上 下
51 / 56
「翔竜の章」

002.ムラサキノウエけーかく

しおりを挟む
「う~ぬ、んじゃ仕方ない。俺んとこ来るかー?って、あれ?」

 チビ竜は俺の腕の部分をはむはむと噛んでいた。よだれでGジャンがべしゃべしゃになっている。

「ああ、きっと空腹なのでしょう」

 流聖は笑顔を見せた。

「こいつって何食うの?」

「生後しばらくは人間の食事と変わりありませんよ。1年もすれば自然から気を取り入れるようになります」

「あれっ?でもお前、いつも学校じゃメシ食って」

「食事を取っても構いませんし、取らなくとも問題はありません。竜族にとって食物を口にすることは娯楽ですね。竜界でも味わいを楽しむために食事を取る貴族はたくさんいました」

「へえ、便利だなー」

 食うに困らないってのはいいことだ。

「あ、そうだ。ちょっとこいつ持ってて」

 俺は流聖にチビ竜を渡した。部屋の隅に置いたコンビニの袋を取りに行く。

「さっき買ったプリン食わせても平気かな?」

「はい、大丈夫ですよ。っと」

「――あ」

 チビ竜が身動ぎをし、流聖の腕からコロンと床に落ちた。

「おいおい。お前大丈夫か?」

 チビ竜はめげずにきゅうううと鳴いて4本足のよちよち歩きで俺のところにやって来る。

「あ、あれ。何で俺のとこ」

「陛下、貴方は竜族の王なのですよ。種族全ての祖です。この竜にもそれが分かるのでしょう」

 チビ竜がようやく足下に辿り着き、まん丸の大きな目で俺を見上げる。

(きゅうううううううっ)

「ふうん、そっか~♪」

 俺はチビ竜の頭を撫でた。

「お前可愛いなあ。よーしよし」

 抱き上げソファに戻る。俺はチビ竜を隣に座らせプリンを1口食わせた。

「美味いか?」

 きゅるるんと嬉しそうにチビ竜が鳴く。

「もっと食うかー?」

 しかしかわゆい。今でもこんなにかわゆいのだから、人間になったらもっとかわゆいに違いない!

(ん、待てよ?)

 ヤバい。素晴らし過ぎるアイデアが閃いてしまった。そう、彼女がいないなら彼女を作ればいいじゃあないか!じーっとチビ竜を見詰める。

「……お前、将来有望そうだな」

 チビ竜がプリンで口を一杯にしながら不思議そうな目で俺を見上げる。ううっ、やっぱこの目がたまらん。

「よし、決めたぞ!」

 俺はがしとチビ竜の顔を掴んだ。

(きゅる?)

 俺様がムラサキノウエ教育をこいつに施してやる。そして成長の暁には……クックック。それで可愛くて、優しくて、料理上手で、俺だけのことが大好きで……。

「フッフッフ……」

「陛下、ご計画中のところ申し訳ございませんがその竜はお、」

「よーし、こうなったら名前がいるよな。うん、お前の名前はピンクだから桃だ!桃ちゃんだな!」

「……」

 そしてこの不毛な状況を終わらせてやる!

 俺は桃を抱き上げた。頭の上に乗せる。

「なーなー、どれくらいで人間に変化できるようになるんだ?」

「種族にもよりますが、早いものであれば1年未満で変化できるようになります。生まれた時点で既に人間の10歳程度の身体能力はありますからね」

「その辺やっぱ爬虫類だなぁ。お前はどれくらいでその姿になったの?」

 俺の何気ない質問に、流聖の顔が一瞬強張った―― ように見えた。

 ん?どうしたんだ?

「……私は初めからこの姿でした」

「え?」

「私は生粋の竜族ではありません」

 流聖は言葉を切り、次に思いがけない事実を言った。

「人間との、混血です」
しおりを挟む