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第43話『風邪の日』
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6月26日、火曜日。
目を覚まして、最初に感じたのはいつにない熱っぽさだった。
ゆっくりと体を起こそうとすると妙に体が重くて、全身に寒気が走った。頭もクラクラするし。
「風邪引いちゃった……」
たぶん、白百合の花の前で、雨に打たれながら泣き続けたことで体を冷やしたのが原因だと思う。あとは、ここ3日くらいのことで精神的に参ってしまったことか。
「何をやっているんだろうな、私」
本当は綾奈先輩のことを支えなきゃいけないのに、自分まで体調を崩しちゃうなんて。情けないな。
スマートフォンで時刻を確認すると、今は午前7時過ぎか。この時間だったら、美琴ちゃん達や会長さんと由佳先生に学校を休むって連絡しても大丈夫かな。
由佳先生には電話で、美琴ちゃん達や会長さんにはメッセージで今日は学校を休むことを伝えた。みんな、ゆっくりと休んでと言ってくれた。
とりあえずまた寝よう。ちゃんと眠れるかどうか分からないけど。そう思って私は目を瞑った。すると、程なくして全身がふんわりとした感覚に包まれた。
「百合」
真っ暗な世界の中、病院着を着ている綾奈先輩が、寂しげな笑みを浮かべながら私のことを見つめている。
「百合が告白してくれて嬉しかったよ。本当はもっと一緒にいたかったけど、体がもう持たないみたいなんだ。ごめんね、百合。もう、お別れの時間だよ」
「あ……」
綾奈先輩って名前を呼ぼうとしても、全然声が出ない。お別れってまさか……綾奈先輩が死ぬってことなの?
「百合、じゃあね」
綾奈先輩は私に小さく手を振って段々遠ざかっていく。先輩のことを追いかけようとするけれど、先輩の姿は小さくなっていくばかり。
先輩、先輩!
「綾奈先輩!」
気付けば、視界には見慣れてきた天井が。もしかして、今のは夢だったのかな。
すぐにスマートフォンを確認してみると、先輩の容体が急変したとか亡くなったというメッセージは1つも届いていなかった。そのことに一安心する。
それにしても、今は午後4時過ぎなんだ。あれから8時間以上また眠ったんだ。疲れが溜まっていて、具合が悪いとはいえ我ながらよく眠れたものだ。
ゆっくりと体を起こすと、朝に比べるとだるさがだいぶなくなっていた。寒気もしなくなったし。でも、汗を結構掻いちゃっているなぁ。
――ピンポーン。
家のインターホンが鳴る。寝間着姿で出るのは恥ずかしいけど、うちの生徒だと思うので出るか。
「は、はい……」
ゆっくりと玄関を開けてみると、
「百合、お見舞いに来たよ。あと、今日の授業で渡されたプリントを届けに」
「ゆーりん、具合はどうだ?」
「百合ちゃんの様子が気になってみんなで来ちゃいました」
「何かできるかもしれないと思って来たわ、百合ちゃん」
そこには美琴ちゃん、夏実ちゃん、あかりちゃん、会長さんがいた。あんな夢を見たからか、元気そうなみんなの姿を見ると安心する。
「朝に比べたら楽にはなりました。さあ、入ってください」
みんな、心配してきてくれたんだ。嬉しいな。そういえば、一度に4人も来るのってこれが初めてかもしれない。
「百合、汗を掻いているみたいだけれど……」
「うん。熱もあったからね。ついさっき目が覚めて」
「そっか。じゃあ、あたしが拭いてあげるよ。タオルって確か洗面所にあったよね」
「そうだよ。ありがとう」
具合も良くなってきたけど、今日は美琴ちゃんのご厚意に甘えよう。
「ついさっき目が覚めたってことは、まだ食事を取っていないのかしら?」
「はい。今日は朝に一度起きて、みんなや担任の由佳先生に欠席するって連絡を入れたらすぐにまた寝たので。今日は全く食事を取っていないです」
