西上総神通力研究所

智春

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刃持つ男・四

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体中が痛い。

クロは包帯を巻かれた右腕を刺激しないように、ゆっくり煙草をくわえた。向かいの椅子では、湯飲みでブラックコーヒーを啜るシロが上機嫌で報告書を読んでいる。

「はい!大変良いでしょう。素晴らしい出来ですよ。ここまで詳細に〈山嵐〉の能力を調べ上げたクロくんには、何かご褒美を差し上げなければなりませんね!」

頭を撫でようと伸ばしてきたシロの手を払おうと身を反らせたら、背中に激痛が走った。痛みに一瞬動きを止めた隙に、されるがまま「いい子、いい子」されてしまった。憮然とするクロに「本当に、最高の助手です」と、さらに目を細めて笑った。
調査報告書の出来が良いのは当たり前だ。堅が心を開いてくれたことだけでなく、クロがその身をもって彼の能力を体感していたからだった。

雪村邸での一件以降、クロは自分の能力を徐々に制御しつつあった。
調査中、過去の因縁による報復として襲われた堅を救った時も、自分でも驚くほど冷静で機敏に動けた。どこが急所で、どの程度の力量で相手の戦意を奪えるか、瞬時に判断できたし、的確に実行できた。さらに、襲ってきた集団を黙らせた後に対象者と手合わせする余力まであった。

記憶が戻らなくても、力がコントロールできれば誰かの役に立てる。正直、嬉しかった。
痛みに顔をしかめたクロは、利き手ではない左手でぎこちなく煙草に火を点けた。

〈山嵐〉の能力は、自分を危険から守るだけでなく、弱い者をも救い出そうとするものだった。だが、一度解放してしまうと歯止めがきかなくなるという欠点があった。暴力に暴力で対抗するうちに、自制できなくなってしまうのだ。
理不尽な暴力から誰かを助けたいと思うなどの刺激を受けると、体中の血液がカッと沸き上がり、全身を硬質化させる。特に両腕の硬度は高い。その拳を武器に、敵が完全に倒れるまで戦い続けるという。

それは彼なりの正義の行使ではあるが、同時に、飼い慣らせない野獣を宿しているものでもある。そのジレンマに、幼い頃から悩み続けていたのだった。

「で、どっちが勝ったのですか?」

シロは糸目でクロを見つめ、ガムシロップがたっぷり混ぜられたコーヒーを差し出した。撫でられたことをまだ不服に思っているクロは、不貞腐れた顔のままカップを受け取った。

「どっちだっていいだろ、そんなこと」

勝敗なんてない。そんなもの、つける必要はない。

物心つく頃から自身の異常な能力に悩んでいた堅は、クロや茜と出会い、力をぶつけ合い、何かが吹っ切れたようだった。彼と組み合った時、何とも言えない感動を覚えたが、その理由を考えはしなかった。「自分の思うままに、これからは前向きに生きたい」と晴れやかな顔で堅は笑った。その笑顔でクロも癒された。

「クロに決まっているじゃない。愚問ね」

茜は険のある口調でシロを一瞥した。「茜さん、最近怖いですよ」と苦笑いして報告書を読み返し始めたシロに気づかれないように、茜にこっそり耳打ちした。

「なぁ、あの件、オヤジに言わなくていいのか?」

茜は寝転がっていた机の上からクロの肩に飛び移った。

「いいのよ、何も言わなくて。調査とは関係ないわ」

「そうか。ならいいか」

痛めた右腕に障らないようにバランスをとっている茜は「いきましょ」と鼻を上げた。

堅の調査が終了し、お互いのこれからを励まし合った別れ際、クロたちの前に一台のセダンが停まった。
降りてきたのは20代くらいの背の高い男で、気品のある雰囲気をまとっていた。その男は、クロの顔を見て一瞬目を見張ったようだったが、すぐ微笑みを浮かべ堅のところは真っすぐ歩み寄った。戸惑う堅に対して、物腰柔らかく接している。
その後、何事か話し合っているようだったが、自分たちは引き上げようと茜に促され立ち去ったのだった。

「あいつが、苦しまずにいられるならそれでいい」

肩に乗って「買出しに付き合ってくれない?」と尻尾を振っている相棒の頭を撫でたクロは、打撲で負傷した腕で山道の自転車はしんどいだろうな、と思いながら天井に向けて煙を吹いた。

特殊能力者の調査が一件、終了した。



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