11 / 37
【高校生編】
初めての温もり
しおりを挟む
* * *
「美緒ちゃん、聞きたいことがあるんだけど」
放課後――。
図書室へと続く渡り廊下で、不意に呼び止められた。
振り返ると、いつもの取り巻き2人を従えた理子が、小首をかしげて立っていた。
かわいらしい仕草。
でも、夕日を反射して赤く染まるその目には、剥き出しの敵意が宿っている。
なあに、と答えながら大体の予想はついている。
「瑞樹君のことなんだけど」
ほら、やっぱり。
いつもの私ならうまく流せただろう。
でも、今日は違った。
菅原君の存在によって自分の器の小ささを思い知らされたというのもある。
でも、それよりなによりお腹がお腹がすいていたのだ。
なけなしのお金で買ったコッペパンを食べ損ねたせいで、昨日の夕方に透吾とカップラーメンを食べて以降、なにも口にしていない。
人間の三大欲求の中でも一番の根底にあるのは、生理的欲求である食欲だ。
血糖値が下がりきっていた私は、どうにも苛立ちを抑えることができなかった。
「ねえ理子、あんたが菅原君に気があるの知ってる。その菅原君が私にかまうのが気に食わないんだってことも。でも私から彼に話しかけたことは一度もないのよ」
まずは、先制攻撃。
「なっ、まだなにも言ってないんだけど」
カッと頬を染めたところを見ると図星だったのだろう。
このままとどめを刺そうと、一気にたたみかける。
「それに、コソコソと外堀を埋めるようなやり方、菅原君が知ったらどう思うだろうね」
「私は別に――」
「そもそも、あの人にこんなやり方が通用すると思う?」
「なによそれ」
「菅原君は本物のお坊ちゃんだってこと」
いくら理子がライバルをつぶして擦り寄ったところで、簡単になびくような相手ではない。
「だからなんなの、言ってる意味がわかんないんだけど」
肩を怒らせて言い返してくる理子にイライラする。心の底からイライラする。
さっさと図書室で参考書を借りて、透吾の作ったラーメンが食べたい。
早々に切り上げたかった私は、あえてキツイ言葉を選ぶ。
「だったら、遠回しな言い方はやめてあげる。理子はこの町じゃ怖いものなしで、みんなのお姫様かもしれない。でも、所詮は田舎の小金持ちで、将来この街を出たら、ごく普通の人でしかないの」
「は!?だからなんなのよ」
突っかかってきたのは、理子ではなく取り巻きの――確か、名前は妃奈子(ひなこ)だっけ。可愛らしい顔をしているけど、攻撃的な性格をしている。
「理子が小金持ちなら、あんたは底辺のド貧乏じゃん」
妃奈子の言葉に、そうだね――と頷いてから、理子に向き直る。
「でもね、例えば私がちっぽけなアリンコなら理子はせいぜいバッタで、どっちも節足動物でしかない。でも菅原君は違う。生物学的に分類が別の……鷹とか鷲ってところなんじゃないかな」
地面を這い回る虫の間では大きな違いがあっても、大空から見れば蟻もバッタも大した差はない。
大空を飛ぶ鷹に憧れ、手中に収めようと飛び跳ねたとこで、遠く及ぶはずもないのに。
「分かったようなこと言ってんじゃないわよ!」
妃奈子の口調が強まった。
そう……私はまだ、たったの17歳で、知らないことが沢山ある。
だけど少なくとも妃奈子や理子よりは、多くの現実を目の当たりにしてきたと思う。
言い方がキツいのも、理屈っぼいのも分かっている。
でもそうして棘を携えないと、自分を守ることが出来なかったんだ。
それを理解してもらいたいとは思わないけど、これ以上、理不尽な絡み方をするのはやめてほしい。
「とにかく、私を牽制する暇があるなら、少しでも彼に見合う人間になれるように自分を磨いた方が効率的だと思うよ」
じゃ、と片手を上げて背中を向けたとたん、背中に衝撃が走った。
「――っ」
同時にボトンと音がして、足元にミルクティーのペットボトルが転がる。
肩甲骨あたりにクリーンヒットしたそれを拾い上げた私は、痛みをこらえて振り返った。
「美緒ちゃん、聞きたいことがあるんだけど」
放課後――。
図書室へと続く渡り廊下で、不意に呼び止められた。
振り返ると、いつもの取り巻き2人を従えた理子が、小首をかしげて立っていた。
かわいらしい仕草。
でも、夕日を反射して赤く染まるその目には、剥き出しの敵意が宿っている。
なあに、と答えながら大体の予想はついている。
「瑞樹君のことなんだけど」
ほら、やっぱり。
いつもの私ならうまく流せただろう。
でも、今日は違った。
菅原君の存在によって自分の器の小ささを思い知らされたというのもある。
でも、それよりなによりお腹がお腹がすいていたのだ。
なけなしのお金で買ったコッペパンを食べ損ねたせいで、昨日の夕方に透吾とカップラーメンを食べて以降、なにも口にしていない。
人間の三大欲求の中でも一番の根底にあるのは、生理的欲求である食欲だ。
