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【高校生編】
菅原君の本音
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「ありがとう、でも平気」
「……そっか」
菅原君は困った顔で溜息をついて、それから思い切ったように私の目をまっすぐに見つめる。
「久我君とは、仲いいの?」
「……え」
「ほら、透吾って呼んでたから」
すべてを見透かすような鋭い視線が、私の視線を捉えて離さない。
「久我君だけだよね、下の名前で呼ぶのなんて」
背中に冷たい汗が伝う。
「別に、深い意味はないよ」
私はそれを隠すように、できるだけ自然な笑顔をつくった。
すると彼は、思いもよらないことを言い出す。
「なら僕も美緒って呼んでいい?」
「え、それは――」
「深い意味なんてないんだよね」
なぜだろう。
ニッコリと口角を上げる彼の柔和な笑顔に、空恐ろしさを感じた。
「そうだ、僕のことも瑞樹って呼んでよ、クラスメイトもそう呼んでるし」
「みんなはそうでも私は――」
と、そこまで言って、本来の目的を思い出した。
そうだ、今日は彼と距離を置きたい理由を説明しに来たんだ。
優雅な雰囲気に流されて、ほっこりしている場合じゃない。
意を決して、菅原君を正面から見据える。
「私の母親が普通じゃないのは知ってる?」
転校してきたばかりだし、ゴシップに興味がなさそうだから、もしかしたらと思ったのだけど、やはり母の醜聞は耳に入っているらしい。
気まずそうに黙り込むのは、肯定の意味だろう。
「だったら話は早いか。私の家ってね、莉子の親から援助を受けているの」
「けど、それは親の事情だよね」
私が言わんとしていることを、瞬時に理解したのだろう。全てを説明する前に反論してくる。
だけどもそれは、問題の表面だけを掬った反論だ。
「私たちは未成年なんだよ」
「だとしても、どうにかすれば……」
「どうにもならなかったの」
恵まれた環境の人には理解できないかもしれない。だけど、子供は親の事情で今日の生活だけじゃなく、未来さえも奪われる。
現にアルバイトだってそう。あの人の娘だというだけで敬遠され、唯一ありつけたのが早朝の新聞配達だ。
いくら頑張っても、母が何か仕出かせば奨学金の需給さえ危うくなるのが現実だ。
「今の私にできることは、目立たず静かに生活して、奨学金で大学に行くこと」
「片桐さん……」
「だからお願い。菅原君と仲良くするのは、私にとってリスクが大きすぎるの」
祈るように両手を強く握り合わせ、頭を下げる。
けれども、いつまで待っても彼の口から了承の言葉が吐き出されることはなかった。
長い沈黙が落ち――。
恐る恐る頭を上げると、菅原君と視線がぶつかる。
彼は底の見えない瞳を揺らめかせながら、ゆっくりと口を開いた。
「あのさ、僕がどうして片桐さんに興味を持ったのか分かる?」
私が首を横に振ると、菅原君は紅茶に口をつけてから居住まいをただす。
「僕ってさ、兄のスペアなんだ」
軽い口調で語り始めた彼の話。
それは、思いもよらないものだった。
「……そっか」
菅原君は困った顔で溜息をついて、それから思い切ったように私の目をまっすぐに見つめる。
「久我君とは、仲いいの?」
「……え」
「ほら、透吾って呼んでたから」
すべてを見透かすような鋭い視線が、私の視線を捉えて離さない。
「久我君だけだよね、下の名前で呼ぶのなんて」
背中に冷たい汗が伝う。
「別に、深い意味はないよ」
私はそれを隠すように、できるだけ自然な笑顔をつくった。
すると彼は、思いもよらないことを言い出す。
「なら僕も美緒って呼んでいい?」
「え、それは――」
「深い意味なんてないんだよね」
なぜだろう。
ニッコリと口角を上げる彼の柔和な笑顔に、空恐ろしさを感じた。
「そうだ、僕のことも瑞樹って呼んでよ、クラスメイトもそう呼んでるし」
「みんなはそうでも私は――」
と、そこまで言って、本来の目的を思い出した。
そうだ、今日は彼と距離を置きたい理由を説明しに来たんだ。
優雅な雰囲気に流されて、ほっこりしている場合じゃない。
意を決して、菅原君を正面から見据える。
「私の母親が普通じゃないのは知ってる?」
転校してきたばかりだし、ゴシップに興味がなさそうだから、もしかしたらと思ったのだけど、やはり母の醜聞は耳に入っているらしい。
気まずそうに黙り込むのは、肯定の意味だろう。
「だったら話は早いか。私の家ってね、莉子の親から援助を受けているの」
「けど、それは親の事情だよね」
私が言わんとしていることを、瞬時に理解したのだろう。全てを説明する前に反論してくる。
だけどもそれは、問題の表面だけを掬った反論だ。
「私たちは未成年なんだよ」
「だとしても、どうにかすれば……」
「どうにもならなかったの」
恵まれた環境の人には理解できないかもしれない。だけど、子供は親の事情で今日の生活だけじゃなく、未来さえも奪われる。
現にアルバイトだってそう。あの人の娘だというだけで敬遠され、唯一ありつけたのが早朝の新聞配達だ。
いくら頑張っても、母が何か仕出かせば奨学金の需給さえ危うくなるのが現実だ。
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「片桐さん……」
「だからお願い。菅原君と仲良くするのは、私にとってリスクが大きすぎるの」
祈るように両手を強く握り合わせ、頭を下げる。
けれども、いつまで待っても彼の口から了承の言葉が吐き出されることはなかった。
長い沈黙が落ち――。
恐る恐る頭を上げると、菅原君と視線がぶつかる。
彼は底の見えない瞳を揺らめかせながら、ゆっくりと口を開いた。
「あのさ、僕がどうして片桐さんに興味を持ったのか分かる?」
私が首を横に振ると、菅原君は紅茶に口をつけてから居住まいをただす。
「僕ってさ、兄のスペアなんだ」
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それは、思いもよらないものだった。
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