魔力を持たない僕は魔法を使いたい!

まったりー

文字の大きさ
10 / 50
1章 転生

10話 報告会

しおりを挟む
吾輩たちが旧校舎に通うようになって4日、今日も昼から向かう予定だったのだが、ザリハ様に報告をすることになり、吾輩だけ生徒会の部屋に呼ばれた。
しかし、吾輩は直ぐに報告したいのに、生徒会役員の方たちがザリハ会長に反対の言葉を伝えていて、吾輩の報告は後回しになっている。


「いつもの事だが、これでは吾輩の報告を聞いても無駄に見えるな」


もっと成果が出てなくてはダメだろうと思ったが、ザリハ会長も報告を聞きたいのだろうから諦めて待っていた。
役員の方々が、言いたいことをすべて言葉にしたのは、吾輩が部屋に来て30分が経ってからで、旧校舎での訓練が30分以上も遅れたとガッカリしたよ。


「30分あれば、あの訓練で強くなれるのに、どうして分かってくれないのだろうな」


今頃、ビューイ達は楽しく訓練をしていることだろうと、窓の外に視線が向いたが、ザリハ会長は旧校舎の件を役員たちに説明した。
まだ訓練の事は知らないから、凄く強い平民がいて協力出来れば、学園をより良い場所に出来るという話だった。


「会長、平民なんていりませんよ、俺っちの政策【究極等級魔法開発】を進めましょう」
「ラディッシュ、またあんたは」
「っんだよミシューラ、お前の全然進んでねぇ最強剣技開発より良いだろう」
「な、なんですって、あんたのはお金が掛かるだけでしょう」


さっきも話していた内容で新たに言い争いを始めたが、他の役員の方は黙って見ているだけで、それを止めたのはザリハ会長だった。
その声と表情に全員が怖がり怯えて黙ったが、ザリハ会長はニッコリとするだけだったよ。


「よし、じゃあ話を聞くよザッシュ、向こうでは何をしているのかな」
「はい、向こうの教室の修繕を最初に行いました」
「「「「「修繕?」」」」」


ザリハ会長はニコニコして納得したが、役員の方は不思議そうに首を傾げた。
修繕なんて職人に任せれば良いと全員一致の言葉を貰い、それが出来る費用が無いと応えると納得された。


「平民は金が無いからな」
「そうね、大変なのねぇ」
「オレっちたちとは世界が違う、嫌だ嫌だ」


貴族はそう思うもので、吾輩も4日前まではそうだった。
しかし今はそうは思えず、経験はどんなことでも積んでおくのが良いと思っていた。


「皆さんはそういいますよね、では剣技を研究しているミシューラ様にお聞きます、あなたは型を考えずに剣を振ったことがありますか?」
「何を突然、そんな事あるわけないじゃない」
「そうです、吾輩も4日前までそうでした、しかし今は違うのです」


修繕の道具を使わずに釘を打った時、吾輩は身体強化魔法の大切さを知った。
それは気の使い方でも大切だったんだが、アルサに言われ魔法にも応用出来たから、吾輩たちは訓練に取り入れた。


「それは魔力の循環なのです」
「ほう、魔力の循環、それは初耳だね」
「そうなのですザリハ会長、体内に循環させると身体強化魔法の威力が上がるのです」
「っふん!そんな事、魔法を極めようとしてる俺様は知ってるんだよ」
「ほうラディッシュ、君が知っててボクが知らない事を平民のアルサ君が教えてるんだね、それはかなり凄い事だよね?」
「そ、それは」


研究成果は、結果が出てからでないと発表は出来ず、アルサが皆に教えている時点でラディッシュ様より先に行っているのが証明され、資金を掛けてるのに何をしているのかと叱られた。
良いところを突いてくれたザリハ会長は、話を進める様に視線を向けてきて、吾輩は次に移ったが、それは誰もが驚くことで説明を求められた。


「ですから、魔力を道具に注ぐのです」
「ちょっちょっと待て、そんな事をしたら道具が壊れるぞ」
「そうです、ですので一部に注ぐのですラディッシュ様」
「一部って、必要な部分に注ぐという事か?」
「そんな事不可能よ!」


ラディッシュ様だけでなく、ミシューラ様が大声を上げて否定し、他の役員の方も頷いていた。
吾輩たちも最初はそう思っていたんだが、実際にアルサとアネモネが見せてくれて出来る事は分かっていたし、その威力は挑戦する価値のあるモノだったんだ。


「それを可能にするのが循環なのです」
「ふむ、道具の一部分に集める事が出来れば壊れないのだね」
「そういう事ですザリハ会長、吾輩たち旧校舎に通っているメンバーはすでにできますし、その結果使用する魔法の威力が大幅に上がるのです」
「「「「「な、なんだって!」」」」」


突然の報告にザリハ会長まで驚いた顔で叫んできたが、それだけ濃密な時間を向こうで送っている。
平民は気を使った肉体強化で、吾輩たちは魔法を使った訓練をしているが、それは実戦並みの模擬訓練にまで発展しているんだ。


「そして、道具の魔力循環は、修繕の道具だけでなく武器にも出来るのです」
「それはそうだろうけど、これは本当に凄い事だね」
「ちょっと待ってよ、じゃあさっきの型って」
「そうです、武技を発動させるために型を考えた剣術を訓練しますが、魔力を流す事でどんな体勢・形からでも武技と同格な威力の攻撃が発動するのです」


それは、武具の研究をしている役員【オビシュラ】様が目を輝かせる物だった。
魔剣に匹敵する内容なのがすぐに分かったからだが、それを否定したのもオビシュラ様だったよ。


「そう、オビシュラ様の言うように耐えられないのが普通です」
「ん、素材を上げれば出来るけど、結局材料次第」
「普通はそうなのですが、そこで重要なのが身体強化魔法なのです」


ザリハ会長は閃いた様に表情が明るかったが、他の方は全員首を傾げていて、ザリハ会長自ら説明を始めてくれた。
身体強化魔法を道具に施す事により、武技の威力に耐える強度が得られる技術で、それが最終的なザリハ会長の回答となり、研究として学園で発表してもそん色ないモノだった。


「素晴らしい、やっぱりボクの見立て通りだったよ」
「会長、報告はまだ」
「待ちなさいっ!まだ欠点があるわ、魔力を使いすぎるはずよ」


最後の報告となる模擬訓練で解決する問題をミシューラ様が欠点として追及してきて、高揚しているザリハ会長は、解決しているのだろうっとキラキラした目で我輩の答えに期待してきた。
期待通りにアルサはすでにそこも解決していて、それが今行っている模擬訓練と報告した。


「模擬訓練って、そんな事したら魔力がすぐに尽きるわよ」
「ミシューラ様の言う通り、最初は誰もが力尽きるのに20分と掛かりませんでしたが、それは鍛錬によって解決するのです」
「ど、どうしてよ、魔力の量なんてそんな簡単に増えないわよ」
「増やす必要はないんですミシューラ様、魔法として使わなければ魔力は減りませんからね」


吾輩は、2日前にアルサに言われたままに報告した。
道具は使う時に威力があれば良いから、その時に循環させれば良いと言うのがアルサの答えで、その為の循環訓練が修繕だった。


「なるほど、金づちを打つ瞬間に魔力を使うのね」
「そういう事ですミシューラ様、模擬訓練では動きながらなので、身体強化魔法を使いながらとなり、更に難易度が上がりますが、それは実戦式と言うだけで強くなっているのが実感できました」


だからこそ、早く訓練がしたいのだが、話はそこで終わらずミシューラ様が行ってみたいと言い出した。
しかし、報告だけでは分からないが、アルサは答えと課題を毎回出してきていて、段階を踏む大切さを教えてくれていたから、吾輩はミシューラ様を止めたんだ。


「なんでよザッシュ、アタシの研究が進むかもしれないのよ」
「ミシューラ様、答えだけに囚われてはいけません、その過程も大事なのです」
「何よそれ、結果が出てるなら良いじゃない」
「そうではなく、これは平民のアルサが根本ですが、魔力に転用したのは吾輩たちなのです」


気の力を有効に使う為の訓練だったが、アルサに導かれて吾輩たちが行ったことだった。
それは、吾輩たちを友として受け入れてくれた結果であり、お互いの事を考えたからこそ出た答えで、今の状態でミシューラ様が対面しても絶対にここまでの成果は出ないと注意したんだ。


「何よそれ、平民とお友達ごっこでもしろと言うのかしら?」
「そうではなく、意見を出し合いそれを認める心を持ってほしいのです」
「良く分からないわね、平民の意見なんていらないでしょう」


他の役員たちも頷いていて、ザリハ会長はガッカリしていた。
結果が出ているのにこれだから、アルサが吾輩たちにあの態度だったのも納得で、最初の一歩こそが大切だったのが良く分かった。


「皆さん、何をするにも初めてはありますし失敗はつきものです、それを否定し切り捨ててはいけないのです」
「何言ってんだザッシュ、失敗は費用が無駄になるだけだぞ、切り捨てるもなにも無駄になるだけだ」
「違うのですラディッシュ様、どうして失敗したのか、その原因こそが成功に必要な欠片なのです」


今学園で失敗続きなのもそのせいで、魔力や素材を無理やりに高めれば成功すると思っているからだった。
鍛錬した貴族が使えば出来ると言う傾向もあり、自分たちが使えないから失敗とされることも多々あったんだ。


「提案者が成功しても失敗として切り捨ててはいけないのです」
「なるほど、誰が使っても成功する、それこそが大切なんだねザッシュ」
「はいザリハ会長、だから方針の違う今の状況では会わない方が良い」


もし今対面すれば、吾輩たちの時以上の状況になり、それはおそらく破綻を迎えると思った。
拒絶されていれば相手も拒絶するのは当然で、こちらが歩み寄らなければそれも無いと伝えた。


「何よ、平民にそこまでする義理はないわ」
「そう、貴族はそうやって平民を下に見ています、だから会わせるわけにはいかない、これは吾輩を友としてくれたアルサを守る吾輩の意思ですミシューラ様」
「ななな、なんですって!」


子爵家の吾輩が公爵家のミシューラ様に反抗するのは、貴族社会では不敬に当たり処罰は免れない。
しかし、ここは学園で身分は関係ないと、建前となってしまっている事を吾輩は言い切ったんだ。


「あなた、覚悟はできてるのねザッシュ」
「ミシューラ様、吾輩も身分を無視しようとは思ってません・・・しかし良くお考え下さいミシューラ様、ここは学園で吾輩たちは生徒なのですよ」
「だ、だから何だと言うのよ」
「ミシューラ、もうやめるんだ」



ザリハ会長が止めてくれて、吾輩の言いたいことをズバッと言ってくれた。
吾輩たちは親の地位に乗っているだけの子供で、義理も義務も存在せず自身では何も成してないと言ってくれた。


「ボクもね、王族ってだけで何も成してない、君たちと同じなんだよ」
「ですが、会長は選挙で選ばれた代表ですわ」
「それだってねミシューラ、貴族の半数以上が投票してくれただけで、平民に投票権があれば違ったかもしれない」


学園にはそういった差別が結局存在し、それを無くすために平民の代表が欲しいとザリハ会長が語った。
それがアルサなのだが、難しい難題なのはザリハ会長が思っている以上であると吾輩は思い、学期末テストを見てほしいとお願いした。


「それは楽しみだ、じゃあその時にボクは彼を生徒会に誘う事にするよ」
「いけませんわ会長、平民を生徒会に入れるなんて、異例にもほどがありますわよ」
「誰にでも最初があるように、異例も同じだよミシューラ」


誰もしなかったから異例であり、ザリハ会長が最初になるだけだと譲らず、その覚悟が伝わってきた。
アルサがザリハ会長の友になれば、これほど頼もしいモノはないが、とても難しいだろうと先の苦難が想像できてため息が出たよ。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。 それは、最強の魔道具だった。 魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく! すべては、憧れのスローライフのために! エブリスタにも掲載しています。

スキル【収納】が実は無限チートだった件 ~追放されたけど、俺だけのダンジョンで伝説のアイテムを作りまくります~

みぃた
ファンタジー
地味なスキル**【収納】**しか持たないと馬鹿にされ、勇者パーティーを追放された主人公。しかし、その【収納】スキルは、ただのアイテム保管庫ではなかった! 無限にアイテムを保管できるだけでなく、内部の時間操作、さらには指定した素材から自動でアイテムを生成する機能まで備わった、規格外の無限チートスキルだったのだ。 追放された主人公は、このチートスキルを駆使し、収納空間の中に自分だけの理想のダンジョンを創造。そこで伝説級のアイテムを量産し、いずれ世界を驚かせる存在となる。そして、かつて自分を蔑み、追放した者たちへの爽快なざまぁが始まる。

現代錬金術のすゝめ 〜ソロキャンプに行ったら賢者の石を拾った〜

涼月 風
ファンタジー
御門賢一郎は過去にトラウマを抱える高校一年生。 ゴールデンウィークにソロキャンプに行き、そこで綺麗な石を拾った。 しかし、その直後雷に打たれて意識を失う。 奇跡的に助かった彼は以前の彼とは違っていた。 そんな彼が成長する為に異世界に行ったり又、現代で錬金術をしながら生活する物語。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

【改訂版】槍使いのドラゴンテイマー ~邪竜をテイムしたのでついでに魔王も倒しておこうと思う~

こげ丸
ファンタジー
『偶然テイムしたドラゴンは神をも凌駕する邪竜だった』 公開サイト累計1000万pv突破の人気作が改訂版として全編リニューアル! 書籍化作業なみにすべての文章を見直したうえで大幅加筆。 旧版をお読み頂いた方もぜひ改訂版をお楽しみください! ===あらすじ=== 異世界にて前世の記憶を取り戻した主人公は、今まで誰も手にしたことのない【ギフト:竜を従えし者】を授かった。 しかしドラゴンをテイムし従えるのは簡単ではなく、たゆまぬ鍛錬を続けていたにもかかわらず、その命を失いかける。 だが……九死に一生を得たそのすぐあと、偶然が重なり、念願のドラゴンテイマーに! 神をも凌駕する力を持つ最強で最凶のドラゴンに、 双子の猫耳獣人や常識を知らないハイエルフの美幼女。 トラブルメーカーの美少女受付嬢までもが加わって、主人公の波乱万丈の物語が始まる! ※以前公開していた旧版とは一部設定や物語の展開などが異なっておりますので改訂版の続きは更新をお待ち下さい ※改訂版の公開方法、ファンタジーカップのエントリーについては運営様に確認し、問題ないであろう方法で公開しております ※小説家になろう様とカクヨム様でも公開しております

チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活

仙道
ファンタジー
 ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。  彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。

処理中です...