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「流聖の章」

003.ノーコンフォワード

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 俺は一年のころから祐樹と共に歴史と伝統ある八王子高校サッカー部に所属している。とは言っても実力的には二十回に十九回は負けると言う運動部の中でも一、二を争う弱小部だ。そしてサッカー部の花形たるフォワード選手の俺は十回に一回しかゴールを決めることのできないスーパーノーコンである。

 その日の練習試合でも俺は自分に回ってきたパスを派手に場外にかっ飛ばし、同点になる大チャンスをむざむざ逃す羽目になってしまった。そんなノーコンがなぜレギュラーなのかと言えば、部員の数が十一人きっちしりかいないと言う理由からだ。

 怪我をした選手がいようものならバスケ部や陸上部から補欠を集めてくると言うヘタレっぷり。もう廃部にした方が早いんじゃないのと嫌味を言われたことも数知れず。

 そんな中での敗北はただでさえ腐っていたイレブンを更に腐らせるのに十分で、当日の致命的ノーコンに対するペナルティとして俺は部室の大掃除、及びボール磨きをキャプテンから命ぜられた。

 もちろんキャプテンだって(多分)俺一人の責任だとは思ってはいなかったはずだ。俺たちに足りないのはちゃんとした顧問と基礎力。つまりは試合に勝つ以前の問題なのだ。

 それにしてもたった一人グラウンドでボールを磨くと言う作業は非常に孤独なものである。仲良く走る女子陸上部の皆様の短パンから伸びるおみ足を眺めながらであると尚更だ。

 彼女達の掛け声を聞き校庭の向こうにある夕日を見ているうちに何だか無性に哀しくなった俺は、ついむしゃくしゃしてちょうどその時磨いていたボールをゴールに向かって思い切り蹴った。

「ああっ!畜生!」

 そう、これぞ青春。

 だが俺の放った渾身の一撃は空中に見事な直線を描いたかと思うとものすごい勢いでフェンスの向こうへと姿を消した。

『お前のシュートの威力だけは凄いんだけどな』

 キャプテンの台詞が頭の中で甦り俺はがっくりと頭を落とした。いつでもどこでも漏れなくノーコン。中学時代の野球部でも同じこと言われてなかったか?

 だがせめてゴールのどこかにぶち当たってくれるくらいのことはあってもいいはずだ。それなのになにゆえに左斜一五五度のあらぬ方向に飛んで行くのだろう?

 有り得ないったら有り得ない!

 俺は勝負の女神、蹴球の女神に愛されていないのだろうか?そもそも公平であるべきスポーツの神々が女であるところからして間違っていないか!姉貴と言うサンプルが身近にあるから断言できるが、好き嫌い以外の判断基準はあいつらの中には無い!

「高身長、高学歴、イケメン、すごくモテるんだけど私だけを愛してくれて、真面目で誠実。それでいてちょっと強引なところがあってそこがたまらないの♪」、なんてタイプじゃないと女神様のお気に召さないに違いない!

 つまり俺はそれに当てはまらないということだ!

……うう、自分で言っていて何だか悲しくなって来た。

 中学校二年生の頃から三年越しで付き合っていた幼馴染の桜子にはつい一週間前に他好きな男が出来たからと言って振られていたし、何をやってもとことんついていない気がしていていた。

 とにかくボールを回収しなければならない。俺は溜息をついて校庭の裏門から外へ出たのだった。
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