【R18】BL短篇集|最新話「琥珀色の狼」

黒木 玲

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魔力をください|ファンタジー【完結】

魔力をください|02

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 突然下着を露わにされて、ウタは固まった。

「ちょっ、と!」

 逃げようと後ずさった途端、足首にまとわりつく布地に足を取られ、草むらにどすんと尻もちをつく。
 男はこれ幸いと脚の間を陣取り、依然反応のないウタの股間を弄ぶように手で持ち上げた。
 そこに男の顔が近づいてくる。
 その唇の目的地を察して、ウタは慌てて彼の額を押しのけるように手を当てる。

「だめです、汗、かいてるから」

「いいよ、別に」

「ん……っ」

 陰部がぬるりとしたものに包まれる。熱くぬめった舌が裏筋を辿り、先端までなぞり上げた。
 上目遣いの双眸が鋭くぎらついている。こんなムードもへったくれもない状況なのに、彼は早くも臨戦態勢だ。
 たしかに、気持ちがいい。
 気持ちいいのだが。
 彼は何度か頭を上下させて、それから口を離した。

「あれ、なんか勃ちが悪いな」

「当たり前です。人とか獣が来たらどうするんですか!」

「むしろ誰か来てくれたらいいのになぁ」

 彼はのんびりと呟いて、半勃ちになったウタの竿を扱く。

「あ、でもさ、俺知ってんだよね」

「なにが……」

「おまえが恥ずかしいとエロくなるの」

 ぐいと襟首を引かれる。
 座ったまま背中を抱かれ、向かされたのは壁に沿って立ち並ぶ鏡だった。
 鏡の中で、師匠がウタの耳に顔を寄せる。

「脚開け。ちゃんと自分でも見えるように」

「やだ、お師匠……!」

 露わになった股間。二人きりの空間とはいえ、非日常の中で下肢を曝け出すという恥ずかしさで、胸元まで皮膚が紅潮していく。

「ほら見ろ。エロい気分になってきただろ」

 男が首筋を食んだ。
 ぞくりと肌が粟立つ。それは、久しく味わったことのない感覚だった。

「あ。その服、胸だけ出せるんだよな。俺好きなやつ」

 男はウタの服に手を突っ込み、肩紐を外した。胴に沿って胸下までずり下げると、次はボレロ型のケープの胸の前のホックを外す。
 胸を中心に上下に服をずらされ、胸板と乳頭が露わになる。

「なあ、何のためにここめくったの?」

 男が意地悪く耳元で囁く。

「胸、いじるため……」

 ウタはごにょごにょと答えた。

「胸? おっぱいって言って」

「絶対言わない」

 言ってなるものか。
 男はくすりと笑って、指の腹で突起を転がす。

「ちょっといじりすぎたかなぁ。出会った頃より一回り大きくなってるよな」

「だってお師匠、しつこいから……っ」

「鏡見てろよ。エロい触り方してやるから」

 男は五本の指で胸全体をくすぐるように愛撫し始めた。
 鏡の中で蠢く指が胸板と突起をくすぐりながら転がして、無意識のうちに胸が突き上がる。

「あぁぁ、っ、それだめ」

 股間で、びくりと陰茎が跳ねた。
 ウタの反応に気を良くして、彼は責め立てる指を速めた。焦らされているのを自覚した途端、きゅんと股間が疼く。

「下……」

「下?」

「あそこ、さわって」

 ウタは辿々しく訴えた。
 鏡に映る自分は胸と腰を突き上げていて、その股間ははっきりと勃起している。

「もう少し我慢な。その方が濃くなるから」

「嘘、つかないでください……!」

 男が股間に跪いた。亀頭に軽くキスを落として、カリがぬるりとした粘膜に包まれる。左手に竿をしごかれて、強い快感が湧き上がってきた。

「んん……っ!」

 ちろちろと舌先で尿道口をくすぐられて、ウタは男の口内であっけなく果てた。
 男は頬をすぼめ、その精の塊を一滴残さず吸い尽くそうとしている。

「んんっ、今出てるから、吸っちゃ、だめ」

 顎をしゃくって喘ぎながら、男の髪を掻く。
 痙攣しながらどくどくと残滓を吐き出す陰茎を、男は丹念に舐め回している。その舌の動きが一向に収まらなくて、ウタは苦しげに足を突っぱねた。

