若者たち

ザボン

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第十六章◆◆◆堕落

第百十四話

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しばらくして裏人は会員離れが始まった。
しかも、30代以下の若い会員だ。
社長も俺も焦っていた。利用者が40代後半以上だけの日が続く。
若いMスタッフもいるので文句を言われる事はないのだが、明らかに以前の活気がなくなった。

俺はすっかり若いゲストが来なくなってしまったルームをみて、愕然とした。
社長と二人、毎日頭を悩ませていた。
Mスタッフだけでは飽きられてしまう。
しかも、ゲスト同士のプレイはほとんど見られなくなっている。
Mスタッフも常にいるのは3人位で、あとは順番に外出していた。ゲストが来ないのだから文句も言えない。浜崎健太はここ数日、毎日来ていたが、本郷さんがいないので解錠してもらえず悶々としていた。会員ではないので文句も言えない。Sゲストに言い寄られても「自分は違うので」と断っていた。

俺は時間に余裕ができたので、龍聖さんを飲みに誘い、聞いてみることにした。
「最近、若い会員が軒並み脱会していくのだが、なにか知らないですか?年会費をもらってるのに、途中解約して会費をドブに捨てるだけだと思うんですけど」すると、龍聖は言いずらそうに「実は」と話し出した。
「芸能界の若者の間では、裏人はオジさんのクラブだと判定されてしまってます。新宿三丁目に新しいSMクラブができて、みなそちらの会員になってるんです」詳しい場所を聞くと、2号店を計画していた場所だ。「何で若い人は、そっちの方がよいのですか?」と聞くと、「サービスの内容はほぼ一緒だよ。ただ、30代位までしかいないのと、若い俳優はあまり名前が売れてなくても会員になれやすいんです。クラブHは若者しかいませんが、年収に比例して会員価格が設定されるので、売れてない、貧乏な俳優の卵でも審査を通れば無理なく会員になれるのです」
そしてビールをひと口飲んで続けた。「裏人は大御所の先輩に言われると嫌でも断れないんです。約束して待ち合わせても、その友達が来る前に大御所に声かけられイかされちゃった。とか、よく聞いてましたよ」
俺はハッとした。盛り上がって活気があったのは40代50代のオジさん連中で、若い会員は不満だったんだ。俺は謎が溶けた気がした。
そして龍聖さんは、その後とんでもない事を教えてくれた。
「あと、実は裏人の会員で、まだ何ヵ月か期間が残ってると、裏人退会を条件にその期間を無料にしてくれるんだ」
これは裏人を潰しにかかっている。
「それと、、」

◇◇◇

俺は龍聖さんと別れて、急いで裏人に戻った。
社長室に行くと、社長が青い顔で頭を抱えている。
俺は「やられました!騙されました!裏人を潰そうとしているSMクラブのMスタッフは屋敷の3人です」
俺はいっきに叫んだ。
すると須藤は「さっき登記を確認したら、会社の所有者は俺たち二人と芸人の石坂になっていた。本郷の名前はなかった」と悔しそうに言った。そして「経理担当から報告があった。今月の支払いが出来ない。不渡りだ。株式会社ストはもうおしまいだ」と真っ赤な顔をして、震えながら怒鳴った。

株式会社ストは破産申告をした。
俺たちは、年会費の残月払い戻し請求や、グッズ製作の工場への債務、suttoJr.の出演キャンセル損害賠償など、後処理に追われた。ただ一番大きかったのは本郷への特許料の支払いだ。本業の泌尿器科が忙しいとの理由で弁護士をたててきた。
裏人の資産は差し押さえられた。俺が編集に使っていたサーバーは本郷が一番に差し押さえた。
そして、ストビル及び付随する設備も本郷が買い取り、他の債務者に現金で支払った。
俺と社長、Mスタッフおよび社員は全員解雇通告された。
浜崎健太は血相を変えて部屋に飛び込んできた。「俺のぺニスについてる貞操帯を外してくれ」
そう言われても俺たちにはどうすることもできなかった。

この倒産は芸能界に大きな衝撃となった。
絶対に外部に出ないと言われ撮影された動画が、何の保証もなくなってしまった。
須藤のもとにヤクザが来た。「今までの録画した動画はどこだ」と言って連れていかれた。有名人にとって、裏人での動画が流出したら、おしまいだ。
複数の大物有名人が手を回してヤクザを雇ったと思われる。
それ以来、須藤とは連絡がとれなくなった。

