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夢渡る者・一
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「今回の調査、適当に報告したっていいんじゃねぇ?」
夕暮れの街並みを見渡せる高台の公園のブランコに座り、ゆらゆらと椅子を揺らしながら、クロは空に向けてふぅっと煙を吐いた。だいぶ冷たくなった晩秋の風が、彼らの前を吹き抜ける。
煙草の臭いが苦手な茜はあからさまに不機嫌そうにひげをひくつかせ、ひらりとクロの肩から飛び降りた。
「ダメよ!見た目はあんなだけど、シロは勘が異様に鋭いのよ。適当な報告なんてたら一発で見抜くわよ。バレて、ペナルティーで調査以外の雑用を課されたいなら別だけど」
「調査以外の雑用だって、ほとんど俺がしている」という言葉は出さない代わりに、長い溜息をついた。
「適当なって言ってもよ、どうせ当人は寝てるだけなんだぜ?律儀に経過観察しにいかなくても、身内に電話一本入れて状態を訊けばいいんじゃねぇの?」
「ダメだってば!」
短くなった煙草を最後に一吸いして、うんざりしたように頭を掻いた。
今回の対象者は昏睡状態に陥っているため、その息子に現状に変化はないか、覚醒の兆しの有無などを面談し確認するはずだったのだが、対象者の顔を見ることすらできず門前払いされていたのだった。
「神経質な感じの息子さんだって、事前に言っておいたのに・・・クロったら、そんなだらしない格好して。大人だっていうならスーツの一着くらいまともに着こなしてちょうだい!」
「んだよ!記憶ねぇんだから、ネクタイなんて絞められるわけねぇだろ?」
「煙草の吸い方は覚えているのに、都合のいい記憶喪失ね」
成人には見えない小柄な体格に覇気のない目つき、ボサボサに伸びたままの黒髪、片時も手放さない煙草・・・
確かに研究所の調査員としての品位も誠意も感じられない。不審者だと思られても仕方なかった。
「もしかしたら、俺って、スーツ着るような仕事したことねぇとか?」
「なによ、それ」
「だってよ、俺は・・・」
先の調査で、自分には謎の能力が隠されているらしいということは分かった。記憶の方は相変わらずだが、もし能力があったのだとしたら、常人のような生活はしていなかった可能性もある。
シロに拾われた時にも、和装だったというし。
考えれば考えるほど、混乱の度合いが深くなる。
気ばかり焦って、他人の生活環境の調査なんてどうだっていい、というのが正直なところだった。
イライラした気持ちが日々募るばかり。
「明日こそちゃんと身支度してちょうだいよ!低身長の男性用スーツって、注文するの大変だったのよ?裾直しだって、サイズ調べるのも一苦労で・・・」
「え?これ、お前が買ったのかよ」
「何よ、馬鹿にしてるの?アタシだって調査員なのよ。事務仕事、何年こなしてると思ってるの?」
「小動物が事務やってる研究所って、どうかしてるぜ」
「うるさいわね!煙草買ってあげないわよ?」
白貂が男性用スーツをどうやって注文しているのか、新たな謎に頭をいっぱいにしながら、小言を言い続ける彼女を肩に乗せたクロは帰路についた。
しおりを挟む 夕暮れの街並みを見渡せる高台の公園のブランコに座り、ゆらゆらと椅子を揺らしながら、クロは空に向けてふぅっと煙を吐いた。だいぶ冷たくなった晩秋の風が、彼らの前を吹き抜ける。
煙草の臭いが苦手な茜はあからさまに不機嫌そうにひげをひくつかせ、ひらりとクロの肩から飛び降りた。
「ダメよ!見た目はあんなだけど、シロは勘が異様に鋭いのよ。適当な報告なんてたら一発で見抜くわよ。バレて、ペナルティーで調査以外の雑用を課されたいなら別だけど」
「調査以外の雑用だって、ほとんど俺がしている」という言葉は出さない代わりに、長い溜息をついた。
「適当なって言ってもよ、どうせ当人は寝てるだけなんだぜ?律儀に経過観察しにいかなくても、身内に電話一本入れて状態を訊けばいいんじゃねぇの?」
「ダメだってば!」
短くなった煙草を最後に一吸いして、うんざりしたように頭を掻いた。
今回の対象者は昏睡状態に陥っているため、その息子に現状に変化はないか、覚醒の兆しの有無などを面談し確認するはずだったのだが、対象者の顔を見ることすらできず門前払いされていたのだった。
「神経質な感じの息子さんだって、事前に言っておいたのに・・・クロったら、そんなだらしない格好して。大人だっていうならスーツの一着くらいまともに着こなしてちょうだい!」
「んだよ!記憶ねぇんだから、ネクタイなんて絞められるわけねぇだろ?」
「煙草の吸い方は覚えているのに、都合のいい記憶喪失ね」
成人には見えない小柄な体格に覇気のない目つき、ボサボサに伸びたままの黒髪、片時も手放さない煙草・・・
確かに研究所の調査員としての品位も誠意も感じられない。不審者だと思られても仕方なかった。
「もしかしたら、俺って、スーツ着るような仕事したことねぇとか?」
「なによ、それ」
「だってよ、俺は・・・」
先の調査で、自分には謎の能力が隠されているらしいということは分かった。記憶の方は相変わらずだが、もし能力があったのだとしたら、常人のような生活はしていなかった可能性もある。
シロに拾われた時にも、和装だったというし。
考えれば考えるほど、混乱の度合いが深くなる。
気ばかり焦って、他人の生活環境の調査なんてどうだっていい、というのが正直なところだった。
イライラした気持ちが日々募るばかり。
「明日こそちゃんと身支度してちょうだいよ!低身長の男性用スーツって、注文するの大変だったのよ?裾直しだって、サイズ調べるのも一苦労で・・・」
「え?これ、お前が買ったのかよ」
「何よ、馬鹿にしてるの?アタシだって調査員なのよ。事務仕事、何年こなしてると思ってるの?」
「小動物が事務やってる研究所って、どうかしてるぜ」
「うるさいわね!煙草買ってあげないわよ?」
白貂が男性用スーツをどうやって注文しているのか、新たな謎に頭をいっぱいにしながら、小言を言い続ける彼女を肩に乗せたクロは帰路についた。
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