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「翔竜の章」

001.捨て竜ってなんじゃそら!?

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 捨て犬捨て猫捨て兎――俺はガキの頃から色んな動物に出くわし、拾い、そしてかーちゃんにしこたま叱られてきた。だが17年に渡る人生でもこんな奴は初めて見たぞ。電柱下にお決まりのように置かれた段ボールの中から、うるうるとした目でこちらを見るピンクのチビとしばし見詰め合う。

「だ、ダメだ。そんな目で見るんじゃない」


 お、俺は拾わん。拾わんぞ!

「……」

「そ、そんな目で見ても無駄だ!俺は負けん!負けんぞ!」

「……」

 さあ、一歩を踏み出すんだ!家に帰ってさっきコンビニで買ったジャンプ読んでプリン食って。

「……」

「……」

「う、うう。お前その目は卑怯だぞ」

 俺はその場にがっくりと膝を付いた。



 久々の敗北感を感じながらも流聖の家のベルを鳴らす。

「おーい、りゅうせーい、いるかー」

 相変わらずこんな一等地にスゴイ家だ。確か外車もあったし運転手なんかもいたし、あいつ何やって稼いでるんだ?……こ、怖いから聞くのはやめておこう。世の中知らん方がいいこともある。

 ドアが開き銀髪の流聖が現れる。俺はほっと胸を撫で下ろした。

「よお!」

「大河様」

 最近の流聖は学校以外は銀色のこの姿でいることが多い。何故かは分からないけど、このことはすごく有り難かった。だってこっちの流聖は不意打ちでキスしないし、突然押し倒してそのままコトに及ぶことも無い。(……)それにちょっと前まではいつも傍にいたのに、今は流聖が来た頃と変わらないくらい自由になっている。

「!?その蕁麻疹はどうしたのですか!?」

「あ、やっぱり?出てる?」

 俺はぽりぽりと頬を掻いた。

「流聖、前やったアレルギー防止の術かけて」

「それは構いませんが、何故そのような」

「こいつ拾った」

 俺は流聖の前にあのチビを首筋を掴んだまま突き出した。



「―― 竜族?」

 俺は流聖の向かいのソファに腰を掛けた。

 とにかくちっこくて丸っこくてピンク色で真っ黒のでっかい目で、どっからどう見ても動くぬいぐるみにしか見えないその謎のチビは、何と流聖やにーちゃんと同じ立派な竜族の一員なのだそうだ。

「はい、そうです。まだ卵から孵って間もないですね」

 テーブルの上に置かれたチビ竜は、やっぱりぬいぐるみにしか見えない。そりゃ確かに牙も角もあるが、こいつが竜だなんてとても思えない。

「でもお前みたいに胴体長くないし、こんなにちっこいし、第一こんなピンク色ってありかよ」

 きゅるるんとチビ竜が鳴く。

「うっ」

 そ、それに流聖と同じ生き物とは思えない位かわゆ過ぎじゃないかよ。

「子供の頃は皆このようなものですよ。人間の赤子が赤いのと同じ……おや?」

「どうした?」

「ご覧下さい」

 流聖はキャッキャと笑うチビ竜を引っくり返し俺にその背中を見せた。

「――あ」

 背中にやっぱりちっこい天使みたいな羽がある。

「これは北方の天空に住む風龍族の特徴ですね。羽は退化しておりそれ自体が飛行に役立つことはありませんが、彼らはこれを一族の証として誇りに思っているそうですよ。自らを天翔ける龍……翔龍(しょうりゅう)の一族と名乗っております」

「へえ、そうなんだ。おらおらおら、うりうりうりっ!」

 俺はチビ竜の腹をこちょこちょとくすぐった。チビ竜がきゃふぅと鳴きながらテーブルの上を嬉しそうに転げ回る。

「で、何でその翔龍がここにいるんだ?」

「時空の乱れに巻き込まれたのだと思いますが、原因を特定することは難しいですね」

 俺はチビ竜を抱き上げた。

「こいつの親どうしたのかなあ」

 チビ竜は今度はきゅんきゅんと子犬みたいに鳴いて俺の胸に鼻を擦り付けて来る。

「帰してやることって出来ないか?」

「……」

「って、無理だよな。刺客とかあるもんな」

 俺はチビ竜を抱き締めた。
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