Untangl~秘密の場所で逢いましょう~

猫田けだま

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【高校生編】

初めての温もり

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* * *

「美緒ちゃん、聞きたいことがあるんだけど」


放課後――。
図書室へと続く渡り廊下で、不意に呼び止められた。

振り返ると、いつもの取り巻き2人を従えた理子が、小首をかしげて立っていた。

かわいらしい仕草。
でも、夕日を反射して赤く染まるその目には、剥き出しの敵意が宿っている。

なあに、と答えながら大体の予想はついている。

「瑞樹君のことなんだけど」

ほら、やっぱり。

いつもの私ならうまく流せただろう。
でも、今日は違った。
菅原君の存在によって自分の器の小ささを思い知らされたというのもある。
でも、それよりなによりお腹がお腹がすいていたのだ。

なけなしのお金で買ったコッペパンを食べ損ねたせいで、昨日の夕方に透吾とカップラーメンを食べて以降、なにも口にしていない。

人間の三大欲求の中でも一番の根底にあるのは、生理的欲求である食欲だ。

血糖値が下がりきっていた私は、どうにも苛立ちを抑えることができなかった。

「ねえ理子、あんたが菅原君に気があるの知ってる。その菅原君が私にかまうのが気に食わないんだってことも。でも私から彼に話しかけたことは一度もないのよ」

まずは、先制攻撃。

「なっ、まだなにも言ってないんだけど」

カッと頬を染めたところを見ると図星だったのだろう。
このままとどめを刺そうと、一気にたたみかける。

「それに、コソコソと外堀を埋めるようなやり方、菅原君が知ったらどう思うだろうね」
「私は別に――」
「そもそも、あの人にこんなやり方が通用すると思う?」
「なによそれ」
「菅原君は本物のお坊ちゃんだってこと」

いくら理子がライバルをつぶして擦り寄ったところで、簡単になびくような相手ではない。

「だからなんなの、言ってる意味がわかんないんだけど」

肩を怒らせて言い返してくる理子にイライラする。心の底からイライラする。
さっさと図書室で参考書を借りて、透吾の作ったラーメンが食べたい。

早々に切り上げたかった私は、あえてキツイ言葉を選ぶ。

「だったら、遠回しな言い方はやめてあげる。理子はこの町じゃ怖いものなしで、みんなのお姫様かもしれない。でも、所詮は田舎の小金持ちで、将来この街を出たら、ごく普通の人でしかないの」
「は!?だからなんなのよ」

突っかかってきたのは、理子ではなく取り巻きの――確か、名前は妃奈子(ひなこ)だっけ。可愛らしい顔をしているけど、攻撃的な性格をしている。

「理子が小金持ちなら、あんたは底辺のド貧乏じゃん」

妃奈子の言葉に、そうだね――と頷いてから、理子に向き直る。

「でもね、例えば私がちっぽけなアリンコなら理子はせいぜいバッタで、どっちも節足動物でしかない。でも菅原君は違う。生物学的に分類が別の……鷹とか鷲ってところなんじゃないかな」

地面を這い回る虫の間では大きな違いがあっても、大空から見れば蟻もバッタも大した差はない。
大空を飛ぶ鷹に憧れ、手中に収めようと飛び跳ねたとこで、遠く及ぶはずもないのに。

「分かったようなこと言ってんじゃないわよ!」

妃奈子の口調が強まった。

そう……私はまだ、たったの17歳で、知らないことが沢山ある。
だけど少なくとも妃奈子や理子よりは、多くの現実を目の当たりにしてきたと思う。

言い方がキツいのも、理屈っぼいのも分かっている。
でもそうして棘を携えないと、自分を守ることが出来なかったんだ。

それを理解してもらいたいとは思わないけど、これ以上、理不尽な絡み方をするのはやめてほしい。

「とにかく、私を牽制する暇があるなら、少しでも彼に見合う人間になれるように自分を磨いた方が効率的だと思うよ」

じゃ、と片手を上げて背中を向けたとたん、背中に衝撃が走った。

「――っ」

同時にボトンと音がして、足元にミルクティーのペットボトルが転がる。
肩甲骨あたりにクリーンヒットしたそれを拾い上げた私は、痛みをこらえて振り返った。
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