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騎竜訓練
タンデムライド
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イドリスは言われるがまま乗ろうとしたが、あぶみは自分の目線よりも上方に垂れている。
「……。一体どうやって乗るんだ?」
「あぶみを手で掴んで、鱗の間に爪先を引っ掛けて登るのだ」
言われた通り、あぶみを手を掴み、金属のような鱗で覆われたドラゴンの横腹をどうにか登ろうとした――が、途端にサキルが後ろ足で立ち上がり、激しく身震いし始めた。
「ウッ!」
身体が大きく振り回され、天地も分からなくなるほどに揺れる。
しかも手の平にまだドラゴンの唾液が残っていたのか、滑って指が離れてしまい、イドリスは背中から真っ逆さまに転落した。
衝撃を覚悟して空中で受け身の体勢を取ったが、意外にも痛みが身体のどこにも襲ってこない。
ハッとして視線を上げると、背を丸くしたイドリスの身体は、いつの間にかラファトに横抱きに抱えられていた。
「……怪我はないか?」
美しい氷色の瞳に射抜かれたその瞬間、心臓の鼓動が大きく跳ねた。
しっかりと抱かれた腕の彼の胸のぬくもりが身体の奥に入り、全身に熱が回る。
地面に降ろされた後にも、背中から腰をすっと撫でてから離れたその手の感触に、意識が遠のくような眩暈がした。
もっと、こんな、分厚い服越しでなくて……直に、触って欲しい……。
「!?」
危うい瞬間に目が覚めるように意識がハッキリして、イドリスはラファトの顎に肘鉄を喰らわせた。
「怪我はないかだと……貴様、一体何のつもりだ。俺のことを部下の慰みものにしようとしているのはどこの誰だ!」
「勿論この私だが」
「~~~っ」
全く会話にならない。
それにしても、先ほどの妙な感覚は一体なんだったのだろう。
自分ではない誰かが、この体の中で何かを訴えているかのような……。
身震いしながらイドリスはもう一度布で手とあぶみをよく拭いた。
今度は暴れられる隙を与えることなく、なるべく体重をかけないよう一瞬でひらりと背に乗る。
「おお。できたではないか」
ラファトが感心するのも束の間、またもサキルは後ろ足で立ち、金切り声で叫び始めた。
条件反射で鳥肌が立ってしまうのを耐え、歯を食いしばってあぶみに体重をかける。
「気にせず、足で強く腹を蹴ってみろ!」
下から叫ばれたが、余りにも揺さぶられ過ぎて蹴るどころではない。
「――仕方ない」
呆れたようなぼやきと共に、ラファトが大地を蹴った。
まるで軽業師のような身軽さで、その身体がストンとイドリスの背後に収まる。
その両腕が素早く手綱を奪い、次の瞬間、イドリスの尻に響くほどに強く、ドラゴンの腹がドンと蹴られた。
二人の両脇で大きく羽根が広がり、ブワッと強い風が巻き起こる。
一瞬の内にドラゴンが後足で大地を蹴り、城門があっという間に眼下に遠ざかった。
「飛んだ!」
イドリスは感動して思わず叫んだ。
背中に相手の体温が密着しているが、もはや気にしている余裕などない。
「まだ浮いているだけだ。次は前進――体重をしっかりかけて、もう一度腹を蹴る。やってみろ!」
「う……分かった……っ」
先程味わった蹴りの強さの感覚を、そのまま自分の足で再現するように、強くドラゴンの腹を蹴る。
今度は意志が伝わり、サキルは羽根で風を切って、草原を北へ北へと飛び進み始めた。
イドリスが下を見ると、竜舎で思い思いに過ごす、色とりどりのドラゴンたちの様子が見える。
広く見渡せるようになった大地の向こうには、群れを作って移動しているドラゴンたちもいて、朝靄にけぶるその様は余りにも幻想的だった。
「高度を上げるぞ。私に寄りかかれ」
ラファトが耳元で囁く。
「……お前、あぶみもないのにそんなことをしたら……っ」
彼は鞍の後ろにただ乗っているだけで、その足を支えるものは何もない。
「大丈夫だ。私は赤ん坊の頃から裸のドラゴンに乗って飛んでいた」
その言葉を信じて、イドリスは言われるがまま身体を後ろに倒した。
背中を逞しい胸に完全に預けると、またあの不思議な官能が下腹をくすぐりだす。
それが高く高く空を昇っていく快感から来るものなのか、それとも別の何かによるものなのか……イドリスには分からない。
激しい風圧と浮遊感で心細くもあるのに、絶対的な守護の神に守られているような、この上ない安心感に包まれている。
――相手は、油断してはならない敵だというのに。
「ああ……っ」
耐え切れなくなって、喘ぐような溜息をついた。
まるで性的に達したのあとのように、全身が心地よくフワフワとする。
こんな感覚は生まれて初めてで、どうしたらいいのか分からない。
速度が上がり、もはや風の音しか聞こえないはずなのに、誰かが耳元で切実に叫んでいる。
……もっと抱いてくれ!
