器量なしのオメガの僕は

いちみやりょう

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23 ※プチ残酷な表現あり

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「何をしている」

四宮が後ろから声をかけると、目の前の人物はびくりと背中を震わせた。

「は、晴臣」

頬を引きつらせながら振り向いた五十嵐に、四宮は冷たい目を向けた。

「一歌、今、その皿に何を入れたんだ?」
「な、何も」
「そうか」

そう答えた四宮に、一歌が口の端をわずかにあげたのが見え四宮は全身に不快な気持ちが走った。

「その皿の中身を全てお前が食え。今ここでだ。何も入れていないなら食べられるだろう?」

五十嵐は助けを求めるように周りを見たが、当然のように周りには従業員は1人もいなかった。

「ど、どうしたの。突然……晴臣ってそんな話し方だったっけ?」
「身内や親しい相手にこんな態度は取らないな」
「え」
「いいからそれを早く食え」
「で、でも、これは千秋に」
「そうか、千秋の食べ物は俺が用意するから気にするな。早く食え。何も入れていないんだよな? 食えるよな?」

四宮は、五十嵐に近づき至近距離で見下ろした。
五十嵐は四宮が近づくに連れ目を見開きガタガタと震え、怯え始めた。
四宮がアルファの威圧を五十嵐にぶつけているからだ。
上位アルファの強い威圧は、ベータ相手にも通用する。
だからこそアルファは常に穏やかにいなければならない。
だが、四宮はまっすぐに五十嵐に向かってそれを放っていた。
四宮にとって五十嵐は、血は繋がっていなくとも可愛い従兄弟で、弟のように思っていた。
だが、もうその感情は残っておらず、むしろこの威圧に耐えられずに五十嵐が潰れてしまってもいいとすら思っていた。


「うっ、げほっ、げほっ」

苦しみだした五十嵐を四宮は軽蔑したような顔をして見下ろしていた。

「食えるよな。ほら」

四宮が五十嵐の目の前にスプーンを差し出すと、五十嵐はまるで操られたかのように受け取った。

「なんで……。晴臣っ、うう、ごほっ」
「なんでって何が」
「俺はただっ、晴臣のことが好きだっただけなのに」
「はっ。好きだっただけだったらこんなことにはなってないな。気に食わない相手がいることはあるだろう。だが、ラット中の俺の部屋に放り込んだり、そのまま屋敷を追い出したり、あまつさえ、毒まで盛ろうとした。お前は千秋にとって……いや、この屋敷全体からしても害だ。害虫だ」

好きな人に害虫とまで言われた五十嵐の顔は絶望に染まった。

「晴臣……」
「害虫が気安く呼ぶな。まぁ、食べられる訳ないよな。お前が毒を入れたんだから。警察にこのまま行くしかないな」
「まっ、嫌だ!! 警察は嫌だ。食べるからっ、お願い」
「そうか。じゃあ早く食え」
「っ」

五十嵐は震える手で、皿の中のスープを救って一口飲み込んだ。
けれど四宮はそれだけでは許すわけがないというようにジッと五十嵐の様子を見続ける。

五十嵐は観念して1口、もう1口と毒入りのスープを飲み込んだ。

「ううっ、げほっ、う゛ぁ」
「苦しいか? 自業自得だけどな。その苦しい思いを千秋にさせようとしていたんだお前は」


五十嵐は喉を抑えて苦しみ出し、それを無表情でしばらく眺めていた四宮は、ゆっくりと立ち上がった。
廊下に出て従業員を1人捕まえる。

「ああ君、救急車を呼んでいただけますか? 彼が自分で入れた毒を誤って自分で食べてしまったようなんです」
「えっ、はい!!」

頼んだ従業員は大慌てで電話まで走って行った。
四宮は何事もなかったかのように千秋の世話をするために部屋に戻った。
その後も警察から事情聴取などがあって、四宮はラット中の千秋の事件も洗いざらい話し、さらには千秋を連れ帰った際にキッチンに予め取り付けておいた防犯カメラの映像を提供して五十嵐も五十嵐の取り巻きたちも無事に逮捕されることとなった。

ーーこれで、とりあえずこの屋敷の膿は出したな。ああ俺がぼーっと死んだような生活を送っている間にこの屋敷は俺と共に腐っていってたのか

四宮は今までの自分を猛烈に反省した。
千秋と出会って変わってきている自分に気がつくたびに、胸の奥がうずくような少しだけ恥ずかしい気持ちになる。

ーーこのことは千秋にバレないようにしないとな。

千秋の笑顔を想像してフッと息が漏れた。
千秋がただ生きて、四宮のそばにいてくれる。それだけのことで四宮は心の底から幸せを感じていた。

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