西上総神通力研究所

智春

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記憶の欠片

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「八尋隊長!ご無事でしたか」

自分の部隊が到着し、分宮の庭園から夜闇を突き上げる火柱を見上げた。血の繋がった家族の愛情を知らない六花の者たちにとって、仲間は家族以上の存在だ。

弟にように可愛がっている部下たちが、心配そうに自分の言動を待っている。しっかりしなければ。

「俺は大丈夫だ。棟梁からの命により、この騒動を引き起こした首謀者・分宮八千代は・・・」

そこまで言って、言葉に詰まった。胸が潰れそうだ。こみ上げてくる感情を必死で押し殺し、伝えるべき言葉を続ける。

「この手で処刑した」

一同に動揺の波が走る。
首謀者である分宮八千代は、彼の実父であることを皆知っていた。

「他の一族の者は・・・」

苦しい隊長の心中を察した隊員が、あらかた燃え尽き、今にも崩れ落ちそうな家屋敷に視線を移した。
隊長は、自身の両手をじっとりと見ながら「全員、手遅れだった」とだけ答えた。

ついさっき、自分の腕の中で消えていった命を思い、強く拳を握った。

父親の首をはねた彼は、遺された者たちを炎の中から救出しようと試みた。自力で立てる者は自分の足で、小さな子供は抱えて・・・

しかし、何もかもが遅かった。
一族は当主の施した術の影響ですでに廃人となっていた。声かけにも応じず、焦点の定まらない目をぼんやり開き、赤子のように口から涎を垂らしている。人ではなく、術を発動させるエネルギーの源となる滋養をして生かされている存在だった。

助けられなかった。

幼い男の子を抱き上げた。
その子は小さな手で彼の着物を掴んだ。けれど、顔つきは一族と同様にまともではないと一目で分かる。

ならば、たとえ正気を失っていたとしても生きながら身を焼かれ、苦しみを長引かせるくらいなら、自分のこの手で一思いに・・・

「父さん、あんた馬鹿だよ」

不死身になりたかった?一族の命を犠牲にして、たった独りになったとしても、それで満足だったのか?
付け焼き刃で特異な能力を身につけたとしても、生まれながらの能力者には敵わない。
それが理解できないほど、気が狂ってしまっていたのか・・・

自分の子を敵に回してまでも。

「八尋隊長、いかがされました?」

拳を握り黙り込んだ彼に、隊員が遠慮がちに声をかけた。

「後発隊として到着したおおとり隊からの報告で、隊長の言われた通り、奥の大広間にて一族の亡骸を確認できたそうです。我々は棟梁への報告のため、先に詰め所に戻るようにとのことでした」

「そうか、分かった。伝令ありがとうな、千早。みんなも、俺の単独行動を見逃すように頼んだりして、すまなかった」

「隊長・・・」

棟梁も酷な命令を下した者だ。
六花最強を讃えられる自分に、一族の処罰を命じるとは。確かに彼の読み通り、今回の咎人は並の六花衆では太刀打ちできない怖ろしい能力を身につけていたのだったが。

「とんだ里帰りだったぜ、棟梁」

嫌味な捨て台詞を口にした彼の頬に伝った一筋の光るものを、彼を一番慕っている後輩の隊員だけが見ていた。


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