「そうなのね。じゃあ、お粥とか何か消化のいいものを作るね」
「ありがとうございます。ただ、お粥はレンジで温めるだけでできるものを買ってありますので。冷蔵庫の横の棚に入ってます」
「分かった。じゃあ、私はお粥を準備するね」
会長さんは料理が上手らしいので、彼女の作ったものを食べてみたいけど、それは元気になってからのお楽しみってことで。
「百合、タオル持ってきたよ。ほら、上の寝間着を脱いで」
「わ、私が脱がせましょうか? 百合ちゃん」
「そのくらいは自分でできるから大丈夫だよ、あかりちゃん。夏実ちゃん、あかりちゃんのことを見ていてくれる?」
「うん、任された!」
夏実ちゃんはあかりちゃんのことを羽交い締めに。興奮しているあかりちゃんのことを見て、こうするのが一番いいと思ったのかな。
上の寝間着を脱いで、さっそく美琴ちゃんに背中を拭いてもらうことに。
「こういう感じで大丈夫かな」
「うん。優しくて気持ちいいよ」
「それは良かった。……やっぱり、百合っていい匂いがするよね。この前、一緒に眠ったときにも思ったけど」
「そう言ってくれるからいいけど、汗が臭っている感じがしてちょっと複雑かな」
「……はあっ、はあっ。目の前に素晴らしい光景が広がっていますよ。一度、告白してフラれても、親友としてまた仲良くなったという背景があるのでまたいいです。夏実ちゃんもそう思いませんか?」
「はいはい、いい光景だと思うよ。あと、鼻血が出ないように気を付けな」
「夏実の言う通りだよ。鼻血で制服とか、この絨毯を汚したらまずいし」
「そうですね。気を付けないといけませんね。ただ、そう考えた途端、鼻の周辺が急に熱くなってきました」
えへへっ、とあかりちゃんは頬を赤くしながらも幸せそうな笑みを浮かべている。本当にブレないな。そこが彼女のいいところじゃないかって思う。あと、美琴ちゃんはあかりちゃんや夏実ちゃんに、私に告白してフラれたことを話したんだ。
「百合、背中は拭き終わったよ。前の方はどうする?」
「さすがに前は自分で拭くよ。美琴ちゃん、ありがとう」
「いえいえ」
美琴ちゃんからタオルを受け取って前の方を拭いていく。みんなに見られているの恥ずかしいな。ただ、汗を拭き取るだけでも結構スッキリする。
「百合ちゃん、お粥できたよ。百合ちゃんの言うようにレンジで温めただけだけど」
「ありがとうございます、会長さん」
「熱いだろうし、私が食べさせてあげるわ」
「……じゃあ、お言葉に甘えて」
「そうそう。体調を崩しているときは甘えるのが一番だよ。はい、あ~ん」
「……あ、あ~ん」
私は会長さんにお粥を食べさせてもらうことに。こうしている会長さんを見ると、妹さんにはこういう表情をしているのかなと思う。会長さんが冷ましてくれたおかげかちょうどいい温かさだ。
「……美味しいです」
「市販のものだからね。でも、ちゃんと食べてくれると安心するかな」
「いいですねぇ。私もとても美味しい光景をいただいておりますよ」
「……瀬戸さんって見かけによらず、興奮しやすいタイプなのね」
「女性同士が仲良くする光景は大好物ですから」
「本人もこう言っていますし、あかりんのことは気にせずにゆーりんにお粥を食べさせてあげてください」
「わ、分かったわ、能登さん」
その後はたまに美琴ちゃんにも手伝ってもらいながら、お粥を食べていった。準備だけじゃなくて、食べさせてもらうことまでしてもらうと体調が悪くても美味しく思えた。
「お粥、ご馳走様でした」
「いえいえ。百合ちゃんが完食してくれて一安心」
安堵の笑みを浮かべるのは会長さんだけではなく、美琴ちゃん、夏実ちゃん、あかりちゃんも同じだった。そんな4人を見て私も心が安らぐ。
「さっき、玄関を開けてみなさんの顔を見たときにとても安心して、お見舞いに来てくれて嬉しかったです。ありがとうございます。もちろん、綾奈先輩がいればもっと良かったんですけど」
