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「昴貴の章」

19.貴様を、殺す

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 流聖は私の目を正面から見返した。

「答える義務はない」

「ほう?ならこちらもお前の許可を取る必要はない」

 私は一歩二人に近付いた。

「その方はお前のものでは無いはずだ」

「……」

 流聖は私の言葉に視線を落とし、再びゆっくりと顔を上げた。瞳に暗い、暗い輝きが宿る。

「……そうとも。私のものでは無い」

 その台詞は既に私に対する答えでは無かった。

「誰のものでもない。神は、神だけのものだ」

 流聖は片足を引いた。

「これ以上この方に近付いてみろ」

 青銀色の炎がその背後に立ち上る。

「貴様を、殺す」

 本気だ―― と感じた。この男は陛下を守るためならば、世界を道連れにすることも厭わぬだろう。だが、こちらも引くことは出来ない。

 極度の緊張が室内に満ちる。双方とも、一歩も動かない。それからどれほどの時が過ぎたのだろう―― 1秒、あるいは1時間だったのかもしれない。闘気を纏った空気に当てられたのか、神君が微かに身動ぎをし小さな呻きを上げた。

「うう~ん。んあ?」

 私と流聖は我に返り彼を見た。流聖がベッドに歩み寄る。

「神、どうした?」

 神君はゆっくりと瞼を開いた。

「ここ、どこ?」

「都内のホテルだ。1晩宿を取っている」

「あー……そうか。にーちゃんの家家壊れたもんなー。あは、お前すげー馬鹿力だよな。って芦田バージョン?うわ、俺やべー」

 流聖は自分の上着を脱ぎその上に掛けた。

「帰りましょう」

「帰る?」

「はい」

 神君は怯えた表情になった。必死に首を振る。

「い、嫌だ。だって」

「ご安心下さい。今夜は参りません」

 流聖は神君の目を手で覆った。

「どうか、今しばらくお眠り下さい」

 手に淡い銀の光が浮かび、額に吸い込まれて行く。

「あ……」

 その身体が力を失い再びベッドに沈む。数十秒後部屋には沈黙が戻り、今にも消え入りそうな微かな呼吸だけが残った。

 流聖は神君を抱え上げた。そのまま何も言わずドアへと向かう。

「流聖」

 流聖の足がぴたりと止まる。奴は、振り向かぬまま静かに告げた。

「昴貴殿、貴方はまだ人の身がどれほど脆いものか知らない」

「……」

「私も、この方にお会いすることが無ければ分からなかっただろう」
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