猫に転生(う)まれて愛でられたいっ!~宮廷魔術師はメイドの下僕~ 

東 万里央(あずま まりお)

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本編

そんニャこんニャで大団円(8)

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 こうしていまいちシリアスになり切れない、猫まみれの数十年に渡る誤解を解いた私たちは、三人と一匹と魔術師たちでカレリアに帰ることになった。

 リンナの今後がちょっと心配ではあるものの、あのどM王太子はかなり有能だそうだから、即位してしまえばなんとかなるだろう。それにしても、瓢箪から駒とはこのことだ。だって、まさかあの王太子がマリカ様にーー

 あれこれ考えつつ関所を潜ろうとしていると、背後から「待ってください!」と聞き覚えのある声で呼び止められた。

 こ、この声は元俺様アビシニアンもどき、現在は犬嫌い、かつ守備範囲がやたらと広い節操なしの、純血種だけが取り柄のカイ・ミスカじゃないの!

 カイは相変わらず忍者な格好で、荒い息を吐いて私たちを追いかけてきた。

 アトス様が眼鏡の向こうから絶対零度の眼差しを向ける。フリージングコフィ○を食らった某聖闘士みたいになりそうな冷たさだった。

「リンナに見送りは頼まなかったはずですが、何をしに来たのですか?」

 ううっ、アトス様の背後で渦巻く怒りの暗黒オーラが怖い。そりゃあ、オフクロとヨメを口説かれていたんだから、アトス様からすれば敵ところじゃないのよね。

 カイは一体どう答えるのだろうか。

 すると、カイは意外過ぎる行動を取った。なんと、深々と頭を下げたかと思うと、私たちをこう呼んだのである。

「お義父さん! お義母さん!」

 私は「へ?」と間抜けな声を上げた。お義父さん、お義母さんっておっさん夫婦のこと? なら、アトス様と私に頭を下げるのはおかしい。

 頭にハテナマークを浮かべる私たちに、カイは選挙の応援演説さながらの、朗々とした口調でそう呼ぶ理由を説明をしてくれた。

「お義父さんは純血種のペルシャン族と人間の混血、お義母さんは先祖返りとは言え、変身できる数少ない猫族です。となれば、二人の間に生まれる子どもは猫族になる可能性が高い!」

 ほうほう、なるほど。

「そこで! おふたりのお嬢さんをヨメにいただきたいのです!」

 確かに猫族を希望するなら、世界中を探し回るよりも、その方が効率いいわよね……って、ちょっと待ったあ!

「私たちはまだ結婚したばっかで子どもなんていないわよ!」

「将来生まれるお嬢さんですよ! 予約しておきたいんです! お義母さんは子どもをバンバン産めるいい尻をしてらっしゃる。きっと五人も十人もできるに違いない。どうぞ俺にも結婚のチャンスを! お慈悲を~!」

 ちょ、カイ、あんたキャラが180度変わっているわよ! 純血種のプライドはどこに飛んでったのよ! ヨメがいないと人間……いや、猫族はこんなに追い詰められるのだろうか。

 冷や汗を流す私の肩にアトス様が腕を回した。

「親子三代に渡って口説くとは……。もし私たちに娘が生まれたとして、私が君にその子を嫁がせると思うか?」

 カイがうっと口籠って目を泳がせる。これまでのおのれの所業を、走馬灯のごとく振り返っているのだろう。
 
「そ、そんな! お義父さん、どうぞお願いしますう! お二人のお嬢さんなら絶対に可愛いっ! 浮気せずに大事にしますし、マタタビの耐えない暮らしをさせますからぁ!」

 華麗に土下座を披露するカイに、アトス様はクールに背を向け眼鏡をくいと直した。関所を今度こそ揃ってくぐる。

「……どんな男にも嫁がせるつもりはないと言いそうな自分が少々怖いな。特に君にそっくりだったら……」

「えっ? 今なんて言いました?」
 
 アトス様は「なんでもありませんよ」と笑った。背後から「俺は諦めませんよー!」と、カイの叫び声が聞こえたものの、私たちは顔を見合わせて聞かなかったことにした。

 それにしてもと私は頬を押さえる。そう、将来子どもが生まれてもおかしくないのだ。前世では自分がお母さんになるなんて考えられなかった。今世だって社畜で終わると思っていたし……。人生、最後まで、ううん、最後のそのまた先までどう転ぶかわからない。

 一体どんな子がやって来てくれるだろう。アトス様に似た真っ黒な長毛種? 黒猫なら短毛種もきっと可愛いだろう。白黒ハチワレ、靴下猫の長毛種も珍しくて素敵。

 そんなことを考えてニヤニヤしていると、アトス様が私の髪に軽くキスをしてきた。

「あ、アトス様?」

「君との子どもなら、きっとどんな子だって世界で一番可愛いさ」 

「……」

 同じことを考えていたんだと驚いて目を瞬かせる。心の底から嬉しくなって、私はアトス様の腕に手を回し、体をすりすりと擦り付けた。

「アイラ、くすぐったいよ」

 さあ、皆でカレリアに帰ろう!
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