「綾奈は百合ちゃんの恋人だもんね。……実は昨日、泉宮さんと一緒にあなたをここまで連れてきた後、綾奈のお見舞いに行ったけど、変わりなく眠ってた。今日の午前中に美紀さんがお見舞いへ行ったときも同じだったって」
「そうでしたか……」
一生、意識が戻らずに亡くなるかもしれないと言われたほどだ。倒れてから3日くらいで意識を取り戻したら、それはとても運がいいのかもしれない。
「元気になったら、綾奈先輩のお見舞いに毎日行きたいですね。恋人の顔を見たいですから。それに、意識がなくても私が側にいれば何か変わるかもしれませんし」
「百合ちゃん……」
「みんな、心配掛けてごめんなさい。綾奈先輩のことで凄く落ち込んで。特に美琴ちゃんと会長さんにはご迷惑をお掛けしました」
思い返せばみんな優しく接してくれたのに、私はずっと落ち込んだままだった。ため息をついてばかりで、涙を流し続けることもあった。本当に申し訳ない気持ちでいっぱい。
意識を失っているときの話を綾奈先輩が聞いたら、先輩も落ち込んでしまいそうだ。
「あたしは百合が悪いなんて全く思ってないよ」
「泉宮さんの言う通りね。私だってかなり落ち込んだし、むしろ百合ちゃんは昨日の放課後になるまで、よく泣かなかったって思ったくらいだから」
「恋人がいつ目覚めるか分からない状態なのです。あまり落ち込まない人の方が少ないかと思います。落ち込んだり、悲しく思ったりしていいのです。それだけ神崎先輩を大切に想っている証拠だと思いますから。1人でいたいときもあるでしょう。それもいいと思います。ただ、誰かと一緒にいたいときは、いつでも私達に言っていいということを覚えておいてくれると嬉しいです」
「ゆーりんだってあたしが告白するまでに色々と支えてくれたじゃない。今度はあたしがゆーりんを支える番だ」
4人とも私に優しい笑みを見せてくれて。あぁ、私は花宮女子高校でこんなに素敵な人達と出会ったんだなと思った。
「……ありがとう」
早く体調を良くして、綾奈先輩のお見舞いに行って唾液を接種させたい。もしかしたら、それ以外にも先輩がサキュバス体質を持っているからこそ、私にできることがあるかもしれないから。
目を覚まして、最初に感じたのはいつにない熱っぽさだった。
ゆっくりと体を起こそうとすると妙に体が重くて、全身に寒気が走った。頭もクラクラするし。
「風邪引いちゃった……」
たぶん、白百合の花の前で、雨に打たれながら泣き続けたことで体を冷やしたのが原因だと思う。あとは、ここ3日くらいのことで精神的に参ってしまったことか。
「何をやっているんだろうな、私」
本当は綾奈先輩のことを支えなきゃいけないのに、自分まで体調を崩しちゃうなんて。情けないな。
スマートフォンで時刻を確認すると、今は午前7時過ぎか。この時間だったら、美琴ちゃん達や会長さんと由佳先生に学校を休むって連絡しても大丈夫かな。
由佳先生には電話で、美琴ちゃん達や会長さんにはメッセージで今日は学校を休むことを伝えた。みんな、ゆっくりと休んでと言ってくれた。
とりあえずまた寝よう。ちゃんと眠れるかどうか分からないけど。そう思って私は目を瞑った。すると、程なくして全身がふんわりとした感覚に包まれた。
「百合」
真っ暗な世界の中、病院着を着ている綾奈先輩が、寂しげな笑みを浮かべながら私のことを見つめている。
「百合が告白してくれて嬉しかったよ。本当はもっと一緒にいたかったけど、体がもう持たないみたいなんだ。ごめんね、百合。もう、お別れの時間だよ」
「あ……」
綾奈先輩って名前を呼ぼうとしても、全然声が出ない。お別れってまさか……綾奈先輩が死ぬってことなの?
「百合、じゃあね」
綾奈先輩は私に小さく手を振って段々遠ざかっていく。先輩のことを追いかけようとするけれど、先輩の姿は小さくなっていくばかり。
先輩、先輩!
