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【高校生編】
不機嫌な熊さん
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優等生の委員長――。
誰もが私をそう称するのだけど、なぜだろう。不意にそのレッテルを脱ぎ捨ててみたくなった。
「あんたと同じだよ、私も避難場所を探してたの」
「……え」
彼が振り返り、私はその視線をまっすぐに受け止めた。
「図書室は6時までだし、コインランドリーには監視カメラがついてるでしょう?あんまり毎日通って注意でもされたら、二度と行けないじゃない」
生まれた時から父はいない。
もともと不安定だった母が、日常的に暴れるようになったのが3年前。電気やガスを止められたアパートで日に日に追い詰められ、私は生活保護を受けようと母に進言した。
でも、それがきっかけになってしまった。なにが気にくわなかったのか、母はひどく逆上して私の髪を掴んで引きずり回した。
その後は、私の顔を見れば暴力を振るうようになった。
以来、母が酔いつぶれて眠る夜9時より前には、できるだけ帰宅しないようにしている。
「私には勉強する場所が必要なの。絶対に成績を落としたくない。夜でも教科書が読める明かりさえあればそれでいいの。だからここを見つけて嬉しかったんだけとね」
「ワケアリ……か」
静かに落とされた彼の言葉に、私は頷いて続ける。
「久我君もワケアリみたいだけど?」
「俺は別に」
「じゃあさっきのは何?」
「さっきの?」
「誰に言われたんだ――って、すっごい権幕で凄んできたでしょう。ヤクザに命でも狙われてんの?」
後半は皮肉を含んだ例えだった。
でも彼は事も無げに「まあ、そんなとこ」と、つぶやく。
それがあんまり自然で、さらにヤクザなんて名詞が非日常過ぎて、怖さは感じなかった。
「そうは見えないけど、久我君って噂通りの悪い人なの?」
私の質問に彼はポカンとしていたけど、不意に片手で顔を覆って笑い出した。
「お前って、変な奴だな」
「変ってどこが?」
「いや、普通はこんな話し聞いたら引くだろう」
「うーん、ヤクザは怖いけど、久我君はヤクザじゃないみたいだし」
それに今、目の前で笑っている彼は、教室で見るよりもずっと親しみやすい空気をまとっている。
「にしたって、俺の噂、色々聞いてんだろう?」
「多少はね」
「それなら、どうしてサッサと逃げないんだよ」
「逃げたほうがいい?」
「は?」
「久我君は私に何かするつもり?」
そう聞くと、彼はまた小さく笑って頭を掻いた。
「なんもしねえけど……調子狂うな」
あきらめたような、だけど少しだけ楽しそうに息を吐いた彼は、道場の奥に位置する部室に歩みを進めながらこう言った。
「カップラーメン、食う?」
――と。
誰もが私をそう称するのだけど、なぜだろう。不意にそのレッテルを脱ぎ捨ててみたくなった。
「あんたと同じだよ、私も避難場所を探してたの」
「……え」
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「図書室は6時までだし、コインランドリーには監視カメラがついてるでしょう?あんまり毎日通って注意でもされたら、二度と行けないじゃない」
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もともと不安定だった母が、日常的に暴れるようになったのが3年前。電気やガスを止められたアパートで日に日に追い詰められ、私は生活保護を受けようと母に進言した。
でも、それがきっかけになってしまった。なにが気にくわなかったのか、母はひどく逆上して私の髪を掴んで引きずり回した。
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「俺は別に」
「じゃあさっきのは何?」
「さっきの?」
「誰に言われたんだ――って、すっごい権幕で凄んできたでしょう。ヤクザに命でも狙われてんの?」
後半は皮肉を含んだ例えだった。
でも彼は事も無げに「まあ、そんなとこ」と、つぶやく。
それがあんまり自然で、さらにヤクザなんて名詞が非日常過ぎて、怖さは感じなかった。
「そうは見えないけど、久我君って噂通りの悪い人なの?」
私の質問に彼はポカンとしていたけど、不意に片手で顔を覆って笑い出した。
「お前って、変な奴だな」
「変ってどこが?」
「いや、普通はこんな話し聞いたら引くだろう」
「うーん、ヤクザは怖いけど、久我君はヤクザじゃないみたいだし」
それに今、目の前で笑っている彼は、教室で見るよりもずっと親しみやすい空気をまとっている。
「にしたって、俺の噂、色々聞いてんだろう?」
「多少はね」
「それなら、どうしてサッサと逃げないんだよ」
「逃げたほうがいい?」
「は?」
「久我君は私に何かするつもり?」
そう聞くと、彼はまた小さく笑って頭を掻いた。
「なんもしねえけど……調子狂うな」
あきらめたような、だけど少しだけ楽しそうに息を吐いた彼は、道場の奥に位置する部室に歩みを進めながらこう言った。
「カップラーメン、食う?」
――と。
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