に加勢する。
「番号札くれないと投票出来ないじゃないか、なぁ?わけわからない事言ってないで、早く番号札をくれよ」
「おめーが何を言ってんだ!だよ!」
隼人が呆れたような目で俺を見て、小さくため息を吐いている。
「え?どういうことだよ?」
「今どき相手の番号札見て投票するなんて、そんなアナログなことするわけないだろ?今どきはアプリでマッチングするんだよ!」
えぇ!?今のイベントって、そんなシステムになってるの!?
「いいか?今はそんなアナログな方法じゃなくて、マチアプを使うんだよ。タイプの相手がいたら、マチアプ開いてそこでいいねするなりDM送ってマッチングするんだよ」
そんな…それじゃあ、俺が普段から使っているこのマチアプを、ただこの会場で使うというだけのことじゃないか。
それだったら、わざわざ金を払ってイベントに来てまでマッチングする意味ある?
「ほらほら、後ろがつかえているんだから、さっさと奥へ行け」
俺は隼人に背中を押されてメインフロアへと入場した。
メインフロアの中は、俺と同年代のゲイ達でごった返していた。
友達同士で固まって、あちらこちらで盛り上がって嬌声を上げている。
最後にマッチングイベントに来てから十数年経っているわけだし、これも世の流れと受け入れるしか無いか。そうさ、どんなに世の中が移り変わってシステムが変わろうとも、始まってしまえばこっちのものだ。今でも俺の魅力が通じることを証明してみせる!
「それで、このあとどうなる?」
「だーかーらー、マチアプ開いていい男がいたらアプローチする。それだけ」
「えぇ?何もイベント起きないの?昔は定期的に番号貰ってた人を呼び出したり、モニターに番号出してお知らせしてくれてたのに」
「いつの時代の話をしてるんだよ?今は平成じゃなくて令和なんだぞ!全ては自己責任、自分で何とかしろ」
嘘だろ?それじゃあ、ただ狭い箱の中に人詰め込んで、あとは勝手にどうぞってだけじゃないか。これをマッチングイベントと言っていいのか?
しかも、ざっと周りを見渡しても、誰もイベントに参加しているようには見えないのだが、それは俺の気のせいか?
皆んな、友達とくっちゃべってるだけにしか見えないのだが、まるでただの社交場じゃないか。
「どうだ、久しぶりのイベントは楽しいだろ?」
「はぁ?誰も参加してない、ただ飲みながらお喋りしているだけの、ねるとんイベントが楽しいわけねーだろ!」
「そんなにガツガツするなよ。ほら、果報は寝て待てと言うだろ?しばらくしたら、きっと誰かからアプローチされるって」
隼人からそう諭されて、仕方なく俺は何かが起きる事を期待して待ってみることにした。
しかし、そんな淡い期待は徒労に終わることとなった。
隼人は終電で帰ってしまい、1人取り残された俺は、ただ何かが起きる事を期待しながら行き場も無いまま、夜が明けて始発が動き出すまで壁の花となっていることしか出来なかった。
時代の流れに乗れなかった俺は、この先どうしたらいいんだー!?
0
あなたにおすすめの小説
僕たち、結婚することになりました
リリーブルー
BL
俺は、なぜか知らないが、会社の後輩(♂)と結婚することになった!
後輩はモテモテな25歳。
俺は37歳。
笑えるBL。ラブコメディ💛
fujossyの結婚テーマコンテスト応募作です。
優しい檻に囚われて ―俺のことを好きすぎる彼らから逃げられません―
無玄々
BL
「俺たちから、逃げられると思う?」
卑屈な少年・織理は、三人の男から同時に告白されてしまう。
一人は必死で熱く重い男、一人は常に包んでくれる優しい先輩、一人は「嫌い」と言いながら離れない奇妙な奴。
選べない織理に押し付けられる彼らの恋情――それは優しくも逃げられない檻のようで。
本作は織理と三人の関係性を描いた短編集です。
愛か、束縛か――その境界線の上で揺れる、執着ハーレムBL。
※この作品は『記憶を失うほどに【https://www.alphapolis.co.jp/novel/364672311/155993505】』のハーレムパロディです。本編未読でも雰囲気は伝わりますが、キャラクターの背景は本編を読むとさらに楽しめます。
※本作は織理受けのハーレム形式です。
※一部描写にてそれ以外のカプとも取れるような関係性・心理描写がありますが、明確なカップリング意図はありません。が、ご注意ください
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
【完結】アイドルは親友への片思いを卒業し、イケメン俳優に溺愛され本当の笑顔になる <TOMARIGIシリーズ>
はなたろう
BL
TOMARIGIシリーズ②
人気アイドル、片倉理久は、同じグループの伊勢に片思いしている。高校生の頃に事務所に入所してからずっと、2人で切磋琢磨し念願のデビュー。苦楽を共にしたが、いつしか友情以上になっていった。
そんな伊勢は、マネージャーの湊とラブラブで、幸せを喜んであげたいが複雑で苦しい毎日。
そんなとき、俳優の桐生が現れる。飄々とした桐生の存在に戸惑いながらも、片倉は次第に彼の魅力に引き寄せられていく。
友情と恋心の狭間で揺れる心――片倉は新しい関係に踏み出せるのか。
人気アイドル<TOMARIGI>シリーズ新章、開幕!
お兄ちゃんができた!!
くものらくえん
BL
ある日お兄ちゃんができた悠は、そのかっこよさに胸を撃ち抜かれた。
お兄ちゃんは律といい、悠を過剰にかわいがる。
「悠くんはえらい子だね。」
「よしよ〜し。悠くん、いい子いい子♡」
「ふふ、かわいいね。」
律のお兄ちゃんな甘さに逃げたり、逃げられなかったりするあまあま義兄弟ラブコメ♡
「お兄ちゃん以外、見ないでね…♡」
ヤンデレ一途兄 律×人見知り純粋弟 悠の純愛ヤンデレラブ。
何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか
風
BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。
……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、
気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。
「僕は、あなたを守ると決めたのです」
いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。
けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――?
身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。
“王子”である俺は、彼に恋をした。
だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。
これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、
彼だけを見つめ続けた騎士の、
世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。
人気アイドルグループのリーダーは、気苦労が絶えない
タタミ
BL
大人気5人組アイドルグループ・JETのリーダーである矢代頼は、気苦労が絶えない。
対メンバー、対事務所、対仕事の全てにおいて潤滑剤役を果たす日々を送る最中、矢代は人気2トップの御厨と立花が『仲が良い』では片付けられない距離感になっていることが気にかかり──
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる