はらすめんと

ザボン

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接待~前編

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入社して二ヶ月が経った。
僕はいつも通りに出勤したが宮前主任が来なかった。
(あれ、主任、直行だったかな?)
と考えていると三ツ島課長に呼ばれた。
「宮前主任が、逮捕された」
「はぁ?」
驚きを隠せなかった。
「さっき警察から連絡があった」
「宮前主任は何をしたのですか?」
僕はドキドキしながら聞いた。
「痴漢だ、電車で」
「まさか!」
僕は目の前が真っ白になった。
(まさかそんなことが、ありえない)
「ぼ、僕は宮前主任を信じてます」
鼻息荒く言うと、
「私もだ。それに警察もだ」
と答えた。
警察の話では、痴漢されたと騒いでいる女性は常習で、いろいろな路線の電車やバスで
「この男が私を触った」
と騒ぎ立てているとのことだ。
そして今朝、宮前主任がその毒牙にかかり、駅員に(私人)逮捕され警察署の留置場にいるが、警察が無罪になるように調査をしてくれているとのことだった。
僕はとりあえず胸を撫で下ろした。付き合いは浅いが、宮前主任に限って罪を犯すようなことは絶対にしない。と思っている。
「しかし、調査や手続きで出てこられるのは早くて明日だそうだ。それまで連絡も取れない。今日の宮前主任の予定はどうなっていたかな?」
と聞かれた。
(宮前主任は臭い飯を食うのか、明日出てきたら本当に臭かったか聞いてみよ!)
僕は張り詰めた気持ちが一気に緩み、そんなことを考えながら主任のスケジュールを確認した。
「あ、今日は夜に四越デパートの接待が入ってます」
と僕は課長に報告した。
四越デパートは僕が担当している客先の1番のお得意様だ。
「そうか、蘭舞は一緒に行く予定じゃないのか?」
と聞かれたので、
「接待はまだ早いって連れていってもらえないんです」
と、少し愚痴を言った。
「ははは、そーなのか。まあ四越は宮前が開拓した客だ、宮前がそう言うなら、そうなんだろう」
と言って、
「急病ってことにして、四越の楠木課長に謝罪と、仕切り直させてくれと電話しといて」
と指示された。
四越の楠木課長は30才の若さで今年から課長に昇進したやり手だ。宮前主任は楠木課長に気に入られて、受注に結びつけたと聞いた。

「いつもお世話になっています、資生商事の武蔵です」
僕は楠木課長に謝罪連絡を入れると
「なんだ、残念だな。今日は資材主任も誘って、楽しみにしてたのに」
と残念がっていた。
そして、
「そうだ、武蔵君が接待してよ、うちの担当なんだろ?」
そう言って、決まってしまった。最後に
「いつもどんな感じなのか、森に連絡させるよ」
と言って電話は切れた。
森さんは楠木課長の部下で、僕より二つ年上の担当者だ。
いつも楠木課長と一緒にいて、指示を受けて動いている。
僕と宮前主任のようなものだ。
僕はその事を三ツ島課長に報告すると
「まあ、楠木課長がそう言うなら代わりに接待してこい」
ということになった。
いつも宮前主任が使っている店は、毎回領収証を経理に回すのですぐにわかった。
電話をして確認すると資生商事で予約が入っている。
しばらくして森さんから電話があった。
「今日は武蔵さんが接待してくれるそうで」
と言われたので、正直に
「宮前が体調崩して連絡もできない状態なので、なにもわからず私が接待することになったので、何か粗相しないか心配です」
と話した。すると、
「わかりました。大丈夫です。私が武蔵さんがやるべき事を指示出しますので」
と言ってくれた。ありがたい事だ。
「今日のメンバーは、楠木課長とうちの係長の林、資材主任の木村だから自分いれて四人です。木村は、はじめてですよね?」
と聞かれたので「そうです」と答えた。
「木村は若いけど四越の幹部のご子息だから要チエックです」
と情報をくれた。
「あと、楠木課長は親しくない人が一緒だと不機嫌になるので、武蔵さんだけで来てくださいね」
俺は電話口でメモをとった。
(課長にも一緒に来てもらおうと思ったけど、僕一人か)
ちょっと不安になった。
「楠木課長と木村主任が満足すれば接待成功です。そうなるように指示だしますね」
と言ってくれた。

早めに店に行き、女将さんに挨拶をした。
「あら、いつもの宮前さんじゃないのね。やり方はいつも通りで良いのかしら?」
と聞かれた。
「いつも通りって、どんな風にですか?」
と聞くと
「料理はデザートまで全部先に出してほしいと言われてるのと、飲み物も欲しくなったら四越の若い人が取りに来るから渡してほしいと言われてます」
宮前主任は接待での会話を人に聞かれないようにそこまで徹底していたことに感銘した。
(でも接待では常識的な事なのかな?明日課長に聞いてみよ!)
「いつも通りの対応でお願いします」
と女将に言うと、
「わかりました。あ、あと座敷と続きの小部屋もいつも通り押さえてありますから」
と言われた。
僕は続きの小部屋は何のためかわからないが
「はぁ、ありがとうございます」
と言って、四越の人たちを待った。

「あっ、お待ちしてました」
僕は入り口で四人のゲストを出迎えた。
座敷に入り、料理が運び込まれ、ビールで乾杯した。
「ささ、楠木課長どうぞ。木村主任はまだビールでよいですか?他のお飲み物に変えますか?」
僕はできうる限り気を使った。

かなり飲んで出来上がると
「武蔵君さ、何かやってよ!いつもの宮前さんみたいに」
何か芸をしろ、と言うことみたいだ。
そんなことは考えていなかった。
森さんが
「ここで頑張ってくれればクリスマ特別展での採用点数も大幅アップに繋がるよ」
と、僕に耳打ちした。
頭の中が真っ白になっていると
「じゃあ自分が武蔵さんと打ち合わせてきます」
と言って、瓶ビールを手にして僕を続きの小部屋に引っ張って行った。
「森さん、どうしよう。芸なんて準備してないですよ」
と困っていると
「大丈夫です、私が考えてきました。失敗はさせませんよ、接待」
と言ってメモと袋を渡され、森さんは、ふすまを開けると振り向いて
「成功すれば採用点数大幅アップだけど失敗したら大変なことになるからね、頑張って!」
と言って座敷に戻っていった。

袋を開けると中身は卑猥なきわどいパンツだった。
(なんだこれ?)
メモを見ると
(私が音楽に合わせてDapunpのUSSAの1番を踊ります)
USSAは誰でも知ってるちょっと前に流行ったJ-POPだ。
(たぶんブーイングになります。なので2番では武蔵さんが紙袋のパンツをはいて出てきて一緒に踊ってください)
僕はもう一度マジマジとパンツを見た。
後は紐だけ、前は股間部分が像の顔になっている。ペニスを鼻の部分に突っ込むらしい。
「マジか」
最後に
(楠木課長は若い営業が裸になれば上機嫌になります)
と書かれていた。
すると、座敷からUSSAのイントロがが鳴り響き、
「武蔵さんの代わりに僕が歌って踊ります」
と森さんの声が聞こえた。
とりあえずスラックスとパンツを脱いで、そのぞうさんを履いてみた。
(わっ、このぞうのはなの部分、メッシュだ)
グレーだった鼻の部分にペニスを突っ込むと、透けてくっきりと見える。
(こんなので四越さんの前で踊るの、無理だ。は、恥ずかしい)
しかし、曲はどんどん進んでいる。
楠木課長や木村主任は
「なんだ、面白くねーぞ、武蔵はどうした」
とヤジを飛ばしている。
僕は小部屋の端に森さんが置いていったビールをじっと見て、一気に飲んだ。
「ったく、やめろやめろ」と楠木課長が言ったとき、1番が終わり、2番になった。
僕はふすまをガラッと開けた。

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