魔力を持たない僕は魔法を使いたい！

2章 魔法

29話 あなたのせい

長期休暇の2日前、ついに私は文句を言ってきた教師と戦う時が来ました。
相手はテストでも実技の担当をしていた【ジャベラル】と言う教師で、伯爵の爵位を持っている男性でした。


「くくく、良く逃げなかったなスコティ」
「ジャベラル、あなた覚悟した方が良いわよ」
「覚悟？お前は馬鹿なようだな、さすが獣人だ」


何も分かってないジャベラルは、この後楽勝で勝てると思っているようだけど、それは大きな間違いであること教えたのよ。
言葉だけだったから信じようとはしなかったけど、降参されても私の気持ちが収まらないから、嬉しくてにやけてしまったわ。


「笑えるのも今の内だ、生きているのも辛い、この世の地獄を見せてやるよ」
「生きてるのが辛い？あなた、地獄を見たこともないくせに」
「何を言うかと思えば、お前の様な獣人が俺に勝てるか」
「ふふふ、知らないというのは呑気で良いわね、良いわ少し教えてあげるわよ」


私達があの空間に入っていたのは、1日と少しなのに1年と半年と言うとても長い時間、私たちは訓練をしたのよ。
勿論強くはなったけど、アネモネさんの言う通り、あれは地獄だったわ。


「教えるだと、やれるモノならやって！」
「もうやっているわ、どうかしら息苦しいでしょう」
「な、なにをした、毒でも」
「ふふふ、毒なら私も苦しいわよ、ちょっとあなたの周りにある空気を操作したのよ」


空気を薄くしただけの事で、それはあの空間と同じ状況でした。
アルサ君が気を使って操作していて、私たちもその領域に達したけど、それほど難しくはないからジャベラルに味わってもらったわ。


「空気を操作だと、そんな高等魔法使える訳がない」
「魔法じゃないわ、これは気功術と言う技術よ」
「な、なんだと、聞いた事ないぞそんな技術」
「あなたは知らなくても良いわ、次行くわよ」


私たちの訓練を行った環境はそれだけではなく、気功術で体を重くもされたのよ。
最初は2倍で何とか動ける状態で、最後には10倍まで重くなってとても辛かったから、2倍の圧力をジャベラルに加えて思い出して嫌になったわ。


「こ、今度は体が重く」
「どうかしら？とても苦しいでしょう、これが地獄の一丁目よ」
「な、なんのこれしき、騎士の訓練に比べれば」


試合が始まって何も出来ていない事にも気づかず、ジャベラルは膝をついて辛そうだったので、更なる地獄である二丁目に移ることにしたわ。
今までは環境が変わっただけで、次は半年後に行われた視界を奪われる地獄だったわ。


「な、なんだ！いきなり暗くなったぞ」
「目が見えなくなったのよ、これであなたはどこから攻撃されても反撃できないわ」
「な、なんだと、そんな事が出来る訳がない」
「それはそうよ、舞台の中だけを暗闇にしただけだもの、私も暗いから見えないわ」


見えなくても気を感じる事が出来て、私はジャベラルを見る事が出来ました。
怖さを味わってもらう為、ジャベラルの肩を後ろからトントンと叩くと、ジャベラルは小さく悲鳴をあげたわ。


「ふふふ、随分可愛い悲鳴ね、それでも貴族様なの？」
「ひひひ、卑怯だぞ、正々堂々と戦え」
「何を言ってるんです、戦うのはこれからです」


まだ戦ってもいないのに変な事を言ってきて、これだから実戦を知らない貴族はダメなんだとため息が出たわ。
見えないけどため息の音を聞き、ジャベラルは怒りながら剣を見境なく降り始め、体が重いから2分と持たなくて息を切らせてきたわ。


「こんな奴の為に、私はあの地獄を味わったのね」
「く、くそっ！そこか」
「あらあら、耳を頼りに動くなんて、少しは頭を使ったわねジャベラル、でもそれは悪手よ」


静かに動かれたらおしまいだし、そこに罠を張られるのは言うまでもありません。
気を爆発式に固めた球体を床に置き、ジャベラルが踏むのを待っていたら、なんのためらいもなく30秒後にジャベラルは踏み空高く飛んで行き、私はそれについていくために大ジャンプしたわ。


「ぐ、ぐおおぉぉぉ」
「大声を出しても何も変わらないわよジャベラル」
「スコティ、貴様」
「どうするのかしらジャベラル、このままだと地面に激突するわよ」


上昇が終わり、ふわっとした感覚から降下が始まり、ジャベラルが焦り始めたわ。
私も一緒に落ちたけど、こちらは気の力で空を自在に飛べるから余裕の笑顔で待っていたわ。


「地面に激突するあなたを見るのが楽しみね」
「こ、こんな事で・・・たたた、助けて」
「そう言ってきた平民や獣人にあなたはどうしたのかしら？」


貴族は利益優先で、他人は道具として見ていて、使えなければ捨てるのは当たり前でした。
自分勝手な理由だったけど、こちらが利用するのは絶好の機会だと思って提案する事にしたわ。


「すすす、すまなかった、謝るから」
「それだけではダメよジャベラル、あなたの出来る事全てやって償ってもらうわ」
「全て」
「あたりまえじゃない、それともその程度で償えると思っているのかしら？」


それならここで死ねと忠告したら、ジャベラルは下を見て青くなりなんでもすると了承したわ。
今は口約束だけど、助けた後ではなかったことにされるのは目に見えてるから、この場で契約する為にある魔道具を出したわ。


「な、なんだそれは」
「これは契約の壺って魔道具でね、この取っ手を持つ二人で約束を交わす事で発動するのよ」
「そ、そんな魔道具聞いた事ないぞ」
「そんな事は良いのよ、早く約束しないと地面に激突よ」


下を見て教えると、ジャベラルも時間がない事を理解し、私の持つ壺の反対側の取っ手を掴み、私との約束を交わしました。
これで教師の中にも味方が出来て、アルサ君の支援が出来る体制が整ったのよ。


「これで良いわ、じゃあこれからよろしくねジャベラル」
「わわわ、分かったから何とかしろっ！」
「口の利き方がなってないわね、良いわこの後躾けてあげる」
「ひっ」


私の殺気を受けて、ジャベラルは小さく悲鳴をあげて意識を失いました。
気を使ってジャベラルの体を覆い、下降速度を緩めて着地すると、そこでは拍手をするアルサ君たちが待っていて、平民担当の獣人教師が貴族に勝った事を実感したわ。


「あの地獄はこのためにあったのね、とっても嬉しい」


努力が報われるというのは喜ばしい事で、私はこれからも頑張ろうとやる気が満ち満ちてきました。
でも、あの空間にはいきたくないっと、アネモネさんが言っていた事を確信して同意したわね。