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刃持つ男・一
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灰色の高い壁にひっそりと開けられた穴のような扉が、静かに開く。
制服姿の中年男性に伴われ、坊主頭の長身の青年が無言で表に出てきた。手荷物はくたびれたリュックが一つ、身なりも質素なシャツにジャンパー、着古したデニムのパンツ。
久々に感じる外気の冷たさと、遮る物のない真っすぐな日差しに目を細め、わずかに眉をひそめた。
「もう、戻ってくるなよ」
制服の男が、扉の外の風景を寂しそうに外を眺める青年に声をかけた。
「お前はもっと慎重に行動しなければならない。もっと他人を気遣うんだ。それで、もうあんな無謀なことはするな」
「・・・」
「分かっているのか?自制しろ」
厳しい物言いながらも、温かな情のこもった声で諭すように、下を向いている青年の背中を叩いた。
「・・・はい。お世話になりました」
深々と頭を下げ、再び明るい屋外を眺めた。
戻ってきてしまった。
このまま一生、戻ってきてはいけないと思っていたのに・・・
青年は、唇を咬んで、覚悟を決めて一歩踏み出した。
刑務官に言われなくても分かっている。十分、分ってはいるのだ。けれど、どうしようもない。自分ではどうしても抑えることができない。
だから、罪を償うために、死ぬまで塀の中にいようと決めたのに。
逡巡した後、ゆっくりと歩きだした青年の背後で、扉の閉まる重い音がした。
これから、やっていけるだろうか・・・
「なぁ、あんたさ、大谷堅さんだろ?」
「!?」
不躾な問いかけに面食らった拍子に、反射的に両腕を上げ、インファイタースタイルの構えをとってしまった。その行動に驚き、自分の気質に嫌悪した。
「おいおい、何の真似だよ。喧嘩っ早いとは聞いてたけど、どんだけ凶暴なんだよ。野生動物か」
子供のような体格の男は、吸っていた煙草の灰を慣れた手つきで落としながら「俺はやり合うつもりはないぜ」と言った。
寝ぼけた目元に覇気のない雰囲気なのだが、全く隙がない。本人が意識しているかいないかは分からないが、軽率に手出ししては返り討ちにあうだろうと、堅は本能的に察知した。
出所したばかりの前科者に声をかけてくる人物とはいったい・・・
「大谷堅で、間違いないんだろ?俺は西上総って研究所から派遣された調査員なんだ。怪しい者じゃねぇから警戒すんなよ」
怪しすぎるだろ。
この状況をうまく把握できず、堅は戸惑った。
怪しくないと言われても、小柄で幼い顔立ち、黒いシャツの上に黒いコートを引っかけ、ボサボサの髪を掻きながら煙草を吹かしている男が、まともな調査員とは到底思えない。しかも何の研究をしているかも曖昧にしていることも胡散臭い。
信用していいものなのか、こんな男。
堅は拳を収めることなく、じっとクロを観察した。
「ほら!やっぱりクロの説明じゃ信用されないって言ったじゃない。だからスーツ着て来ましょうっていったのに、聞きもしないんだから」
「うわ!」
怪しい男が背負っていたリュックから人語を話す動物が飛び出してきた。
その白い小動物を目で追いながら、後ずさった。
「あ~ぁ、見ろよ。またややこしくなっちまったじゃねぇか」
クロは茜を肩に乗せ、今にも尻もちをつきそうな体制で動揺している堅を見せた。
「初対面の対象者の前に突然お前が出てくると、調査の説明どころじゃなくなるから、自己紹介的な会話が終わるまで隠れてろって言ったじゃねぇか。何度、対象者をビビらせて混乱させたら分かるんだよ。手間かけんなよ」
自分の顔を貂の顔に近づけ、わざと煙草の煙を吹きかけた。
「何言ってるのよ!新米調査員のくせに!アタシがサポートしないと無茶して調査どころじゃなくなるじゃない。今だって、アンタのその容姿と態度が不審がられているんでしょ!」
「違うね。小動物が人の言葉をベラベラしゃべるのが気味悪ぃんだってよ」
「なんですって!チビのくせに!」
「オヤジとのケンカのストレスを俺で晴らすな!ババァ」
「シロは今、関係ないでしょ!」
この状況はどういうことなのだうか。
自分のことを放置して口喧嘩を始めたガラの悪い男と小動物。あまりに現実離れした光景に眩暈がした。
「あの・・・取り込み中のようでしたら、自分は、お邪魔なようなのでここで・・・」
お互い一歩も引かない言い争いの終結に待ちくたびれて立ち去ろうとした堅の前に、新たな出迎えがやってきた。
「待て」