「綾奈先輩!」
気付けば、視界には見慣れてきた天井が。もしかして、今のは夢だったのかな。
すぐにスマートフォンを確認してみると、先輩の容体が急変したとか亡くなったというメッセージは1つも届いていなかった。そのことに一安心する。
それにしても、今は午後4時過ぎなんだ。あれから8時間以上また眠ったんだ。疲れが溜まっていて、具合が悪いとはいえ我ながらよく眠れたものだ。
ゆっくりと体を起こすと、朝に比べるとだるさがだいぶなくなっていた。寒気もしなくなったし。でも、汗を結構掻いちゃっているなぁ。
――ピンポーン。
家のインターホンが鳴る。寝間着姿で出るのは恥ずかしいけど、うちの生徒だと思うので出るか。
「は、はい……」
ゆっくりと玄関を開けてみると、
「百合、お見舞いに来たよ。あと、今日の授業で渡されたプリントを届けに」
「ゆーりん、具合はどうだ?」
「百合ちゃんの様子が気になってみんなで来ちゃいました」
「何かできるかもしれないと思って来たわ、百合ちゃん」
そこには美琴ちゃん、夏実ちゃん、あかりちゃん、会長さんがいた。あんな夢を見たからか、元気そうなみんなの姿を見ると安心する。
「朝に比べたら楽にはなりました。さあ、入ってください」
みんな、心配してきてくれたんだ。嬉しいな。そういえば、一度に4人も来るのってこれが初めてかもしれない。
「百合、汗を掻いているみたいだけれど……」
「うん。熱もあったからね。ついさっき目が覚めて」
「そっか。じゃあ、あたしが拭いてあげるよ。タオルって確か洗面所にあったよね」
「そうだよ。ありがとう」
具合も良くなってきたけど、今日は美琴ちゃんのご厚意に甘えよう。
「ついさっき目が覚めたってことは、まだ食事を取っていないのかしら?」
「はい。今日は朝に一度起きて、みんなや担任の由佳先生に欠席するって連絡を入れたらすぐにまた寝たので。今日は全く食事を取っていないです」
「そうなのね。じゃあ、お粥とか何か消化のいいものを作るね」
「ありがとうございます。ただ、お粥はレンジで温めるだけでできるものを買ってありますので。冷蔵庫の横の棚に入ってます」
「分かった。じゃあ、私はお粥を準備するね」
会長さんは料理が上手らしいので、彼女の作ったものを食べてみたいけど、それは元気になってからのお楽しみってことで。
「百合、タオル持ってきたよ。ほら、上の寝間着を脱いで」
「わ、私が脱がせましょうか? 百合ちゃん」
「そのくらいは自分でできるから大丈夫だよ、あかりちゃん。夏実ちゃん、あかりちゃんのことを見ていてくれる?」
「うん、任された!」
夏実ちゃんはあかりちゃんのことを羽交い締めに。興奮しているあかりちゃんのことを見て、こうするのが一番いいと思ったのかな。
上の寝間着を脱いで、さっそく美琴ちゃんに背中を拭いてもらうことに。
「こういう感じで大丈夫かな」
「うん。優しくて気持ちいいよ」
「それは良かった。……やっぱり、百合っていい匂いがするよね。この前、一緒に眠ったときにも思ったけど」
「そう言ってくれるからいいけど、汗が臭っている感じがしてちょっと複雑かな」
「……はあっ、はあっ。目の前に素晴らしい光景が広がっていますよ。一度、告白してフラれても、親友としてまた仲良くなったという背景があるのでまたいいです。夏実ちゃんもそう思いませんか?」
「はいはい、いい光景だと思うよ。あと、鼻血が出ないように気を付けな」
「夏実の言う通りだよ。鼻血で制服とか、この絨毯を汚したらまずいし」
「そうですね。気を付けないといけませんね。ただ、そう考えた途端、鼻の周辺が急に熱くなってきました」
えへへっ、とあかりちゃんは頬を赤くしながらも幸せそうな笑みを浮かべている。本当にブレないな。そこが彼女のいいところじゃないかって思う。あと、美琴ちゃんはあかりちゃんや夏実ちゃんに、私に告白してフラれたことを話したんだ。
「百合、背中は拭き終わったよ。前の方はどうする?」
「さすがに前は自分で拭くよ。美琴ちゃん、ありがとう」
「いえいえ」
