猫に転生(う)まれて愛でられたいっ!~宮廷魔術師はメイドの下僕~ 

東 万里央(あずま まりお)

文字の大きさ
48 / 66
本編

王女様救出大作戦!(2)

しおりを挟む
 人の姿に戻って道行く人に聞いたところ、リンナの王都までは馬車で二日くらいらしい。思ったより近くて胸を撫で下ろした。

 ちなみに、この辺りの街や村は王都からのアクセスも景色もいいので、たくさんの王侯貴族やお金持ちが別荘を立てているみたいだ。専用の一泊金貨ウン枚のお高い宿屋やレストランもあって、それらの収入で全体的に裕福になったのだとか。

 ちなみにあのおっさんの猫屋敷も別荘らしい。おっさんはやっぱりお金持ちでエラい人らしく、何年か前に別荘を建てて、年に何ヶ月かあそこに住んでいるのだとか。でも、正確な名前や身分はわからないと、住人は口を揃えて言っていた。なるほど、ただの猫好きのおっさんではなく、変態レベルの猫好きで親切、かつミステリアスなおっさんなのか。……修飾語がやたらと多いおっさんだわ。

 まあ、とりあえずおっさんについてはここまでにしてと、私はまた猫に変身して馬車道を見回した。何台か停車している中に黒塗りの馬車を見つけ、中に積み込まれた荷物を見る。やっぱり貴族の高級車みたいだ。
 
 リンナの貴族はカレリアとは違って領地がない。国が狭くて山だらけなので、配分できるだけの平地が少ないからだ。貴族は皆王都に本宅を構えていると聞いたことがある。数日分の旅支度からして、多分この貴族はバカンスを終えて、リンナの王都へ帰るのだろう。

 私は馬車の屋根に飛び乗った。しばらくして身なりのいいお婆さんが、従者に支えられて馬車に乗り込む。私はそれから王都に到着するまで、香箱座りで無賃乗車の旅を楽しんだ。
 
 うん、こういう時には獣人って便利だわ。

 リンナの王都は規模こそカレリアには敵わないものの、碁盤の目のように区画整理された街並みが綺麗だった。やっぱりモスグリーンの屋根に石造りの建物が多い。

 王宮は冬の雪の重さに耐えるためか、横広がりの二階建てだった。高くするより広さで勝負らしい。屋根の真ん中にはリンナの国旗がはためいてた。

 それにしても、当然なのだろうけど警備が厳しい。鉄柵で囲まれているだけではなく、見張りの衛兵の数も半端ではない。

 アト子様はどうやって王宮に潜入するのだろう。これだけ厳重だと変装も通じなさそうだ。

 ともあれ、まずはアト子様たちの姿を探すことにする。私よりちょっと早いくらいに王都に到着しているはずだけど……。

 私は近くにある集合住宅らしき建物の屋根に登った。見晴らしの素晴らしさに感動しつつアト子様たちを探す。

 きっと王宮の警備を調査しに、この辺りに来ると思うんだけど……。

 そうして三時間ほどキョロキョロしていただろうか。視界の片隅に見間違えるはずもない、長身のフェロモン美女が登場した。部下の魔術師の一人とどうもカップルのふりをして、地上にあるレストランのテラス席で食事を取るつもりみたいだ。なるほど、あのレストランなら王宮が目に入るし、不自然にならずに観察できるものね。

 私は屋根から屋根を伝い、アト子様が椅子に腰掛けたのを見計らって、えいやっとばかりに飛び降りた!

「ニャニャニャニャニャニャニャニャニャニャニャンニャーン!!」

 呼ばれてないのにジャジャジャジャーン!!とばかりにアト子様の胸に飛び込む。

 アト子様はすぐに私の鳴き声に気付いて顔を上げた。

「あ、アイラ!?」

 アト子様のびっくりした……と言うよりは、ぎょっとした顔を見たのは初めてではないかしら?

 アト子様がとっさに手を広げる。

 さすがマイスイートダーリン! 今、あなたの胸に飛び込んでいくわ!

 数秒後、私はアト子様の胸に見事着地した!――はずだったのだけれども、ああ、なんということでしょうか! あの無駄に精巧な疑似おっぱいに、ボヨヨンと撥ね飛ばされてしまったのだ!

 さすがにこの事態を予測していなかった私は、アト子様の足元の石畳にモロに顔から着地した。

「ブニャッ!!」

「アイラーッ!!」

 ああ、笑顔のお星様が脳内をグルグル回っている……。

 こうして私は鼻血を流しつつではあったものの、アト子様と再会できたことにほっとしたのだった。

――無茶をして追い掛けてきた私を、アト子様は長々と説教したあとで、当然カレリアに戻そうとした。嫌ニャ嫌ニャと駄々をこねる私に言い聞かせる。

「いいですか。リンナは敵地です。君を危険な目に遭わすわけにはいかない」

 そんなことはわかっている。でも、嫌な予感がしてならないのだ。
 
 頑固に言うことを聞かない私に、アト子様が「やれやれ」と溜め息を吐いた。
 
「仕方がない。こうなればもう一度キャリーバッグに詰めて……」

「……副総帥、お待ちください」

 ずっと黙っていたアト子様の部下が、テーブルに手をついて立ち上がった。

「奥様のその大きさの体なら、あの警備と結界を掻い潜ることが可能なのでは?」
 
 んん? 結界ってなんのこと?
しおりを挟む
感想 46

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【短編】淫紋を付けられたただのモブです~なぜか魔王に溺愛されて~

双真満月
恋愛
不憫なメイドと、彼女を溺愛する魔王の話(短編)。 なんちゃってファンタジー、タイトルに反してシリアスです。 ※小説家になろうでも掲載中。 ※一万文字ちょっとの短編、メイド視点と魔王視点両方あり。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

泡風呂を楽しんでいただけなのに、空中から落ちてきた異世界騎士が「離れられないし目も瞑りたくない」とガン見してきた時の私の対応。

待鳥園子
恋愛
半年に一度仕事を頑張ったご褒美に一人で高級ラグジョアリーホテルの泡風呂を楽しんでたら、いきなり異世界騎士が落ちてきてあれこれ言い訳しつつ泡に隠れた体をジロジロ見てくる話。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

兄様達の愛が止まりません!

恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。 そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。 屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。 やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。 無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。 叔父の家には二人の兄がいた。 そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

処理中です...