「もう、っ飲んだからいいでしょう!」

「うん、良い感じ。つか濃いな。最近オナニーしてねえの?」

 男は満足したようにうなずいて、デリカシーに欠けた言葉と共にぺろりと唇を舐めた。
 これで、ようやく解放されると思いきや。
 ふいに唾液に濡れた男の指が、ウタの蕾にをこじ開けた。

「ちょ……っと!」

 慌てて穴を締めるも、そこは既に侵入を許してしまっている。男は腸内から陰茎の根元を探る。ぐるりと指を回し、少しずつ位置をずらしながら腸内を柔らかく刺激する。
 悲しいかな、そこを刺激されるとすぐに勃起してしまう。

「ひ……っ、ん」

 ウタは唇を噛んで上着の裾をつかんだ。
 男はウタの膝をつかんで閉じかけた太ももを押し広げ、脚の間から宥めるように見上げる。

「な、もうちょっと飲ませてくれよ。二人分のワープだからさ。結構魔力いるんだよ」

「ん゛……ッ!」

 腸壁越しに、男は深く指を折り曲げた。
 強すぎる刺激に、ウタはびくりと肩を跳ねさせる。

「だめ、優しく……っ」

「何ならこのままセックスしちゃう?」

「しません!」

 余計なことをして、せっかく彼に注いだ魔力が逆流したらどうするつもりなのだろう。彼はそれについて全く考慮していない。と、言い切れる自信がウタにはある。
 止めなければと思うのに、悶える腰が止まらない。

「んんっ、イ、っちゃーー」

 彼の口内で二度目の絶頂を迎えたその瞬間。
 目の前から一面に溢れた強い光が、二人を包み込んだ。
 ウタは眩さに腕で目を覆い、少し間を置いて和らいだ光の発生源を確かめる。
 股座に跪いていた男も同様で、眉をひそめながら慎重に背後を窺った。

「……あ」

「あ」

 先程まで自分たちの痴態を映し出していた鏡の中には、三人の女性が浮かび上がっていた。服装や防具は明らかに冒険者のもので、その背後には木々が生い茂っている。
 中央の女性は魔法使いらしく、杖を振りかぶったままだ。三人とも口を半開きにしている。
 五人は、しばし硬直する。

 次の瞬間、彼女たちは一斉に視線をそらしたが、一拍置くと思いきったように鏡の奥から縁を跨いで神殿に入り、そそくさとウタたちの脇を抜けた。
 鏡は女性たちを吐き出すと、徐々に光を失い、またくすんだそれに戻った。
 ウタは恥部をさらけ出したまま、光の余韻と彼女たちの後ろ姿を交互に見つめている。

「……あの、お師匠」

「ん?」

「その鏡」

「うん」

「外と繋がってません?」

「俺も今そう思った」

「ちょっと、早く気付いてくださいよ!」

「えー、俺のせい? おまえだって気付かなかったくせに」

 はあ、とウタは深く溜め息をついた。
 道は始めからそこにあった。自分たちのあれこれは、見事徒労に終わったわけだ。

「もう、いいから早く帰りましょう。今の子たち、今度街で見かけたら謝らなきゃ」

「いや、ありがてえな。転移魔法より、媒体使って道開く方が楽だ」

 彼は嬉々として立ち上がり、杖を拾った。
 ウタがめくれ上がった胸元を直し、腰紐を結んでいると、傍らに立った男から額に軽いキスが降りてくる。

「帰ったら、ゆっくり続きしような」

「回復してからですよ」

 ウタは呆れたように眉根を寄せて答えた。
 男が外界への道を開くための呪文を唱え始める。
 鏡が発する白い光が、眩く二人を包み込んでいく。

「ーーあ」

 鏡に手のひらを押し当てた男が、ぽかんと口を開けた。
 ウタは眩しさに目を眇めながら眉を寄せる。

「どうしました? まだ何か?」

「外と繋いだのはいいんだけどさ。この鏡、一方通行だ」

 神々しく照らし出されたまま、彼は凛とした横顔で言い放った。
 一方通行。
 先ほどの女性たちが向こう側から入ってきたということは、こちらから外界へは出られない仕組みなのだろう。
 男は頭を掻いた。

「あーあ、しまったなぁ。今ので残りの魔力半分使っちまった」

「……って、ことは?」

 おそるおそる男の顔を見る。

「ふりだしに戻る。ウタ、股開け」

「もうやだぁー!」

 ウタの悲鳴に驚いたのか、先ほど放した魔物たちが一斉に飛び立っていった。
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