もっともっと深く、強く……この絶望的なほどの飢えを、甘い抱擁で満たして欲しい、と。
恐ろしくなって、イドリスは叫んだ。
「もういい……、もう……っ、下ろしてくれ……っ! 一人で乗れる……!」
「……。一体どうやって乗るんだ?」
「あぶみを手で掴んで、鱗の間に爪先を引っ掛けて登るのだ」
言われた通り、あぶみを手を掴み、金属のような鱗で覆われたドラゴンの横腹をどうにか登ろうとした――が、途端にサキルが後ろ足で立ち上がり、激しく身震いし始めた。
「ウッ!」
身体が大きく振り回され、天地も分からなくなるほどに揺れる。
しかも手の平にまだドラゴンの唾液が残っていたのか、滑って指が離れてしまい、イドリスは背中から真っ逆さまに転落した。
衝撃を覚悟して空中で受け身の体勢を取ったが、意外にも痛みが身体のどこにも襲ってこない。
ハッとして視線を上げると、背を丸くしたイドリスの身体は、いつの間にかラファトに横抱きに抱えられていた。
「……怪我はないか?」
美しい氷色の瞳に射抜かれたその瞬間、心臓の鼓動が大きく跳ねた。
しっかりと抱かれた腕の彼の胸のぬくもりが身体の奥に入り、全身に熱が回る。
地面に降ろされた後にも、背中から腰をすっと撫でてから離れたその手の感触に、意識が遠のくような眩暈がした。
もっと、こんな、分厚い服越しでなくて……直に、触って欲しい……。
「!?」
危うい瞬間に目が覚めるように意識がハッキリして、イドリスはラファトの顎に肘鉄を喰らわせた。
「怪我はないかだと……貴様、一体何のつもりだ。俺のことを部下の慰みものにしようとしているのはどこの誰だ!」
「勿論この私だが」
「~~~っ」
全く会話にならない。
それにしても、先ほどの妙な感覚は一体なんだったのだろう。
自分ではない誰かが、この体の中で何かを訴えているかのような……。
身震いしながらイドリスはもう一度布で手とあぶみをよく拭いた。
今度は暴れられる隙を与えることなく、なるべく体重をかけないよう一瞬でひらりと背に乗る。
「おお。できたではないか」
ラファトが感心するのも束の間、またもサキルは後ろ足で立ち、金切り声で叫び始めた。
条件反射で鳥肌が立ってしまうのを耐え、歯を食いしばってあぶみに体重をかける。
「気にせず、足で強く腹を蹴ってみろ!」
下から叫ばれたが、余りにも揺さぶられ過ぎて蹴るどころではない。
「――仕方ない」
呆れたようなぼやきと共に、ラファトが大地を蹴った。
まるで軽業師のような身軽さで、その身体がストンとイドリスの背後に収まる。
その両腕が素早く手綱を奪い、次の瞬間、イドリスの尻に響くほどに強く、ドラゴンの腹がドンと蹴られた。
二人の両脇で大きく羽根が広がり、ブワッと強い風が巻き起こる。
一瞬の内にドラゴンが後足で大地を蹴り、城門があっという間に眼下に遠ざかった。
「飛んだ!」
イドリスは感動して思わず叫んだ。
背中に相手の体温が密着しているが、もはや気にしている余裕などない。
「まだ浮いているだけだ。次は前進――体重をしっかりかけて、もう一度腹を蹴る。やってみろ!」
「う……分かった……っ」
先程味わった蹴りの強さの感覚を、そのまま自分の足で再現するように、強くドラゴンの腹を蹴る。
今度は意志が伝わり、サキルは羽根で風を切って、草原を北へ北へと飛び進み始めた。
イドリスが下を見ると、竜舎で思い思いに過ごす、色とりどりのドラゴンたちの様子が見える。
広く見渡せるようになった大地の向こうには、群れを作って移動しているドラゴンたちもいて、朝靄にけぶるその様は余りにも幻想的だった。
「高度を上げるぞ。私に寄りかかれ」
ラファトが耳元で囁く。
「……お前、あぶみもないのにそんなことをしたら……っ」
彼は鞍の後ろにただ乗っているだけで、その足を支えるものは何もない。
「大丈夫だ。私は赤ん坊の頃から裸のドラゴンに乗って飛んでいた」
その言葉を信じて、イドリスは言われるがまま身体を後ろに倒した。
背中を逞しい胸に完全に預けると、またあの不思議な官能が下腹をくすぐりだす。
それが高く高く空を昇っていく快感から来るものなのか、それとも別の何かによるものなのか……イドリスには分からない。
激しい風圧と浮遊感で心細くもあるのに、絶対的な守護の神に守られているような、この上ない安心感に包まれている。
――相手は、油断してはならない敵だというのに。
「ああ……っ」
耐え切れなくなって、喘ぐような溜息をついた。
まるで性的に達したのあとのように、全身が心地よくフワフワとする。
こんな感覚は生まれて初めてで、どうしたらいいのか分からない。
速度が上がり、もはや風の音しか聞こえないはずなのに、誰かが耳元で切実に叫んでいる。
……もっと抱いてくれ!
もっともっと深く、強く……この絶望的なほどの飢えを、甘い抱擁で満たして欲しい、と。
恐ろしくなって、イドリスは叫んだ。
「もういい……、もう……っ、下ろしてくれ……っ! 一人で乗れる……!」
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