美琴ちゃんからタオルを受け取って前の方を拭いていく。みんなに見られているの恥ずかしいな。ただ、汗を拭き取るだけでも結構スッキリする。
「百合ちゃん、お粥できたよ。百合ちゃんの言うようにレンジで温めただけだけど」
「ありがとうございます、会長さん」
「熱いだろうし、私が食べさせてあげるわ」
「……じゃあ、お言葉に甘えて」
「そうそう。体調を崩しているときは甘えるのが一番だよ。はい、あ~ん」
「……あ、あ~ん」
私は会長さんにお粥を食べさせてもらうことに。こうしている会長さんを見ると、妹さんにはこういう表情をしているのかなと思う。会長さんが冷ましてくれたおかげかちょうどいい温かさだ。
「……美味しいです」
「市販のものだからね。でも、ちゃんと食べてくれると安心するかな」
「いいですねぇ。私もとても美味しい光景をいただいておりますよ」
「……瀬戸さんって見かけによらず、興奮しやすいタイプなのね」
「女性同士が仲良くする光景は大好物ですから」
「本人もこう言っていますし、あかりんのことは気にせずにゆーりんにお粥を食べさせてあげてください」
「わ、分かったわ、能登さん」
その後はたまに美琴ちゃんにも手伝ってもらいながら、お粥を食べていった。準備だけじゃなくて、食べさせてもらうことまでしてもらうと体調が悪くても美味しく思えた。
「お粥、ご馳走様でした」
「いえいえ。百合ちゃんが完食してくれて一安心」
安堵の笑みを浮かべるのは会長さんだけではなく、美琴ちゃん、夏実ちゃん、あかりちゃんも同じだった。そんな4人を見て私も心が安らぐ。
「さっき、玄関を開けてみなさんの顔を見たときにとても安心して、お見舞いに来てくれて嬉しかったです。ありがとうございます。もちろん、綾奈先輩がいればもっと良かったんですけど」
「綾奈は百合ちゃんの恋人だもんね。……実は昨日、泉宮さんと一緒にあなたをここまで連れてきた後、綾奈のお見舞いに行ったけど、変わりなく眠ってた。今日の午前中に美紀さんがお見舞いへ行ったときも同じだったって」
「そうでしたか……」
一生、意識が戻らずに亡くなるかもしれないと言われたほどだ。倒れてから3日くらいで意識を取り戻したら、それはとても運がいいのかもしれない。
「元気になったら、綾奈先輩のお見舞いに毎日行きたいですね。恋人の顔を見たいですから。それに、意識がなくても私が側にいれば何か変わるかもしれませんし」
「百合ちゃん……」
「みんな、心配掛けてごめんなさい。綾奈先輩のことで凄く落ち込んで。特に美琴ちゃんと会長さんにはご迷惑をお掛けしました」
思い返せばみんな優しく接してくれたのに、私はずっと落ち込んだままだった。ため息をついてばかりで、涙を流し続けることもあった。本当に申し訳ない気持ちでいっぱい。
意識を失っているときの話を綾奈先輩が聞いたら、先輩も落ち込んでしまいそうだ。
「あたしは百合が悪いなんて全く思ってないよ」
「泉宮さんの言う通りね。私だってかなり落ち込んだし、むしろ百合ちゃんは昨日の放課後になるまで、よく泣かなかったって思ったくらいだから」
「恋人がいつ目覚めるか分からない状態なのです。あまり落ち込まない人の方が少ないかと思います。落ち込んだり、悲しく思ったりしていいのです。それだけ神崎先輩を大切に想っている証拠だと思いますから。1人でいたいときもあるでしょう。それもいいと思います。ただ、誰かと一緒にいたいときは、いつでも私達に言っていいということを覚えておいてくれると嬉しいです」
「ゆーりんだってあたしが告白するまでに色々と支えてくれたじゃない。今度はあたしがゆーりんを支える番だ」
4人とも私に優しい笑みを見せてくれて。あぁ、私は花宮女子高校でこんなに素敵な人達と出会ったんだなと思った。
「……ありがとう」
早く体調を良くして、綾奈先輩のお見舞いに行って唾液を接種させたい。もしかしたら、それ以外にも先輩がサキュバス体質を持っているからこそ、私にできることがあるかもしれないから。
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