白百合に泣く

桜庭かなめ

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第27話『ライバルバス』

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「ああ、お風呂気持ち良かった」

 部屋を後にしてから30分ほど。水色の寝間着姿の綾奈先輩が戻ってきた。普段とは違って、髪型がストレートのロングヘアになっているので印象が変わる。いつもよりも可愛らしくてとても素敵だ。

「綾奈、おかえり」
「おかえりなさい、綾奈先輩」
「うん、ただいま。香奈とひさしぶりに入って楽しかった。愛花、百合とは楽しく話すことはできた?」
「もちろん。……ね?」
「ええ」

 すると、会長さんは私に寄り添ってくる。

「それなら良かったよ。何かさっきよりも2人が仲良くなった気がするな」

 綾奈先輩は嬉しそうな笑みを浮かべて、勉強机の椅子に座る。バスタオルで髪を拭いている姿も凄く綺麗で艶やかだ。さっきよりもドキドキするのは、お風呂に入ったことでサキュバス体質の影響がより出ているのだろうか。

「次は愛花や百合が入って」
「そうね。……百合ちゃん、先に入ったら? 初めて来たんだし」
「会長さんこそ先に入っていいですよ。年上ですし」

 どっちが先でも1人ずつ入ったら、この部屋で綾奈先輩と2人きりになる時間がそれぞれにできるけれど、綾奈先輩が好きだって話したからか、私が先に先輩と2人きりの時間を過ごしたい。

「あははっ、2人とも譲り合っちゃって可愛いね。お互いに体を見せるのが恥ずかしくなければ、一緒に入ってみるのもいいんじゃないかな。うちのお風呂、2人くらいだったら普通に入れるし」

 綾奈先輩の提案を受けて、私は会長さんと顔を見合う。誰かと一緒にお風呂に入ることも嫌いじゃないし、綾奈先輩じゃなくて会長さんなら大丈夫かな。

「私は一緒に入っていいよ。百合ちゃんは?」
「私もいいですよ」

 このまま譲り合ってもしばらくは決まりそうにないし。会長さんとなら楽しく入ることができそうだ。

「じゃあ、一緒に入りましょうか」
「決まりだね。愛花、シャンプーやボディーソープがどれか分かる? 前に愛花が泊まりに来てから変わっていないと思うけど」
「オレンジ色のボトルがリンス入りのシャンプーで、白色のボトルがボディーソープだよね?」
「うん、そうだよ。じゃあ、大丈夫だね。2人ともゆっくり入ってきて」

 それから、私はタオルや着替えを持って会長さんと一緒に脱衣室へと向かう。ついさっきまで、綾奈先輩と香奈ちゃんがお風呂に入っていたからか、ここにいる時点でいい香りがしてくる。
 会長さんの隣で服を脱いでいくけど、どうしても会長さんの方をチラチラと見てしまう。前からスタイルがいいとは思っていたけど、服を脱ぐと凄い。

「どうしたの、私の方を見て」
「いや、その……スタイルがいいなと思いまして。とても大きなものも持っていますし、肌も綺麗ですから羨ましいです」
「そう? 私なんかよりも綾奈の方がよっぽどスタイルがいいと思うけど。それに、百合ちゃんだって肌は白くて綺麗だし、胸もそれなりにあるじゃない」
「そう……でしょうかね」

 会長さんも綾奈先輩も胸が大きいから、どうしても自分の胸は小さく感じて。
 ただ、美琴ちゃんからは私くらいに大きくなりたいと言われたこともあるし、私の胸も人によっては結構な大きいと思われるのかもしれない。
 浴室に入ると、さっきよりもシャンプーやボディーソープの匂いが強く感じられる。あと、綾奈先輩がいないのにドキドキするというか。

「会長さん、どうしてドキドキしてくるのでしょう」
「綾奈が入った直後で、彼女のフェロモンがまだ残っているからだと思うわ。あとは、好きな人の匂いがするからかな。私はずっと綾奈の側にいて、一緒にお風呂に入ったこともたくさんあるからあまりドキドキしないけど」
「なるほど。きっと、慣れとかもあるんでしょうね」

 私も綾奈先輩と一緒にいるだけなら、前みたいに凄くドキドキすることはないな。綾奈先輩の体質に慣れていくのはいいことだろうけど、寂しくも思える。

「さあ、百合ちゃん。髪と体を洗ってあげるよ」
「いいんですか?」
「ええ、もちろん。それに、妹がいるからか、年下の可愛い女の子と一緒にお風呂に入ると髪や体を洗いたくなっちゃうの」
「その気持ち何だか分かる気がします。うちの場合は妹が髪を洗ってほしいって甘えてくるんですけどね」
「最近はそういうことはなくなったけど、私の妹も小さい頃は甘えっ子だったよ」
「そうなんですか。では、髪と体をお願いします、会長さん。その後で、私も会長さんの髪と体を洗いますね」
「うん」

 私は会長さんに髪と体を洗ってもらう。
 実家にいた頃、妹に洗ってもらったことはあったけれど、ここまで丁寧で優しくはなかったな。私にお姉ちゃんがいたら、お風呂に入るときはこういう感じだったのかな。妹も私に洗ってもらったときは、今みたいに気持ち良かったのかなと思う。

