13 / 16
7話 1886年 3月 アルキュミア王国 王都パラケススにて
しおりを挟む
時は少し巻き戻り、まだ肌寒い3月の中旬。
まだあどけなさが残っている15歳の少女、ルキーナ・トレイボルブランコ=ヴィーゲンリートは今日も屋敷の掃除をしていた。
ルキーナがいる街。
それは、アルキュミア王国の王都パラケルスス。
高い円環の壁に覆われ、空を突き刺すような茶色い鉄の建物や、巧妙なカラクリが蠢く工場などの建物が並んでいる。
そして、通称『霧の街』と呼ばれている。
その理由は、多くのものが蒸気機関で動いていることと、元は高地を切り開いて作られた街だからだろう。
おかげで、霧が晴れたとしても太陽が見える日は少ない。
「ルキーナ!ねえ、遊ぼうよ!まずは質問タイム~」
傍に10歳前後の少年が駆け寄ってきた。彼はここの屋敷の主人の孫だ。
「どうされましたか?お坊ちゃま」
「ルキーナはどうして働いているの?」
ルキーナは優しく少年の頭を撫でながら桃のように儚く薄い唇を上げて笑った。
「わたくしの家は、酪農を営んでいますが、それだけでは食べていけないので、長女のわたくしが代表で働くことにしたんです」
「ええー!ねえねえ、じゃあルキーナはここにずっとここにいるよね?ね?」
少年はルキーナのドレスをの端を掴み、セレストブルーの双眸でこちらを見つめる。
「お坊ちゃま……申し訳ございません。あと、20日程で実家に帰ることになったのです」
「なんで?ヤダ!みんなみんな居なくなっていくじゃん
乳母のアメリアだって、執事長のゼパスだって……大好きだったのに……どうしてやめたの?」
戦争の徴兵によって、お屋敷の使用人の数は年々少なくなっている。
「おぼっちゃま。覚えておいてください……人生は別れの連続です。別れるつもりがなくても別れてしまう……それが人生です」
「じゃあ、ルキーナもお別れ経験したことあるの?」
「………親友を戦争で……」
ルキーナは目を瞑りながら、そう静かな声で言った。
「でも、覚えておいてくださいお坊ちゃま」
そう言いながら、ルキーナは近くにあったピアノの蓋を開ける。
そして、いつもつけている黒のレースの手袋を外した。
「ルキーナの手……茶色でボロボロで汚い」
ルキーナは、それに対して何も言わずに微笑むと、鍵盤の上をなぞるように曲を弾き始めた。
「あ、ボクが好きな英雄のポロネーズだ!」
「これもまた覚えておいてください。
別れたとしてもその人と過ごした日々は消えません……曲、匂い……その人に縁のものを見る度に、その人と記憶の中ですが会えるのです……」
それでも寂しいし、苦しいことはあるけどね。って言葉は飲み込んだ。
白と黒の鍵盤の上を指は円舞曲のように踊る。
激しくけれど重厚な音が重なり、美しい旋律として部屋の中を響かせる。
少年はうっとりと魅入った顔で聞き入っている。
ルキーナはその様子を微笑ましく、また祈るような気持ちで弾いていた。
まだあどけなさが残っている15歳の少女、ルキーナ・トレイボルブランコ=ヴィーゲンリートは今日も屋敷の掃除をしていた。
ルキーナがいる街。
それは、アルキュミア王国の王都パラケルスス。
高い円環の壁に覆われ、空を突き刺すような茶色い鉄の建物や、巧妙なカラクリが蠢く工場などの建物が並んでいる。
そして、通称『霧の街』と呼ばれている。
その理由は、多くのものが蒸気機関で動いていることと、元は高地を切り開いて作られた街だからだろう。
おかげで、霧が晴れたとしても太陽が見える日は少ない。
「ルキーナ!ねえ、遊ぼうよ!まずは質問タイム~」
傍に10歳前後の少年が駆け寄ってきた。彼はここの屋敷の主人の孫だ。
「どうされましたか?お坊ちゃま」
「ルキーナはどうして働いているの?」
ルキーナは優しく少年の頭を撫でながら桃のように儚く薄い唇を上げて笑った。
「わたくしの家は、酪農を営んでいますが、それだけでは食べていけないので、長女のわたくしが代表で働くことにしたんです」
「ええー!ねえねえ、じゃあルキーナはここにずっとここにいるよね?ね?」
少年はルキーナのドレスをの端を掴み、セレストブルーの双眸でこちらを見つめる。
「お坊ちゃま……申し訳ございません。あと、20日程で実家に帰ることになったのです」
「なんで?ヤダ!みんなみんな居なくなっていくじゃん
乳母のアメリアだって、執事長のゼパスだって……大好きだったのに……どうしてやめたの?」
戦争の徴兵によって、お屋敷の使用人の数は年々少なくなっている。
「おぼっちゃま。覚えておいてください……人生は別れの連続です。別れるつもりがなくても別れてしまう……それが人生です」
「じゃあ、ルキーナもお別れ経験したことあるの?」
「………親友を戦争で……」
ルキーナは目を瞑りながら、そう静かな声で言った。
「でも、覚えておいてくださいお坊ちゃま」
そう言いながら、ルキーナは近くにあったピアノの蓋を開ける。
そして、いつもつけている黒のレースの手袋を外した。
「ルキーナの手……茶色でボロボロで汚い」
ルキーナは、それに対して何も言わずに微笑むと、鍵盤の上をなぞるように曲を弾き始めた。
「あ、ボクが好きな英雄のポロネーズだ!」
「これもまた覚えておいてください。
別れたとしてもその人と過ごした日々は消えません……曲、匂い……その人に縁のものを見る度に、その人と記憶の中ですが会えるのです……」
それでも寂しいし、苦しいことはあるけどね。って言葉は飲み込んだ。
白と黒の鍵盤の上を指は円舞曲のように踊る。
激しくけれど重厚な音が重なり、美しい旋律として部屋の中を響かせる。
少年はうっとりと魅入った顔で聞き入っている。
ルキーナはその様子を微笑ましく、また祈るような気持ちで弾いていた。
0
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方
ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。
注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
愚者による愚行と愚策の結果……《完結》
アーエル
ファンタジー
その愚者は無知だった。
それが転落の始まり……ではなかった。
本当の愚者は誰だったのか。
誰を相手にしていたのか。
後悔は……してもし足りない。
全13話
☆他社でも公開します
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる