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「昴貴の章」

005.デートへのお誘い?

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 あの光景は一体何だったのだろう?

 私は車を走らせながら先ほど見た信じられない出来事を思い浮かべていた。

 幻覚だ。あるいは偶然に違いない。
 
 ここ数か月、私は"奇妙な光景ばかりを見る"そうだ、そのせいだ。そして私の体もあの日以来何かがおかしい。

 どくん、と心臓が鳴った。身体が熱くなる。ああ、まただ。気分が悪い。私はたまらず車を道に寄せ腕を抑えた。

(ホシイ)

(ホシイ)

(ホシイ)

 誰かを、何かを、無茶苦茶にしてしまいたい――。

――それからどれくらいの時間が過ぎただろうか。

「おい、おい!オッサン、大丈夫か!」

 窓ガラスを強く叩く音に私は目を覚ました。

「お!起きたか。一瞬死んだかと思ったぞ」

 私は顔を上げた。そして目の前に求めて止まなかった人が目の前にいることに驚く。

「……君」

 私は気分の悪さを堪え車の鍵を開けた。少年が助手席から慌てて乗り込んで来る。

「おい、オッサ……じゃなかった。にーちゃん大丈夫か!?熱無いか!?」

 彼は私の額に手を当てた。

「んー、熱はないな」

 あの後シャワーを浴びたのだろうか。その金茶色の髪から洗い立ての香りが漂って来る。

 私はたまらずその頬に手を伸ばした。もう彼が何をしていようと、何者であろうと構わない。

「また助けてもらったね」

「また?」

 少年はまじまじと私の顔を見詰めた。

「えーっと。……誰だっけ?」

 私は自分が忘れられていたと言う事実にショックを受けながらも辛うじて答える。

「……三週間ほど前、君達に助けて貰った者だが」

「ああっ!あの時のにいちゃんか!いや、グウゼンデスネー?アハハ!」

 彼は目を宙に泳がせた。

「今日は前一緒にいた彼は?」

「あいつはちょっと雨雲を叱りに……。いや、友達がバカやらかしてさ!にーちゃんこそどうしたんだ?」

 そうか、今日はあのまま帰ったのか。なら遠慮はない。

 私は身体を起こした。

「今日はこの後何か用事はあるかい?」

「いや、無いけど」

「今日の礼も含めて礼をしたいと思ってね。君の友達にも申し出たんだが、断られてしまっただろう?あれでは私の気が済まない」

「……!」

 彼は大きく首を振った。

「いやっ、本当にいいから!んなことしてもらったら罪悪感が」

「罪悪感?」

 彼はしまったと言った風に口を押えた。

「な、何でもない!じゃ、こうしよう!にーちゃんの喰いたいモンを俺が奢って、俺が喰いたいモンをにーちゃんが奢る!」
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