西上総神通力研究所

智春

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真見る童・一

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「なぁ、オヤジっていつから特殊能力者の研究してんの?」

クロは、指示された窓ふきをしながら茜に訊いた。掃除のために遮光カーテンの開かれた窓から降り注ぐ日差しのもとで寝転んでいる彼女は、「さぁ、いつだったかしら」としばし考えてから続けた。

「確か、十年以上前のはずよ。ここがまだアタシの家だった頃に初めて会って、それから間借りさせてほしいって言いだして、そのまま居ついちゃったんだから」

「え?ここ、お前ン家だったのか?」

「あ!」

クロの言葉に一瞬言葉に詰まった茜は、自分の飼い主が、と補足した。その口ぶりが明らかに動揺しているようだったが、追及しないでいた。

「ちょっと図々しいでしょ?今では、自分が主人みたいに振舞ってるんだから。アタシが・・・じゃなくて、アタシの飼い主が本当の家主なのにね」

「じゃ、その本当の家主はどこ行ったんだよ?」

「さ、さぁ・・・失踪したきり、音たないわ」

視線を逸らせる茜に、くわえ煙草の灰を窓の外に払いつつ、クロはすべて真実を言っているわけではないと感じた。
でも、それには彼女なりの理由があるのだろう。記憶を失ってから唯一できた相棒を無駄に傷つけたくはない。「そっか」と一言返し、窓ふき用の雑巾をバケツで濯いだ。

この研究所は、あまりそれらしくない間取りだとずっと思っていた。
他の研究所の屋内を知っているわけではないが、台所や風呂があり、資料室として使っている部屋も、シロがいる打ち合わせや報告をする部屋も、自室として与えられた部屋も、どこも民家のような設えだと感じていた。
かつて茜たちが住んでいた家だったと聞いて、違和感が腑に落ちた。

それより、シロはどこから来た何者なのだろう?
突然やってきて、人の家に住み着き、胡散臭い研究を始めて・・・そして家主は失踪。

「ここを出た方がいいかもな」

ポツリと漏らしたクロの声は、茜に届かなかった。
同時に、来客を知らせるチャイムが鳴ったからだった。

「あら、こんな早朝から誰かしら?」

茜がトトっと走って玄関の様子を覗きに行く。その後を追ってクロが廊下を歩いていくと、訪問客と睨み合う格好の茜の姿があった。背を低くしていて、威嚇しているように見える。
睨まれているのは、年端もいかない女の子で、白い杖をついていた。

「茜、何やってるんだよ。客だろ?」

「で、でも・・・この子は・・・」

全身の毛をゾワゾワさせている相棒を抱きかかえ、下を向いたままじっと待っている女の子に「シロに用なんだろ?」と声をかけた。

「はい。所長さんに呼ばれて来ました。神木さくらと言います」

女の子はくせ毛の揺らし、ちょこっと頭を下げた。
こんな小さな女の子の知り合いもいるのかと驚き、杖から盲目ということを察したクロは手を差し出した。

「古い建物だから足元に気をつけてな。ほら、手を引いてやるから」

「ありがとうございます」

そう言って顔を上げた彼女の口元が奇妙に吊り上がっていたことに気づいたのは、クロの肩に乗って威嚇し続けている茜だけだった。
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