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「流聖の章」

014.ピッカピッカ~☆彡

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 俺はツンツンと芦田の肩を突いた。

「神?」

 そのまま無言で肩の後ろをチョイチョイと二度指す。

「――?」

 芦田は俺に促されるままに身体を起こし、西の空を見た。

「あれは、」

 驚いたようにそう呟き、両拳を強く握りしめる。

「何故、ここが」

 亀裂は赤い閃光を放ちながらみるみる間に空一杯に広がり俺たちの頭上にまで達した。思わず叫ぶ。

「ちょ、嘘だろ?」

 そして次の瞬間、俺は頭上から降って来た稲妻と稲妻がぶつかり合い電気が炸裂するショート音に耳を塞いだ。

 余りの鋭さに頭が割れそうになる。

「なっ、何だこの音っ!」

 同時に地面が激しくぐらぐらと揺れる。

「……っ!」

 おい、これ、さすがにヤバいだろ!?

 工事現場の物陰で一心不乱にコトに励んでいらっしゃったカップルご乱交―― じゃなくて、ご一行様もさすがに事態に気付き騒ぎ始めた。

「えー、地震?」

「何の音だよ?」

「やぁだ、何あれ」

「信じらんなーい」

 揺れは縦横と上下を交互に繰り返しかなり強い。

 俺は今にも倒れそうになりながら、空を見上げたままその場に立ち尽くす芦田の腕を掴んだ。

「芦田、逃げるぞ!」

「……」

「芦田!?」

 何ボケっとしているんだ!手は早いですけど足は遅いですよってか?

 ええい、こうなったら殴って気絶させて引きずってでも連れて行く!
 
 背後にじりじりと移動し、回し蹴りを食らわせようと勢いをつけた瞬間、不意に芦田がこちらを向いた。

「神――」

 そのまま軽く頭を下げ俺の攻撃を交わす。

「うわーっ!」

 目標物を失った俺は前方の道路に足から突っ込んだ―― はずなのに、何故か真っ先にオデコをコンクリートにゴチンとぶつけた。

 めでたく本日二度目の電気ネズミとのご対面である。しかも、前より何だか数が多い。

  ああ、ピッカピッカ~☆彡とのたまいつつ、くるくると楽しそうに頭上を回っておられる。死ぬ前に一度でいいからバトルぢゃなくてモフモフしたかったよ……。

「い、いてて……」

 芦田は路上に無残に散った俺の隣にしゃが込み後頭部を突いた。

「神」

「……何だよ」

「結界はもう張れる?」

「は?ケッカイ?」

 それってコッカイ?あれってケッタイ!とってもキッカイ!それよりイッタイ!

「まだ無理か。ならば」

 芦田は片膝を付くと右手を俺の目の前のコンクリートの地面に押し当て目を閉じた。

「芦田?」

 芦田の手が一瞬強く光り、そこから銀色に輝く水が音も無く湧き出して来る。

 あらやだ何コレ!

「我が名の元に彼の者を」

 芦田はそこで驚いたように目を開き言葉を切った。

「……彼の名の元に彼の者を守護すべし」

 台詞を言い終えるのと同時に、俺の周りを光る水が二mほどの高さの波となってぐるりと囲む。

「お、おい!芦田!」

 芦田は立ち上がり、水の輪の中に閉じ込められた俺を見た。

「この土地の水龍はもう神のことをよく知っているみたいだ。君に忠誠を誓っている」

「へ?」

「俺の名で命じる前に、自分から君のことを身を挺して守りたいと言ってくれたよ」

 芦田は腰に手を当て再び空を見上げた。

「来るな」

「来るって何が――」

 俺は芦田の視線の方向を見た。

 空の裂け目の中央がこじ開けられるように大きく開く。そしてその間から火炎を吐き出しながら出てきたのは、一匹の、燃えるように赤い大きな、大きな竜だった。
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