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「流聖の章」

020.チートな進化(課金なし)

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「……俺は、そんなことは絶対に許さん」

 男はぜえぜえと肩で息を吐いた。

「許せるわけがない。お前が武人であることを捨てるなど!」

 その目に赤を超え青く燃え盛る炎が宿り、髪がざわりと立ち上がる。

「許さんぞ流聖ぇぇぇいいいいっ!」

 地面ががくんと大きく揺れ、爆発音と共に巨大な火柱が立ち上がる。

「う、うわっ!またかよ!」

 火柱はみるみる大きくなって空に届き、俺はその中に天へ駆け上る赤い竜を見た。

 竜は纏わりつく炎を振り払い、空から流聖を睨み付け咆哮を吐き出す。

「リュゥせいぃっ、俺は、ゆるさんぞおおおうううォオオオオオ!」

 その怒りは大気を揺らし、熱風となって地上の景色を揺らした。

 俺はバンバンとコッカイの壁を叩いた。

「おいっ、あれこそ反則だろ!?」

 こっちの現在の装備はたびびとの服にヒノキの棒状態なんだぞ!どうやってあんなもんを倒しゃいいんだよ!?

「こっちが武器だったら向こうも武器で勝負すべきだろ!? チートで三段階進化するとかきったねーぞ!! 課金もしてないくせにぃ!!!」

「……」

 ぎゃあぎゃあ喚く俺を余所に、流聖は無言で片膝を付き折れた剣を地面に置いた。振り返り、深く一礼をする。

「大河様、どうぞご無礼をお許し下さい」

「へ?」

「獣の姿はお見せしたくはなかったのですが――」

「は?」

 流聖の身体が青く輝き、人の形がみるみる崩れる。

「ですが、今は、この戦いを早く終わらせることが先決です」

 銀色の影が人間の進化の過程を数秒の内に巻き戻し、今度は全く別の進化の系統を凄まじいスピードで辿る。 

 魚類から両生類へ、両生類から爬虫類へ、爬虫類から未知の巨大な生き物へと―― そして十秒後、俺の目の前に姿を見せたその生き物は、銀の鱗と青い目の、五十メートルはあろうかと言う、長い、長い体を持つ竜だった。

 きらきらと鱗が太陽を反射し光り輝いている。深く静かなその目は優しそうですらある。そのあまりの神々しさに俺は息を飲んだ。

(ご安心を、陛下。すぐに戻ります)

 流聖は首を起こし赤い竜に目を向けた。

(話の続きはまた後ほどに)

 軽やかな一陣の風を残し、流聖は空へ飛び立った。

「おいっ!流聖!」
 
 青い空を背景に赤と銀の竜が至近距離で睨み合う。

(―― やっとその姿になったか)

(これが貴様の望みだったのだろう?)

(そうとも。これが我らの本性だ)

 赤い竜は笑っているのだろうか、その巨体を小刻みに震わせた。

(最も、お前はその姿を嫌っていたようだがなぁっ!)

 赤い竜が流聖の身体に巻き付き、ぎりぎりと締め上げた。対する流聖も負けじとその喉元に噛み付く。

 赤い竜が唸り声を上げ前足で流聖の顔を殴った。流聖も赤い竜を振り解き前足で思い切り殴る。赤い竜がまた殴る。流聖もまた殴る。赤い竜が再び殴る。流聖も再び殴る。とにかく殴り合う。

 おお、今度は体当たりだ。雲の塊が吹き飛んだぞ。次はお互いマッハで特攻か。あっ、頭と頭がゴッチンコで火花どころか雷が飛んだ。

 いやあ、さすが素手VS素手でも竜になるとスケールが違う。

 ははは、ここに失業中のウルトラマン一家を呼べば泣いて喜ぶんじゃないか。あるいはそろそろ米軍が飛んでくるかもしれない。

 俺は既に悟りを通り越し諦めのキョウチにいた。

 その場合やっぱ俺がジジョウチョウシュされることになるのかな、あるいは囚われた宇宙人のごとくNASAに拉致られて人体実験されるんだろうか。

 ドカバキとひたすら肉弾戦で殴り合う戦いにそろそろ飽き始めた俺は、何気なく西の空を見上げた。そして言葉を失う。

「……?」

 俺は目を擦った。

 もう一度西の空を見る。

「そんなバカな」

 空がまた大きく裂けはじめている。その裂け目からは、今度は真っ黒な、ブラックホールのような空間が見え隠れしていた。
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