【R18】BL短篇集|最新話「琥珀色の狼」

黒木 玲

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琥珀色の狼|現代日本【完結】

琥珀色の狼|04

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 男は中指と薬指を、硬く閉じた薫の肛門にあてがった。

「ぅ、あぁ……」

 じわじわと侵食される体内。腹の奥で、快楽と恐怖と不快感が綯い交ぜになる。ぐるりと指を回した摩擦で、蕩けるような快楽が腰をじんと痺れさせる。

「あー、だめ、ぬくのだめぇ……っ」

 腸内の粘膜が男の指に吸い付いて、抜かれまいと引き止める。
 くちゅくちゅと音を立てながら掻き回していた男が、その速度を速めた。
 挿入するときは速く、抜くときはゆっくり。

「ぅあぁぁ……っ」

 気持ちよくて抵抗なんかできない。薫の反応に、男はわざと時間をかけて抜く快楽を与える。いっそまったくの処女だったら痛みや恐怖で萎えてしまうものを、犯される快楽を知っている体はそれを許してくれない。
 指の腹がざらついた前立腺をなぞる。蛙のように脚を大きく開いて、薫は男の手の律動に合わせて腰を振る。

「ここか?」

 薫が必死でうなずくと、男は嘲るように笑った。

「みっともねえな」

「だ、って、久しぶりだから。あんたがずっと家にいるから、オナニーもしてないし」

 くだらない言い訳を並べ立ててから恥ずかしくなって、薫は枕に顔を埋めた。

「四つん這いになったらもっと気持ちよくしてやるよ。どうする?」

 耳元で男が囁く。
 薫はきつく唇を噛んだ。とっくの昔に体は観念していて、頭の奥の理性だけが抵抗する。

「恥ずかしい、そんなの……」

 枕に顔を埋めたまま、目元だけを覗かせる。
 男の肘から先だけが視界に入る。
 彼は急かすように、指先を床にトントンと打ち付け始めた。

「やる? やめる? はい、三、二、一、ゼロ」

「……やる」

 蚊の鳴くような声で、薫は陥落した。
 男の手が、カーペットに落ちていたヘアゴムを拾うのが見えた。窄めた指の第二関節にヘアゴムを巻きつけ、その指で薫の屹立を包み込む。
 そのまま指先までスライドしたヘアゴムは、薫の亀頭の下に二重三重と巻き付いて、きつく締め上げた。

「痛っ、なんで……!」

「返事が遅い。ゼロっつったろ、ペナルティだよ。ほら」

 太ももを平手で張られて、薫はぐずぐずと身を起こし、床に這いつくばった。
 蕾に硬いものが押し当てられる。恐怖とは裏腹に、早くそれを突き入れてほしくて期待に腰が揺らめく。

「ん、ん、んーーっ!」

 男が体を引き裂いてくる。
 根元まで突き入れられた男のそれは、凶器そのものだった。
 前立腺、精嚢の裏側から直腸を貫かれ、薫は床を掻き毟った。膨らんだ屹立にヘアゴムが食い込み、鋭い痛みが走る。

「はっ、びちゃびちゃじゃねえか。エロガキ」

「うるさい、っあ゛あ……ッ!」

 腰を引かれると腹の中身が引きずり出されて、泣き叫びたくなる。

「ぬかないでぇ……ッ」

 押し殺した声で懇願して、すぐに唇を噛みしめる。その後の言葉は出なかった。これ以上口を開いていたら、わけのわからないことを口走ってしまう。

「そんなに欲しがるなよ」

 男が笑った。
 その意味を考えて、自分の言葉の裏をかかれたと気がつく。

「ちがう、抜かれると、変になるから……っ」

 奥歯を噛み締めたまま喘ぐ。
 ぱちゅっと音を立ててまた最奥まで穿たれる。

「どうすると変になる?」

 男は背後から低く問いかけた。

「ゆっくり、抜くの、嫌ーー」

「こうか?」

「あ゛ぁ゛ぁ……っ!」

 括約筋が肉棒に絡みついて引きずり出されていく。
 男はじりじりと間緩い動きで抜いていって、それがすっかり抜けるまで、薫は押さえつけられたまま何度も腰を浮かせた。

「おぉ……ッ!」

 男が腰を進める。
 またずるずると腸壁をえぐりながら抜かれていく。

「いじわるーー」

 限界まで仰け反った姿勢で、その言葉がこぼれた。
 根元まで収まったそれの先端や張り出したカリを、男は薫の腸壁に執拗に擦りつける。時折それは、泣きたくなるような切ない部分に触れた。
 それに気を取られると、次の瞬間にはもう屹立が引きずり出されていく。