血糖値が下がりきっていた私は、どうにも苛立ちを抑えることができなかった。
「ねえ理子、あんたが菅原君に気があるの知ってる。その菅原君が私にかまうのが気に食わないんだってことも。でも私から彼に話しかけたことは一度もないのよ」
まずは、先制攻撃。
「なっ、まだなにも言ってないんだけど」
カッと頬を染めたところを見ると図星だったのだろう。
このままとどめを刺そうと、一気にたたみかける。
「それに、コソコソと外堀を埋めるようなやり方、菅原君が知ったらどう思うだろうね」
「私は別に――」
「そもそも、あの人にこんなやり方が通用すると思う?」
「なによそれ」
「菅原君は本物のお坊ちゃんだってこと」
いくら理子がライバルをつぶして擦り寄ったところで、簡単になびくような相手ではない。
「だからなんなの、言ってる意味がわかんないんだけど」
肩を怒らせて言い返してくる理子にイライラする。心の底からイライラする。
さっさと図書室で参考書を借りて、透吾の作ったラーメンが食べたい。
早々に切り上げたかった私は、あえてキツイ言葉を選ぶ。
「だったら、遠回しな言い方はやめてあげる。理子はこの町じゃ怖いものなしで、みんなのお姫様かもしれない。でも、所詮は田舎の小金持ちで、将来この街を出たら、ごく普通の人でしかないの」
「は!?だからなんなのよ」
突っかかってきたのは、理子ではなく取り巻きの――確か、名前は妃奈子(ひなこ)だっけ。可愛らしい顔をしているけど、攻撃的な性格をしている。
「理子が小金持ちなら、あんたは底辺のド貧乏じゃん」
妃奈子の言葉に、そうだね――と頷いてから、理子に向き直る。
「でもね、例えば私がちっぽけなアリンコなら理子はせいぜいバッタで、どっちも節足動物でしかない。でも菅原君は違う。生物学的に分類が別の……鷹とか鷲ってところなんじゃないかな」
地面を這い回る虫の間では大きな違いがあっても、大空から見れば蟻もバッタも大した差はない。
大空を飛ぶ鷹に憧れ、手中に収めようと飛び跳ねたとこで、遠く及ぶはずもないのに。
「分かったようなこと言ってんじゃないわよ!」
妃奈子の口調が強まった。
そう……私はまだ、たったの17歳で、知らないことが沢山ある。
だけど少なくとも妃奈子や理子よりは、多くの現実を目の当たりにしてきたと思う。
言い方がキツいのも、理屈っぼいのも分かっている。
でもそうして棘を携えないと、自分を守ることが出来なかったんだ。
それを理解してもらいたいとは思わないけど、これ以上、理不尽な絡み方をするのはやめてほしい。
「とにかく、私を牽制する暇があるなら、少しでも彼に見合う人間になれるように自分を磨いた方が効率的だと思うよ」
じゃ、と片手を上げて背中を向けたとたん、背中に衝撃が走った。
「――っ」
同時にボトンと音がして、足元にミルクティーのペットボトルが転がる。
肩甲骨あたりにクリーンヒットしたそれを拾い上げた私は、痛みをこらえて振り返った。
0
あなたにおすすめの小説
肉食御曹司の独占愛で極甘懐妊しそうです
沖田弥子
恋愛
過去のトラウマから恋愛と結婚を避けて生きている、二十六歳のさやか。そんなある日、飲み会の帰り際、イケメン上司で会社の御曹司でもある久我凌河に二人きりの二次会に誘われる。ホテルの最上階にある豪華なバーで呑むことになったさやか。お酒の勢いもあって、さやかが強く抱いている『とある願望』を彼に話したところ、なんと彼と一夜を過ごすことになり、しかも恋人になってしまった!? 彼は自分を女除けとして使っているだけだ、と考えるさやかだったが、少しずつ彼に恋心を覚えるようになっていき……。肉食でイケメンな彼にとろとろに蕩かされる、極甘濃密ラブ・ロマンス!
コーヒーとCEOの秘密🔥他
シナモン
恋愛
§ コーヒーとCEOの秘密 (完)
『今日もコーヒー飲んでなーい!』意思疎通の取れない新会長に秘書室は大わらわ。補佐役の赤石は真っ向勝負、負けてない。さっさと逃げ出すべく策を練る。氷のように冷たい仮面の下の、彼の本心とは。氷のCEOと熱い秘書。ラブロマンスになり損ねた話。
§ 瀬尾くんの秘密 (完)
瀬尾くんはイケメンで癒しの存在とも言われている。しかし、彼にはある秘密があった。
§ 緑川、人類の運命を背負う (完)
会長の友人緑川純大は、自称発明家。こっそり完成したマシンで早速タイムトラベルを試みる。
理論上は1日で戻ってくるはずだったが…。
会長シリーズ、あまり出番のない方々の話です。出番がないけどどこかにつながってたりします。それぞれ主人公、視点が変わります。順不同でお読みいただいても大丈夫です。
タイトル変更しました
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
隠れドS上司の過剰な溺愛には逆らえません
如月 そら
恋愛
旧題:隠れドS上司はTL作家を所望する!