眼光鋭い男たちは堅の行く先に立ちふさがり、憎々し気に彼を睨んだ。
「お前、大谷だな」
「仲間の仇、覚悟しろ!!」
口々に宣言するやいなや、我先にと凶器を振り下ろした。
制服姿の中年男性に伴われ、坊主頭の長身の青年が無言で表に出てきた。手荷物はくたびれたリュックが一つ、身なりも質素なシャツにジャンパー、着古したデニムのパンツ。
久々に感じる外気の冷たさと、遮る物のない真っすぐな日差しに目を細め、わずかに眉をひそめた。
「もう、戻ってくるなよ」
制服の男が、扉の外の風景を寂しそうに外を眺める青年に声をかけた。
「お前はもっと慎重に行動しなければならない。もっと他人を気遣うんだ。それで、もうあんな無謀なことはするな」
「・・・」
「分かっているのか?自制しろ」
厳しい物言いながらも、温かな情のこもった声で諭すように、下を向いている青年の背中を叩いた。
「・・・はい。お世話になりました」
深々と頭を下げ、再び明るい屋外を眺めた。
戻ってきてしまった。
このまま一生、戻ってきてはいけないと思っていたのに・・・
青年は、唇を咬んで、覚悟を決めて一歩踏み出した。
刑務官に言われなくても分かっている。十分、分ってはいるのだ。けれど、どうしようもない。自分ではどうしても抑えることができない。
だから、罪を償うために、死ぬまで塀の中にいようと決めたのに。
逡巡した後、ゆっくりと歩きだした青年の背後で、扉の閉まる重い音がした。
これから、やっていけるだろうか・・・
「なぁ、あんたさ、大谷堅さんだろ?」
「!?」
不躾な問いかけに面食らった拍子に、反射的に両腕を上げ、インファイタースタイルの構えをとってしまった。その行動に驚き、自分の気質に嫌悪した。
「おいおい、何の真似だよ。喧嘩っ早いとは聞いてたけど、どんだけ凶暴なんだよ。野生動物か」
子供のような体格の男は、吸っていた煙草の灰を慣れた手つきで落としながら「俺はやり合うつもりはないぜ」と言った。
寝ぼけた目元に覇気のない雰囲気なのだが、全く隙がない。本人が意識しているかいないかは分からないが、軽率に手出ししては返り討ちにあうだろうと、堅は本能的に察知した。
出所したばかりの前科者に声をかけてくる人物とはいったい・・・
「大谷堅で、間違いないんだろ?俺は西上総って研究所から派遣された調査員なんだ。怪しい者じゃねぇから警戒すんなよ」
怪しすぎるだろ。
この状況をうまく把握できず、堅は戸惑った。
怪しくないと言われても、小柄で幼い顔立ち、黒いシャツの上に黒いコートを引っかけ、ボサボサの髪を掻きながら煙草を吹かしている男が、まともな調査員とは到底思えない。しかも何の研究をしているかも曖昧にしていることも胡散臭い。
信用していいものなのか、こんな男。
堅は拳を収めることなく、じっとクロを観察した。
「ほら!やっぱりクロの説明じゃ信用されないって言ったじゃない。だからスーツ着て来ましょうっていったのに、聞きもしないんだから」
「うわ!」
怪しい男が背負っていたリュックから人語を話す動物が飛び出してきた。
その白い小動物を目で追いながら、後ずさった。
「あ~ぁ、見ろよ。またややこしくなっちまったじゃねぇか」
クロは茜を肩に乗せ、今にも尻もちをつきそうな体制で動揺している堅を見せた。
「初対面の対象者の前に突然お前が出てくると、調査の説明どころじゃなくなるから、自己紹介的な会話が終わるまで隠れてろって言ったじゃねぇか。何度、対象者をビビらせて混乱させたら分かるんだよ。手間かけんなよ」
自分の顔を貂の顔に近づけ、わざと煙草の煙を吹きかけた。
「何言ってるのよ!新米調査員のくせに!アタシがサポートしないと無茶して調査どころじゃなくなるじゃない。今だって、アンタのその容姿と態度が不審がられているんでしょ!」
「違うね。小動物が人の言葉をベラベラしゃべるのが気味悪ぃんだってよ」
「なんですって!チビのくせに!」
「オヤジとのケンカのストレスを俺で晴らすな!ババァ」
「シロは今、関係ないでしょ!」
この状況はどういうことなのだうか。
自分のことを放置して口喧嘩を始めたガラの悪い男と小動物。あまりに現実離れした光景に眩暈がした。
「あの・・・取り込み中のようでしたら、自分は、お邪魔なようなのでここで・・・」
お互い一歩も引かない言い争いの終結に待ちくたびれて立ち去ろうとした堅の前に、新たな出迎えがやってきた。
「待て」
眼光鋭い男たちは堅の行く先に立ちふさがり、憎々し気に彼を睨んだ。
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