俺と進、元Mスタッフのメンバー、suttoJr.の二人と一匹は喫茶コロンに転がり込んでいた。
住む場所も追い出されたので、スタッフルームに寝泊まりさせてもらっている。
和馬も心配して来ていた。
喫茶コロンは春田の奥さんが経営を引き継いていたが、春田が戻ってきたので、子供を連れて出ていったらしい。
俺は借金を抱えて、首が回らない状態だ。
「このあと、どうなっちゃうのかな?」尚樹が言ったが誰も何も答えなかった。
ポン太も自分の身の振り方が心配そうだ。
すると和馬が「本郷先生は、解雇するけど使えるやつは俺が引っこ抜くって言ってたよ」といった。
「和馬お前、本郷と連絡とってるのか?」と俺が聞くと、「島津さんも宮崎先生もいなくなっちゃったから、本郷先生と暮らしてるんだ」と言った。
「なら、本郷の計画を知ってたのか」と俺は詰め寄ったが「お仕事の話は知らないよ。僕は大学行かせてもらって、たまに検査してもらってるだけだよ」と、一人平和なことを言っている。周りから白い目で見られていることに気づかないようだ。
すると和馬のスマホがなり、見ながら「あ、本郷さんだ」と言ってLINEを確認している。「なんか、皆さんに本郷さんから伝言で」と言い始めた。「ちょっとまて、皆さんにって何で本郷がここに集まってること知ってんだ」と言うと、「えっ、さっき僕がLINEしたけど、ダメだった?」と和馬が言った。

その事に関していろいろと話がでたが、「結局、本郷は何て言ってるんだ」と俺は聞いた。
和馬はいろいろ言われ少しふてくされながら「えーと、まず仙頭先生をクラブHにMスタッフとしてスカウトしろって」と言った。
仙頭は今までの生活が担保されると考え安堵した。
「クラブHと言うのが本郷の新店舗なのか?」と聞いたが
「お仕事のことはわからない」と和馬は言った。
「それから、Mスタッフは全員では多すぎるので、あと5人をスカウトしろって」

宮崎が「どの5人かはどうやって決めるんだ」と聞くと、
「僕に決めろ、だって」とニコニコしながら和馬が答えた。
すると伸一が「和馬が決めるなら宮崎と島津は決まりじゃないか」とクレームを言った。
「いや、それが」といっておもむろに自分のパンツを下げた。見事な大人の勃起ぺニスだ。しかも糸が尿道から出ている。
「これが本郷先生が開発した新製品、チン圧測定器なんだ」と言った。

和馬が説明を始めた。
「先生が発見したのは、強く勃起すればするほど、尿道は強く圧迫される」
そして、糸付きの太く短い綿棒みたいなものを鞄から出して見せた。
「これが今、僕の尿道に挿さってるものなんだけど、圧迫されると色が変わるんだ」
軽くつまむと、そこの部分が薄いグレーになった。
そして、「このグレーになった部分を更に圧迫すると」そう言って少し力を入れ摘まむと、グレーが濃くなった。
周りを見渡し、自分の尿道から糸を引っ張り、それを引き出し見せた。
その棒は全体的に薄くグレーがかっていた。
「僕がこのチン圧測定棒を尿道に入れて、皆さんの穴を試し、色が濃い順に5人を採用するって書いてあります」
仙頭先生以外の元Mスタッフたちはお互いを見つめ、(勝っても負けても良い勝負をしような)と心の中で呟いていた。
「あと、」和馬が付け足した。
「選ばれなかった人の動画は個人情報つきで、海外サイトにアップします。だって」
その和馬の言葉は、厚い友情を粉々にした。
「Sスタッフのことは書いてないのか?」と聞くと、「Sスタッフは、本人にどうしたいか聞けって」と言った。俺と進は顔を見合わせた。そのあと「ポン太は斎藤の付属品だから、斎藤の 身の振り方による、って書いてある」
それを聞いたポン太は斎藤の足にじゃれついた。
Mスタッフの採用試験は一週間後から毎日順番に実施されることになった。「俊一が有利だ」となり、順番的に1番となった。そのほか6人はじゃんけんで順番を決めた。あとの方が有利だ。
俺は考えた。
(どうしたいかって、どうするか)
と自問した。借金を返さないといけないから、働かなきゃいけないが、まともな仕事では追い付かない。それなら本郷に服従するしかない。
「そういえば」和馬が言った。「suttojr.の二人はどうなるのだろう?」すると、「言いにくいんだけど、、他の事務所から引抜きがあって、suttojr.は芸能活動を継続するんだ」と言った。
「そうか、それなら良かったな」俺は心から言った。
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