西上総神通力研究所

智春

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不死の獣・三

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ファストフード店の一番奥の席に向かい合って座り、クロたちは調査を開始した。

対象者・新藤七緒には〈猫又〉が憑いている。

この妖猫は「艶姫」という名で、数百年前に寺院で僧侶に飼われていた三毛猫だった。不注意で負った怪我がもとで急死した後、精神を病んだ主人の手によって、黄泉がえった魂が人に憑依しているのだ。

「昨年、ワシのもとへ来た西上総の者にも『反魂の法』は知らぬと申したはずじゃが、その者は主に伝えてはおらぬのか?」

「俺は前任の調査員のことは知らねぇよ」

「何度訊かれても、答えは変わらん」

目の前の今時の女子高生が発したとは思えない、しわがれた声に慣れない。クロは店内の客に見えないように膝に茜をすわらせた。
アイスコーヒーを舐めるように飲んだ艶姫は、いかにも面倒くさいというふうに背を反らせて大あくびした。

「本当にそうなのか?俺の雇い主は疑っているんだよ。当時は猫だったとしても、何か覚えてねぇかな?チラッとでも見てねぇか?その指南書の紙面をさ」

「知らぬと言ったら、知らぬのだ」

ムッとした彼女は「ここは禁煙席だとしていて吸っているのか、無作法な奴じゃ」と煙草をくわえているクロに嫌味を言って威嚇した。「火は点けてねぇからセーフだ」とクロも応えた。

「じゃぁ、姫さんが乗り移る体はどうやって選んでいるんだよ。しっくりくる「器」って、毎回どうやって見つけてるんだ?」

ガムシロップをありったけ入れたコーヒーをがぶ飲みしたクロは質問の矛先を変えた。

「さぁな。ワシにも分からぬ。・・・いつのまにか、新たな人の身体に紛れていることに気づくのじゃ。意識がぼやけ、次に目覚めた時には見知らぬ場所の見知らぬ者になっておるのでな」

「拒絶反応みてぇなやつはねぇのか?違和感があるとか、器の自我と折り合い悪くて追い出されるとか」

「分からぬ。ワシの意思で何かできたことはない」

禁術の影響なのか、本人は特別何かの術を施しているわけではないと言うが・・・
この場限りの嘘なのか、本心なのか、その表情からは読み取れない。クロは黙って話を聞いていた茜を顔を見合わせ、今日はこれ以上の成果は見込めないだろうし、ひとまず身元は判明しているし、今後の予定を確認して再調査した方がいいかもしれない。

「きゃ~!可愛い~!」

突然店内に響き渡った女の嬌声に、クロは一瞬何が起こったか反応できなかった。

「うわぁ!生きてるじゃん、コレ。フェレットかな?見てよ、スゴくな~い?」

「やだ!マジで生きてるよ。インスタにあげようよ」

「ちょっと借りま~す」

気づいた時には、自分の膝に座っていた茜を奪われていた。
真冬なのに胸元の大きく開いたニットのワンピースを着た派手な女が、魔女のような長い爪で茜の腹を掴んでいる。茜は必死に身をよじるが、女は連れの女と一緒に無理やり撫でまくり逃がそうとしない。

「こら、やめろ」

暴れる白貂をまるで玩具のように弄ぶ女たちは「ちょっとくらい触らせてよ、すぐ返すから」と聞く耳を持たない。あまり騒いでは、隠れて小動物を店内に連れ込んだことが店員に知れて大ごとになってしまう。女たちをおとなしく引き取らせるにはどうしたらいいか・・・

クロは人差し指と中指を立てた手首をクッと捻った。

「きゃ!」

茜を取り上げた女が肩にかけていたブランドバッグの側面が縦にスパッと避けた。フロア中に、化粧品やら小物やら、ごちゃごちゃした女の荷物が散らばった。

「やだ!なんで?」

状況が飲み込めずにいる女から茜を奪い取り、混乱に乗じて店から逃げ出した。
ニコチンが切れて苛立った気分が、少し晴れたようだ。クロはそのまま、人目から茜を隠し、雑踏の中に紛れてしまうことにした。対象者には、後から連絡すればいい・・・

「待て!」

大通りから脇道に入ったところで、威圧的な声が呼び止めた。この老婆の声は、確か・・・
ふり返ると、艶姫を宿した新藤七緒が立っていた。

「お主、六花衆の者じゃな?何故、俗世でいかがわしい研究所などで下働きしておるのじゃ?」

「六花?・・・何だ、それ」

初めて聞く名前に首を傾げるクロに、対象者は憎しみのにじむ厳しい眼差しを睨んだ。
その目の奥に、主人を失い絶望の底にいる悲しい猫の姿が見えた。

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