「はい、体の方もこれでいいかな。百合ちゃんの肌、スベスベでいいね」
「ありがとうございます。気持ち良かったです。今度は会長さんですね」
「ええ、お願いするわ」

 立場を交代して、今度は私が会長さんの髪と体を洗うことに。
 会長さんの長い金髪を初めて触るけれど、サラサラしていて気持ちいいな。一日、会長さんと髪を交換して過ごしてみたい。この美しい髪を傷ませないよう丁寧に洗った。
 体の方は……見た目の印象通りでスベスベしていて、とても綺麗な肌をしている。柔らかさも感じられて。部屋に戻ってきたときの綾奈先輩と同じ匂いがするからか、会長さんの背中にキスとかをしたくなってしまう。そんな衝動を何とか抑えて、会長さんの体をしっかりと洗うことに徹した。

「はい、体の方もこれで終わりました。何だか会長さん……凄かったです」
「その言葉、何だか厭らしく聞こえる。体を洗っているときに鏡越しであなたの顔を見ていたけれど、百合ちゃんはうっとりとした表情をしていたから」
「それは、その……綾奈先輩と同じ匂いがしたので」
「……それは百合ちゃんだって同じじゃない」

 すると、会長さんはゆっくりと私の方に振り返って、ニッコリと笑みを浮かべる。

「さあ、一緒に湯船に浸かりましょう」
「はい」

 私は会長さんと向かい合うような形で湯船に浸かる。体育座りのような形で座れば、会長さんとは軽く足元が触れるくらいだった。それでも、自分の家の湯船よりも広く感じる。
 それにしても、さっきまでここに綾奈先輩が浸かっていたと思うと興奮してくる。のぼせたり、あかりちゃんのように鼻血出したりしないように気を付けなきゃ。

「気持ちいいね」
「ええ。6月も半ばですけど、夜はまだ涼しいですからね。あと、高校生が2人浸かってもゆったりできるなんて、かなり広いですよね」
「そうね。百合ちゃんよりも体が大きい綾奈と浸かっても、狭いって感じることはないかな。私や綾奈が小学生の頃は、香奈ちゃんや私の妹と4人で入ったこともあったの。さすがに4人だとちょっと狭く感じたけどね」
「ふふっ、会長さんにとって綾奈先輩の家は思い出でいっぱいなんですね」

 それがとても羨ましくて、悔しいなって思う。私もここで綾奈先輩や会長さんとたくさんの思い出を作りたい。

「出会ってから10年くらい経つし、特に小学生の頃はしょっちゅうお互いの家に遊びに行っていたからね。ここや自分の家は私にとって憩いの場所。だからこそ、色々とあったけれど何とかここまでやってこられたんじゃないかなって思う」
「自分の居場所があるって安心しますよね。私も鷲尾さんと話した後、心がザワザワとして。でも、寮に戻って自分の家に戻ったときにちょっと安心したんです。そうなったのはきっと、自分が自分でいて大丈夫な場所だからなんじゃないかなって思うんです。それが自分の居場所なんだと思いますね」
「なるほどね。確かに、ここや自分の家にいると気が楽になる。綾奈も同じだといいな」
「きっと……同じですって」

 少なくとも、会長さんと一緒に笑顔でいられる場所は、綾奈先輩にとっての居場所だと思う。私の家も2人にとっての居場所になればいいな。

「まさか、百合ちゃんと一緒に綾奈の家のお風呂に入るとは思わなかったな」
「私もです。今夜は1人で入るか、香奈ちゃんと一緒だと思っていたので」
「香奈ちゃん、百合ちゃんに興味津々みたいだったもんね。でも、今日はあなたと一緒に入ることができて良かったわ。部屋で綾奈のことを話したことを含めて、百合ちゃんとグッと距離が縮まった気がするから」
「ふふっ、そうですか。私も会長さんと入ったので今日のことは忘れないと思います。それに、今日のことを通して、会長さんって凄く親しみやすくて可愛らしい人だなって思えました。恋のライバルになっちゃいましたけど」
「ふふっ、ライバルになっちゃったね。でも、あなたには話して良かったと思ってる。ライバルではあるけど、好きな人のことを話せるって素敵だなって。その初めての相手が百合ちゃんで良かった。綾奈のことはあるけど、これからも私と仲良くしてくれると嬉しいな」

 いつもの落ち着いた笑みを浮かべながらそう言うと、会長さんは私に右手を差し出してくる。私が会長さんの手をそっと掴むと、

「きゃっ」

 会長さんが勢いよく私の方に引き寄せ、抱きしめてくる。

「ふふっ、改めて抱きしめてみると、綾奈の言うとおり百合ちゃんは抱き心地がいいな。あと、百合ちゃんの匂いって落ち着くから好きかも……」
「もう、ビックリしたじゃないですか」
「いいじゃないの。私にとって、ハグは親愛の証なんだから」
「そうなんですか」

 私も抱きしめ合うことは、友好的な行動っていうイメージはあるかな。私も両手を会長さんの背中に回す。

「会長さんの抱き心地もいいですよ」
「ふふっ。でも、いつかはお風呂で綾奈に抱きしめられたいかな」
「……私も同じことを考えました」
「やっぱり?」
「だって、先輩は私の好きな人ですから」
「私だって」

 好きな人が絡むと同じようなことを考えちゃうよね。
 私だけじゃなくて、会長さんも距離が縮まったと思ってくれていたことが嬉しかった。そんなことを思いながら、会長さんとお風呂の優しい温もりと楽しむのであった。
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