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第16話『ラブソティーレディー-後編-』
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休日ということもあってか、開店直後からたくさんのお客様が来ている。そのこともあってか、10分ほどの休憩を2度挟んだくらいで、基本的にはキッチンに立ち続けて注文されたメニューをひたすら作っていた。
できた料理やスイーツを出すときや、休憩に入るときにホールの様子を見たけど、綾奈先輩はもちろんのこと、会長さんもいい笑顔をして接客していた。さすがは生徒会長を務める人だと思う。あと、お客様が料理やスイーツを楽しそうに食べている姿を見ると凄く嬉しかった。
「白瀬さん。バイトの子が来たからもう終わりでいいよ」
「分かりました。今日はありがとうございました」
「お礼を言うのは私の方だよ。ありがとう。あと、ほとんど休憩を入れられなくてごめんね。でも、本当に助かった。清恵ちゃんの言うように、今後もキッチンスタッフとして働いてほしいくらい。あと、笑顔も素敵だから、きっとホールでもやっていけるよ」
「葉子ちゃんの言うとおりね。綾奈が興味を持った理由がちょっと分かった気がする。百合ちゃんはスタッフルームで休んでて。注文も落ち着いてきたから、みんなの分のまかない作っちゃうね」
「ありがとうございます。スタッフルームに行っていますね。失礼します」
午後3時過ぎ。
キッチンを出てスタッフルームへと向かう。そのとき、これからバイトをする女性と会い、その際に「お疲れ様でした」と笑顔で言われた。
スタッフルームに行くと、そこには温かい紅茶を飲んでいる会長さんの姿があった。
「会長さん、お疲れ様です。美紀さんがまかないを作ってくださるそうです」
「そうなのね。お疲れ様、百合ちゃん。紅茶淹れよっか?」
「お願いします」
私は会長さんの座っていた席の隣に座る。今までずっと立っていたからか、座った途端に疲れが出てきた。
「ふふっ、ぐったりしてる。ずっと料理作ってくれたもんね。はい、紅茶よ」
「ありがとうございます」
会長さんの淹れてくれた紅茶を一口飲む。数時間ずっとバイトをしたからか、紅茶の温かさが全身に優しく伝わっていく。
そういえば、会長さんと2人きりってこれが初めてなんだよね。そう思うと何だか緊張してくるな。そんなことを思いながら紅茶をもう一口飲んだ。
「会長さん、ホールの方はどうでしたか?」
「去年、短期バイトをしたときにはあまりやらなかったから不安もあったけれど、綾奈や清恵さんが一緒だったからか、すぐになくなったよ。女性のお客様が多くて、特に綾奈が近くを歩くだけで笑顔になる方もいて。サキュバス体質の影響もあるんだろうけど、かなりの人気なんだなって思った。仕事も完璧にこなしているし。あの子が1年以上、ああいう風にバイトをしているんだと思うと凄いなって。何だか、綾奈が遠い存在に思えてくるよ。特に最近は……」
はあっ、と会長さんは静かな笑みを浮かべたままため息をついた。
「綾奈先輩は凄いですよね。火曜日の放課後にここに来たときにも思いました」
「白瀬さんも凄いなって思ったよ。あなたの作った料理やスイーツをお客様は幸せそうに食べていたから」
「それなら良かったです。次から次へと注文が来ましたし、もちろんしっかりと作らないといけないので必死でした」
だからこそ、少し休憩は挟んだけど、数時間もキッチンで料理やスイーツを作り続けることができたのかな。
「みんなお疲れ様、まかないのボロネーゼを作ったよ」
「私も終わったから4人で食べようよ」
お盆を持った美紀さんが部屋の中に入ってきた。それに続いて綾奈先輩も。こうして一緒にいるところを見ると美人な親子だなと思う。
それにしても、ボロネーゼか。パスタ料理の中ではナポリタンやカルボナーラの次に注文が入ったな。ずっと料理を作っていたけど、こうして目の前にまかないのボロネーゼを出されると食欲がそそられてくる。
「美味しそうですね」
「お母さんの作る料理は美味しいよ、百合」
美紀さんが側にいるからか普段よりも子供っぽい感じがするな、綾奈先輩。そんな先輩と美紀さんはテーブルを挟んで、私や会長さんと向かい合うようにして座る。
「それじゃ、いただきます!」
『いただきまーす!』
美紀さんの一声で私達はまかないのボロネーゼを食べ始める。お肉の旨みが口の中に広がって、
「美味しい……」
気付けば、そう言ってしまっていた。そのせいか、みんなが優しい笑みをして私のことを見てくる。
「ね? 私の言うとおりでしょ?」
「そうですね。とても美味しいです、美紀さん」
「ありがとう」
美味しいのはもちろんだけれど、ずっと働いていてお腹が空いているからか食べるのが止まらないな。今日はずっと料理やスイーツを作っていたからか、こうして作っていただけることをとても有り難く思う。
「私が去年の夏休みにバイトしているときも、たまに美紀さんがボロネーゼを作ってくれたな。あのときのことを思い出したよ」
「そっか。愛花がバイトしているときはキッチンを担当することが多かったよね。今日はホールだったけれどどうだった?」
「百合ちゃんにも言ったけど、最初は不安だった。でも、綾奈や清恵さんが側にいたおかげでその不安もすぐになくなった。むしろ、楽しかったよ。花宮女子の友達が来ていたっていうのもあるかな」
花宮高校の生徒も来店していたんだ。綾奈先輩がバイトをしているからかな。徒歩圏内にはうちの寮もあるし。
「それなら良かったよ。愛花も百合も急なことだったのにありがとう。清恵さんもとても助かったって言っていたよ」
「親友からの頼みですから。久しぶりに綾奈と一緒にバイトができて楽しかったわ」
「突然でしたけど、バイトを体験できて良かったです。あと、あまり絡みはありませんでしたが、綾奈先輩や会長さんと一緒にお仕事ができて嬉しかったです」
今後、バイトを考えるときの参考にさせてもらおう。でも、ここならやっていけそうな気がするから、バイトをするならまずはここを考えようかな。
「2人がそう言ってくれて良かったよ。急なことだったし、せっかくの日曜日をバイトに費やすことになったから嫌だったかもなって」
「理由が理由だしそれは仕方ないよ。今日みたいに特に予定がなかったりしたら、また協力するよ」
「私も同じです!」
「うん、ありがとね」
綾奈先輩は嬉しそうに笑った。
「3人を見ていると、高校時代に友達と一緒にバイトをしたことを思い出すな。お母さんも女子高生になった感じがするよ。お母さんもバイト楽しかったよ! 百合ちゃんと一緒にお料理してお母さん楽しかった!」
「……自分のことをお母さんって言っている時点でお母さんのままだよ」
「あら、ついお母さんって言っちゃった。17年以上お母さんやっているから、そうなるのも仕方ないよね」
気持ちは女子高生になっても、口から出す言葉まではすぐに変えられないか。
それにしても、美紀さんは綾奈先輩のお母さんというよりは年の離れたお姉さんという感じだ。将来、綾奈先輩も美紀さんみたいな素敵な大人の女性になるんだろうな。そう考えると、美紀さんを見てちょっとドキドキしちゃう。
「百合、どうしたの? お母さんのことを見て。もしかして、自分のお母さんのことを思い出した?」
「いえ、そういうわけではないんですけど、ただ、家族が近くにいるっていいですよね。寮に暮らし始めてからたまにそう思うことがあります」
「そういえば、百合ちゃんは愛知の方から上京してきたのよね。百合ちゃんさえよければ、私が東京のお母さんになろうか?」
「ええと……そのお気持ちは有り難く受け取っておきます。ただ、気軽に話すことのできる大人の女性が花宮にいると思うと安心しますね」
その時点で『東京のお母さん』と言えるのかもしれないけど。あと、理想としては東京にいる『お義母さん』という関係になりたい。
「そうだ! 次の週末にでもうちに泊まりに来てよ。香奈も百合ちゃんに会いたがっているし。愛花ちゃんも久しぶりに」
「ああ、それいいね。百合なら泊まりに来ても大丈夫そうかな。あと、香奈っていうのは私の妹のことね。外泊っていうのは寮の規則的にOKなの?」
「はい、外泊は大丈夫ですよ。事前に許可を取らないといけないってこともありませんし」
寮といっても、実際はマンションを丸ごと学校が所有しているだけなので、厳しい規則は全くない。
「2年生になってからは一度も泊まっていないし、久しぶりに泊まりに行こうかな。特に予定もないから」
「分かった、愛花はお泊まり決定ね。百合はどうする?」
「私も泊まりにいきたいと思います」
「うん! じゃあ、来週末は愛花と百合が泊まりに来るってことで」
「よ、よろしくお願いします!」
まさか、綾奈先輩のお家にお泊まりすることなるなんて。今からドキドキしちゃうよ。どんなことが待っているんだろう。例えば、
『百合のことを見ていると、太もも以外にもフェチになりそう。ねえ、優しくするから素手で洗ってもいい?』
『百合、眠れないんだったらこっちで一緒に寝る? 愛花とはこれまでに何度も寝たことがあるから、今夜は百合と寝てみたいなって。そのときはもちろん、百合のことを抱きしめてもいい?』
みたいなことがあったりして。
「百合ったら、顔を赤くしちゃって。さっそくお泊まりで興奮しているのかな」
「そ、そんなことありませんって! とても楽しみですけど」
「ははっ、そっか」
ううっ、最近、綾奈先輩の前だと妄想するようになってきちゃったよ。昨日よりも内容が過激になっている気がするし。これもサキュバス体質の影響なのかな。
好きな綾奈先輩の家に泊まるからといって、変なことをしないように気を付けないと。先輩にはサキュバス体質もあるし、会長さんもいるんだし。
「おっ、美味そうな匂いがするな」
「ボロネーゼ作ったんだよね。あとで作ってあげるから涎を垂らさないでね、清恵ちゃん。愛花ちゃん、百合ちゃん、今日のバイト代を持ってきたよ。2人とも、今日はありがとうございました」
「ありがとうございます、マスターさん」
「ありがとうございました、店長さん」
店長さんから『給与』と書かれた白い封筒を受け取る。一応、中身を確認してみると、
「こ、こ、こんなにもらってしまっていいのでしょうか!」
封筒の中には10000と書かれたお札が1枚入っている。休憩がほとんどなく数時間働いたけれど、高校生なのにこんなにもらってしまっていいのだろうか。
「清恵ちゃんと相談して決めた額よ。こちらの都合で、日曜日に緊急に5時間働いてもらったこと。百合ちゃんは料理やスイーツを作る腕前が凄かったのでとても助かりました。その技術に対する報酬も考慮した結果、この額になりました」
「あの美味しいオムライスを作ることができるんだ。その腕前を振るったボーナスと考えてくれていいよ。今後、正規にスタッフとしてバイトをするときはまた考えるけれど、今日については葉子が言った考え方で給与を決めた」
「そうなんですね。分かりました。では、今日の分の給与……確かに受け取りました」
「うん、それでいい。愛花についても同じような考え方で決めた給与だから」
「分かりました。私もこんなにもらえて驚いていますけど、受け取ります。ありがとうございます」
会長さんも予想以上の給与をもらったんだ。どのくらいもらったのかちょっとだけ気になるけれど、訊くのは止めておこう。あと、バイト代をたくさんもらったからって無駄遣いしないように気を付けないと。
土曜日は綾奈先輩と植物園デートした後、会長さんと3人でお昼ご飯やスイーツを食べたりした。日曜日は綾奈先輩や会長さんと一緒にバイトをし、たくさん給料をもらうことができて。今度の週末は綾奈先輩の家でお泊まりする約束もして。とても充実して楽しい週末になったのであった。
できた料理やスイーツを出すときや、休憩に入るときにホールの様子を見たけど、綾奈先輩はもちろんのこと、会長さんもいい笑顔をして接客していた。さすがは生徒会長を務める人だと思う。あと、お客様が料理やスイーツを楽しそうに食べている姿を見ると凄く嬉しかった。
「白瀬さん。バイトの子が来たからもう終わりでいいよ」
「分かりました。今日はありがとうございました」
「お礼を言うのは私の方だよ。ありがとう。あと、ほとんど休憩を入れられなくてごめんね。でも、本当に助かった。清恵ちゃんの言うように、今後もキッチンスタッフとして働いてほしいくらい。あと、笑顔も素敵だから、きっとホールでもやっていけるよ」
「葉子ちゃんの言うとおりね。綾奈が興味を持った理由がちょっと分かった気がする。百合ちゃんはスタッフルームで休んでて。注文も落ち着いてきたから、みんなの分のまかない作っちゃうね」
「ありがとうございます。スタッフルームに行っていますね。失礼します」
午後3時過ぎ。
キッチンを出てスタッフルームへと向かう。そのとき、これからバイトをする女性と会い、その際に「お疲れ様でした」と笑顔で言われた。
スタッフルームに行くと、そこには温かい紅茶を飲んでいる会長さんの姿があった。
「会長さん、お疲れ様です。美紀さんがまかないを作ってくださるそうです」
「そうなのね。お疲れ様、百合ちゃん。紅茶淹れよっか?」
「お願いします」
私は会長さんの座っていた席の隣に座る。今までずっと立っていたからか、座った途端に疲れが出てきた。
「ふふっ、ぐったりしてる。ずっと料理作ってくれたもんね。はい、紅茶よ」
「ありがとうございます」
会長さんの淹れてくれた紅茶を一口飲む。数時間ずっとバイトをしたからか、紅茶の温かさが全身に優しく伝わっていく。
そういえば、会長さんと2人きりってこれが初めてなんだよね。そう思うと何だか緊張してくるな。そんなことを思いながら紅茶をもう一口飲んだ。
「会長さん、ホールの方はどうでしたか?」
「去年、短期バイトをしたときにはあまりやらなかったから不安もあったけれど、綾奈や清恵さんが一緒だったからか、すぐになくなったよ。女性のお客様が多くて、特に綾奈が近くを歩くだけで笑顔になる方もいて。サキュバス体質の影響もあるんだろうけど、かなりの人気なんだなって思った。仕事も完璧にこなしているし。あの子が1年以上、ああいう風にバイトをしているんだと思うと凄いなって。何だか、綾奈が遠い存在に思えてくるよ。特に最近は……」
はあっ、と会長さんは静かな笑みを浮かべたままため息をついた。
「綾奈先輩は凄いですよね。火曜日の放課後にここに来たときにも思いました」
「白瀬さんも凄いなって思ったよ。あなたの作った料理やスイーツをお客様は幸せそうに食べていたから」
「それなら良かったです。次から次へと注文が来ましたし、もちろんしっかりと作らないといけないので必死でした」
だからこそ、少し休憩は挟んだけど、数時間もキッチンで料理やスイーツを作り続けることができたのかな。
「みんなお疲れ様、まかないのボロネーゼを作ったよ」
「私も終わったから4人で食べようよ」
お盆を持った美紀さんが部屋の中に入ってきた。それに続いて綾奈先輩も。こうして一緒にいるところを見ると美人な親子だなと思う。
それにしても、ボロネーゼか。パスタ料理の中ではナポリタンやカルボナーラの次に注文が入ったな。ずっと料理を作っていたけど、こうして目の前にまかないのボロネーゼを出されると食欲がそそられてくる。
「美味しそうですね」
「お母さんの作る料理は美味しいよ、百合」
美紀さんが側にいるからか普段よりも子供っぽい感じがするな、綾奈先輩。そんな先輩と美紀さんはテーブルを挟んで、私や会長さんと向かい合うようにして座る。
「それじゃ、いただきます!」
『いただきまーす!』
美紀さんの一声で私達はまかないのボロネーゼを食べ始める。お肉の旨みが口の中に広がって、
「美味しい……」
気付けば、そう言ってしまっていた。そのせいか、みんなが優しい笑みをして私のことを見てくる。
「ね? 私の言うとおりでしょ?」
「そうですね。とても美味しいです、美紀さん」
「ありがとう」
美味しいのはもちろんだけれど、ずっと働いていてお腹が空いているからか食べるのが止まらないな。今日はずっと料理やスイーツを作っていたからか、こうして作っていただけることをとても有り難く思う。
「私が去年の夏休みにバイトしているときも、たまに美紀さんがボロネーゼを作ってくれたな。あのときのことを思い出したよ」
「そっか。愛花がバイトしているときはキッチンを担当することが多かったよね。今日はホールだったけれどどうだった?」
「百合ちゃんにも言ったけど、最初は不安だった。でも、綾奈や清恵さんが側にいたおかげでその不安もすぐになくなった。むしろ、楽しかったよ。花宮女子の友達が来ていたっていうのもあるかな」
花宮高校の生徒も来店していたんだ。綾奈先輩がバイトをしているからかな。徒歩圏内にはうちの寮もあるし。
「それなら良かったよ。愛花も百合も急なことだったのにありがとう。清恵さんもとても助かったって言っていたよ」
「親友からの頼みですから。久しぶりに綾奈と一緒にバイトができて楽しかったわ」
「突然でしたけど、バイトを体験できて良かったです。あと、あまり絡みはありませんでしたが、綾奈先輩や会長さんと一緒にお仕事ができて嬉しかったです」
今後、バイトを考えるときの参考にさせてもらおう。でも、ここならやっていけそうな気がするから、バイトをするならまずはここを考えようかな。
「2人がそう言ってくれて良かったよ。急なことだったし、せっかくの日曜日をバイトに費やすことになったから嫌だったかもなって」
「理由が理由だしそれは仕方ないよ。今日みたいに特に予定がなかったりしたら、また協力するよ」
「私も同じです!」
「うん、ありがとね」
綾奈先輩は嬉しそうに笑った。
「3人を見ていると、高校時代に友達と一緒にバイトをしたことを思い出すな。お母さんも女子高生になった感じがするよ。お母さんもバイト楽しかったよ! 百合ちゃんと一緒にお料理してお母さん楽しかった!」
「……自分のことをお母さんって言っている時点でお母さんのままだよ」
「あら、ついお母さんって言っちゃった。17年以上お母さんやっているから、そうなるのも仕方ないよね」
気持ちは女子高生になっても、口から出す言葉まではすぐに変えられないか。
それにしても、美紀さんは綾奈先輩のお母さんというよりは年の離れたお姉さんという感じだ。将来、綾奈先輩も美紀さんみたいな素敵な大人の女性になるんだろうな。そう考えると、美紀さんを見てちょっとドキドキしちゃう。
「百合、どうしたの? お母さんのことを見て。もしかして、自分のお母さんのことを思い出した?」
「いえ、そういうわけではないんですけど、ただ、家族が近くにいるっていいですよね。寮に暮らし始めてからたまにそう思うことがあります」
「そういえば、百合ちゃんは愛知の方から上京してきたのよね。百合ちゃんさえよければ、私が東京のお母さんになろうか?」
「ええと……そのお気持ちは有り難く受け取っておきます。ただ、気軽に話すことのできる大人の女性が花宮にいると思うと安心しますね」
その時点で『東京のお母さん』と言えるのかもしれないけど。あと、理想としては東京にいる『お義母さん』という関係になりたい。
「そうだ! 次の週末にでもうちに泊まりに来てよ。香奈も百合ちゃんに会いたがっているし。愛花ちゃんも久しぶりに」
「ああ、それいいね。百合なら泊まりに来ても大丈夫そうかな。あと、香奈っていうのは私の妹のことね。外泊っていうのは寮の規則的にOKなの?」
「はい、外泊は大丈夫ですよ。事前に許可を取らないといけないってこともありませんし」
寮といっても、実際はマンションを丸ごと学校が所有しているだけなので、厳しい規則は全くない。
「2年生になってからは一度も泊まっていないし、久しぶりに泊まりに行こうかな。特に予定もないから」
「分かった、愛花はお泊まり決定ね。百合はどうする?」
「私も泊まりにいきたいと思います」
「うん! じゃあ、来週末は愛花と百合が泊まりに来るってことで」
「よ、よろしくお願いします!」
まさか、綾奈先輩のお家にお泊まりすることなるなんて。今からドキドキしちゃうよ。どんなことが待っているんだろう。例えば、
『百合のことを見ていると、太もも以外にもフェチになりそう。ねえ、優しくするから素手で洗ってもいい?』
『百合、眠れないんだったらこっちで一緒に寝る? 愛花とはこれまでに何度も寝たことがあるから、今夜は百合と寝てみたいなって。そのときはもちろん、百合のことを抱きしめてもいい?』
みたいなことがあったりして。
「百合ったら、顔を赤くしちゃって。さっそくお泊まりで興奮しているのかな」
「そ、そんなことありませんって! とても楽しみですけど」
「ははっ、そっか」
ううっ、最近、綾奈先輩の前だと妄想するようになってきちゃったよ。昨日よりも内容が過激になっている気がするし。これもサキュバス体質の影響なのかな。
好きな綾奈先輩の家に泊まるからといって、変なことをしないように気を付けないと。先輩にはサキュバス体質もあるし、会長さんもいるんだし。
「おっ、美味そうな匂いがするな」
「ボロネーゼ作ったんだよね。あとで作ってあげるから涎を垂らさないでね、清恵ちゃん。愛花ちゃん、百合ちゃん、今日のバイト代を持ってきたよ。2人とも、今日はありがとうございました」
「ありがとうございます、マスターさん」
「ありがとうございました、店長さん」
店長さんから『給与』と書かれた白い封筒を受け取る。一応、中身を確認してみると、
「こ、こ、こんなにもらってしまっていいのでしょうか!」
封筒の中には10000と書かれたお札が1枚入っている。休憩がほとんどなく数時間働いたけれど、高校生なのにこんなにもらってしまっていいのだろうか。
「清恵ちゃんと相談して決めた額よ。こちらの都合で、日曜日に緊急に5時間働いてもらったこと。百合ちゃんは料理やスイーツを作る腕前が凄かったのでとても助かりました。その技術に対する報酬も考慮した結果、この額になりました」
「あの美味しいオムライスを作ることができるんだ。その腕前を振るったボーナスと考えてくれていいよ。今後、正規にスタッフとしてバイトをするときはまた考えるけれど、今日については葉子が言った考え方で給与を決めた」
「そうなんですね。分かりました。では、今日の分の給与……確かに受け取りました」
「うん、それでいい。愛花についても同じような考え方で決めた給与だから」
「分かりました。私もこんなにもらえて驚いていますけど、受け取ります。ありがとうございます」
会長さんも予想以上の給与をもらったんだ。どのくらいもらったのかちょっとだけ気になるけれど、訊くのは止めておこう。あと、バイト代をたくさんもらったからって無駄遣いしないように気を付けないと。
土曜日は綾奈先輩と植物園デートした後、会長さんと3人でお昼ご飯やスイーツを食べたりした。日曜日は綾奈先輩や会長さんと一緒にバイトをし、たくさん給料をもらうことができて。今度の週末は綾奈先輩の家でお泊まりする約束もして。とても充実して楽しい週末になったのであった。
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