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【高校生編】
転校生
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窓際の一番前の席。
始業時間ギリギリに校門を駆け抜ける生徒を眺めながら、私はぼんやりと頬づえをついていた。
もう10月だというのに、教室の中は夏の名残を引きずるかのように、じっとりとした熱気に包まれている。
全国的に教室のエアコン設置率は100パーセントに近いらしいけど、この学校は残りの数パーセントなのだろう。
職員室と図書室などの特別教室を除けば、アナログな扇風機がギシギシと不快な音をたてながら首を振っているだけだ。
そういえば、今日から市長の孫が転入してくるらしい。
上流階級のご子息様がこの暑さに耐えかねて、市長に談判してくれればいいのに。
そんなことを考えていると、入り口のドアが開いた。
担任である松本先生の後ろに、転校生らしい男子生徒が付き従っている。
「静かに、ホームルーム始めるぞー」
その言葉に教室がどよめく。
ああ……これはまた絵に描いたような。
ここ数日、クラスの女子は色めき立っていた。
「東京から来る転校生、菅原グループの御曹司らしいよ」
「それって、不動産とか建築とかの?」
「しかも市長さんの孫で、超イケメン!」
「でもまた、なんでこんな田舎の公立高校に?」
「なんでも、お兄さんの療養を兼ねてるんだって」
「もしかして、玉の輿狙えたりして」
そんな噂通りのお坊ちゃんが現れて、思わず笑ってしまいそうになった。
色素の薄い髪は染めているのだろうか。色白の肌によく似合っている。
また、ほんの少したれ気味の茶色い瞳は、穏やかでありながら自信に満ち溢れていて。
「はじめまして、菅原(すがわら)瑞樹(みずき)です」
やわらかな声に、教室のあちこちからため息が漏れた。
ずんぐりとした教師の隣に立っているせいか、背の高さと線の細さが際立っている。
そしてなにより、落ち着き払ったその態度は、この町の高校生とは異質なものだった。
「……王子さまだ」
後ろの席の女子が心の声を漏らす。
その声に気づいた菅原君の視線が動いて、ばっちりと目が合ってしまう。
違う、今のは私じゃなくて後ろの子!
身振り手振りで誤解を正そうとするけど、彼は私を見たままフワリと微笑んだ。
「どうした菅原、委員長が気になるか?」
「彼女、クラス委員長なんですか?」
「ああ、成績もトップだし気が合うかもな」
やめてほしい。
たのむからやめてほしい。
「後で校舎を案内してもらうといい、片桐、たのんだぞ」
この鈍感教師!
ただでさえ浮いているのに、女子の敵意を一身に受ける羽目になるじゃない。
これ以上めんどうを増やしてどうするのよ。
「えっと、それなら私より適任が――」
なんとか理由をこじつけて断ろうと口を開く。
けれども意図的なのだろうか。
菅原君は澄んだ声で「片桐さん、よろしくね」と、私の言葉を抑え込んだ。
始業時間ギリギリに校門を駆け抜ける生徒を眺めながら、私はぼんやりと頬づえをついていた。
もう10月だというのに、教室の中は夏の名残を引きずるかのように、じっとりとした熱気に包まれている。
全国的に教室のエアコン設置率は100パーセントに近いらしいけど、この学校は残りの数パーセントなのだろう。
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ああ……これはまた絵に描いたような。
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「東京から来る転校生、菅原グループの御曹司らしいよ」
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また、ほんの少したれ気味の茶色い瞳は、穏やかでありながら自信に満ち溢れていて。
「はじめまして、菅原(すがわら)瑞樹(みずき)です」
やわらかな声に、教室のあちこちからため息が漏れた。
ずんぐりとした教師の隣に立っているせいか、背の高さと線の細さが際立っている。
そしてなにより、落ち着き払ったその態度は、この町の高校生とは異質なものだった。
「……王子さまだ」
後ろの席の女子が心の声を漏らす。
その声に気づいた菅原君の視線が動いて、ばっちりと目が合ってしまう。
違う、今のは私じゃなくて後ろの子!
身振り手振りで誤解を正そうとするけど、彼は私を見たままフワリと微笑んだ。
「どうした菅原、委員長が気になるか?」
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