【書籍化】
2023/5/17 『隠れドS上司の過剰な溺愛には逆らえません』としてエタニティブックス様より書籍化❤️
たくさんの応援のお陰です❣️✨感謝です(⁎ᴗ͈ˬᴗ͈⁎)
🍀WEB小説作家の小島陽菜乃はいわゆるTL作家だ。
けれど、最近はある理由から評価が低迷していた。それは未経験ゆえのリアリティのなさ。
さまざまな資料を駆使し執筆してきたものの、評価が辛いのは否定できない。
そんな時、陽菜乃は会社の倉庫で上司が同僚といたしているのを見てしまう。
「隠れて覗き見なんてしてたら、興奮しないか?」
真面目そうな上司だと思っていたのに︎!!
……でもちょっと待って。 こんなに慣れているのなら教えてもらえばいいんじゃないの!?
けれど上司の森野英は慣れているなんてもんじゃなくて……!?
※普段より、ややえちえち多めです。苦手な方は避けてくださいね。(えちえち多めなんですけど、可愛くてきゅんなえちを目指しました✨)
※くれぐれも!くれぐれもフィクションです‼️( •̀ω•́ )✧
※感想欄がネタバレありとなっておりますので注意⚠️です。感想は大歓迎です❣️ありがとうございます(*ᴗˬᴗ)💕
再会した御曹司は 最愛の秘書を独占溺愛する
猫とろ
恋愛
あらすじ
青樹紗凪(あおきさな)二十五歳。大手美容院『akai』クリニックの秘書という仕事にやりがいを感じていたが、赤井社長から大人の関係を求められて紗凪は断る。
しかしあらぬ噂を立てられ『akai』を退社。
次の仕事を探すものの、うまく行かず悩む日々。
そんなとき。知り合いのお爺さんから秘書の仕事を紹介され、二つ返事で飛びつく紗凪。
その仕事場なんと大手老舗化粧品会社『キセイ堂』 しかもかつて紗凪の同級生で、罰ゲームで告白してきた黄瀬薫(きせかおる)がいた。
しかも黄瀬薫は若き社長になっており、その黄瀬社長の秘書に紗凪は再就職することになった。
お互いの過去は触れず、ビジネスライクに勤める紗凪だが、黄瀬社長は紗凪を忘れてないようで!?
社長×秘書×お仕事も頑張る✨
溺愛じれじれ物語りです!
社長に拾われた貧困女子、契約なのに溺愛されてます―現代シンデレラの逆転劇―
砂原紗藍
恋愛
――これは、CEOに愛された貧困女子、現代版シンデレラのラブストーリー。
両親を亡くし、継母と義姉の冷遇から逃れて家を出た深月カヤは、メイドカフェとお弁当屋のダブルワークで必死に生きる二十一歳。
日々を支えるのは、愛するペットのシマリス・シンちゃんだけだった。
ある深夜、酔客に絡まれたカヤを救ったのは、名前も知らないのに不思議と安心できる男性。
数日後、偶然バイト先のお弁当屋で再会したその男性は、若くして大企業を率いる社長・桐島柊也だった。
生活も心もぎりぎりまで追い詰められたカヤに、柊也からの突然の提案は――
「期間限定で、俺の恋人にならないか」
逃げ場を求めるカヤと、何かを抱える柊也。思惑の違う二人は、契約という形で同じ屋根の下で暮らし始める。
過保護な優しさ、困ったときに現れる温もりに、カヤの胸には小さな灯がともりはじめる。
だが、契約の先にある“本当の理由”はまだ霧の中。
落とした小さなガラスのヘアピンが導くのは——灰かぶり姫だった彼女の、新しい運命。
【完結】育てた後輩を送り出したらハイスペになって戻ってきました
藤浪保
恋愛
大手IT会社に勤める早苗は会社の歓迎会でかつての後輩の桜木と再会した。酔っ払った桜木を家に送った早苗は押し倒され、キスに翻弄されてそのまま関係を持ってしまう。
次の朝目覚めた早苗は前夜の記憶をなくし、関係を持った事しか覚えていなかった。
残業帰りのカフェで──止まった恋と、動き出した身体と心
yukataka
恋愛
終電に追われる夜、いつものカフェで彼と目が合った。
止まっていた何かが、また動き始める予感がした。
これは、34歳の広告代理店勤務の女性・高梨亜季が、残業帰りに立ち寄ったカフェで常連客の佐久間悠斗と出会い、止まっていた恋心が再び動き出す物語です。
仕事に追われる日々の中で忘れかけていた「誰かを想う気持ち」。後輩からの好意に揺れながらも、悠斗との距離が少しずつ縮まっていく。雨の夜、二人は心と体で確かめ合い、やがて訪れる別れの選択。
仕事と恋愛の狭間で揺れながらも、自分の幸せを選び取る勇気を持つまでの、大人の純愛を描きます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる