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「流聖の章」

007.いつの間に!?

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「―― おいっ!神!聞いてるのかよ!」

 祐樹の声に俺は我に返った。

「お前は人権と言うものについてみっちり学ぶ必要がある!オタクがどんなマイノリティであろうと日本が民主主義をコクゼとし、自由と平等を評している以上その権利は認められるべきなのだ!お前のような脳筋には分からないかもしれないがなぁ」

「ううっ、せっかく忘れていたのに……」

 ギャンギャン喚く祐樹を華麗にスルーし、俺は机の上に突っ伏した。

 何発目かの雷で本当に尻に火が付き、最終的に付近の川に突っ込んでもらいようやく消したなんて言う記憶なんて、ラインのようにさっくりブロックできれば楽なのに、としくしくと俺は泣いた。

「おい、神聞いているのか!そもそもオタク文化とは日本が世界に誇る――」

「うるさい」

 俺は祐樹の口の中に一週間前に買って机の中に放置したまま忘れていたカニパンを突っ込んだ。

「ムグッ、ムググ、こ、呼吸が……」

「なあ、芦田って俺らと昔会ったことってあったか?小学校より前の話でさ」

 祐樹はカニパンを丸呑みしながら答えた。

「……ゲップ。いや無いだろ?芦田ってここに来るまでずっとイギリスに居たって言っていたじゃないか。すげーな、ロンドンだってよ」

「だよなあ」

 俺はの机の上に顎を付いた。

「どうしたんだよ?」

「あいつさ、あれだけ頭良ければもっと上の私立行けたんじゃないかって思ってさ。向こうじゃ名門校通ってたんだろ?」

「あ~、確かに」

 祐樹は首を捻った。

「家庭の事情ってやつじゃないの?あいつ、両親まだ海外にいるって言っていたし」

「かな」

「だろ」

「……」

 俺は釈然としないまま椅子を前に向けた。肘を付き窓の外を見る。相変わらずザーザーと雨が降っている。帰るまでには晴れてくれよ、と俺は空に向かい祈った。



 その日、最後の授業が終わるころには雨は既に止んでいた。肩をカキコキと鳴らす。

 さて、今日はグラウンド何周すっかな。

 俺は祐樹に声を掛けようと後ろを振り返りぎょっとした。いつの間にか芦田が祐樹の二つ後ろにある奴の席に座っていたからだ。芦田は俺の視線に気付くとにっこりと笑い軽く手を振った。

 おい、ちょっと待て。いつの間に学校来た?

 俺は眠りこけている祐樹の肩を揺すった。

「祐樹!起きろ!」

「あ、そこ、そこだよ。いい、いい、いいよお、○○ちゃん」

「……」

 夢と泡の国に未だにいる祐樹の頭を無言で丸めた教科書で殴る。非常にいい音がした。……中身詰まっているんだろうか。

「いい加減現実に戻って来い!」

「バカ、せっかくいいところだったのに。エロい夢を操るには長年の修行がいるんだぞ」

 祐樹は目を擦りながら頭を起こした。

「芦田、いつ学校来てた!?」

「芦田?芦田なら朝礼の前ぎりぎりで間に合ってたじゃん?」

「何だって!?」

 そんなはずはない。今日俺はトイレを抜かして一日中教室にいたが、芦田が来た気配は全然なかったのだ。

「神、お前ボケてきたんじゃね?」

「何おう!」

「ん?ちょっと待て」

 祐樹は猛る俺をけん制しつつポケットに手を突っ込んだ。スマホの画面を確認し、俺の目の前に突き出す。

「キャプテンからメール。今日顧問いねーから練習ナシだって お前やって帰る?」

「いいや。んじゃ、三浦たちと遊びに行くか?俺マック食いたい」

 俺はマック愛しさに数秒前までの苛立ちをコロッと手放した。だってこの世にマックに勝るものはないだろう?

「俺は録画のプリ○キュアを四時から見なくちゃいけないんだ!」

「ああ、そうかよ」

 はん、友情なんてはかないものだ。○○ちゃん一人で簡単に壊れやがる。

「三浦たちは居残りだぞ。あいつら英語悪かったろ」

 俺は頬をぽりぽりと書いた。

「じゃ、俺マックだけ買って帰るかな。それで寝るわ」

「そうしろよ」

「んじゃな」

「ああ、また明日!」

 さぁ、いざマックへ!

 俺は意気揚々と鞄を引っ掛け席を立った。と、そこまでは良かったのだが――。
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