「あ゛ぁぁぁ……!」

 突き入れられるときに、骨盤のあたりが溶けるように熱くなる。抜く最中、男はわざと薫の前立腺のあたりを圧迫した。一秒や二秒くらいなら耐えられる。だが、男はその五倍の時間をかけた。

「ぁ……っぐ……」

「もったいねえな、おまえの元カレ。こんなトロマン手放すなんて」

「……ッ!」

 薫は奥歯を噛み締めたまま、言い返せない。
 背中から回った男の手が、ふいに下腹部を押した。そこに力を入れろという指示だろう。

「あーーうあぁ……!」

 力が抜けて少し緩くなった腸内で、無防備な弱点を叩かれ、下半身に痺れが広がっていく。
 強い吐精感に薫は呻いた。

「お願い、ほどいて、いきたい」

 男は答えない。
 反応のない男に焦れて、薫は四つん這いのまま顔を後ろに向けた。

「ど、したら、イかせてくれるの……?」

「んー。まあ、これからもここにいてください、ってお願いするならイかせてやるかな」

「嫌に決まってんだろ。ていうかあんた、普通に働けるくせに! なんでこんなヒモみたいなこと、ッん……!」

 乱暴に腰をつかまれてまた始まる抽送に、言葉を遮られる。

「ヒモ? 勘違いしてんじゃねえよ。おまえの飼い主は俺だ」

「あっ、あ、ぁ!」

 前立腺をごりごりと擦られながら、待ちかねていた最奥を繰り返し突き上げられる。
 しかし、絶頂を迎えようと背中を丸めた途端、男は腰の動きを緩めてしまう。

「っあぁぁ……っ!」

 薫ははしたなく腰を揺らめかせて、男の逸物に腸内を擦り付ける。

「ほら、イきてえんだろ?」

「ッぅうん、っ!」

 ばちんと尻をはたかれて、中のものをきつく締め付けた瞬間、薫は軽く潮を噴いた。

「ーーい、かせて、お願い、ここにいていいからぁっ!」

 屹立を、男の手がゆるゆると扱く。

「あぁぁ……っ、気持ち、い」

「イけよ、薫」

「んんっ、いくぅ……っ!」

 ヘアゴムを乱暴に解かれた瞬間、陰茎が反り返りながら白い迸りを吐き出した。





 スマートフォンの中のデータを漏れなく削除したことを確認して、薫は男にそれを渡した。

「そういえばあんた、名前は? 呼びにくいんだけど」

「ねえよ、そんなもん」

 男は退屈そうにテーブルに頬杖をついたまま、手元のリモコンでテレビのチャンネルを変えている。

「無いって……」

「見てのとおり、まともな育ちじゃないんでね」

 彼はぶっきらぼうに吐き捨てる。

「あとおまえが送ってくるメッセージ、漢字が難しくて読めねえ」

「え、もっと早く言えよ」

 彼はふんとそっぽを向く。
 これ以上深追いしない方がお互いの為だと考え、薫は追及をやめた。すっかり冷めてしまったミルクティーを一口啜ると、ほんのりした甘みが舌の上に広がる。
 ふいに背後から伸びてきた男の指が、薫の持つマグカップの取っ手に絡まった。

「何だよ、自分のやつ飲めよ」

 薫は苛立たしげに振り向いて男を睨みつける。
 取り上げられたマグカップは、しかしそのままテーブルの上に置かれた。

「ひゃっ」

 カーペットに押し倒されて、薫は情けない声を漏らす。

「な、何してんだよ!」

 じたばたともがく薫の首筋に、男は牙を立てた。

「もっかいヤるんだよ」

「今、終わったばっか、んん……っ!」

 男の頭越しに天井の明かりが遠く見える。
 深いキスをしながら、着込んだばかりのシャツを剥かれて、薫はようやく気がついた。
 引き入れたのは犬ではなく狼だったと。
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