【完結】珈琲にスパイスを|朴念仁な主人×純朴な使用人少年

黒木 玲

文字の大きさ
4 / 4

珈琲にスパイスを|04

しおりを挟む
「旦那、様……?」

 弥太郎はソファーに沈んだまま、目の前でこちらを見下ろす主人を不安げに見上げた。
 雨に濡れた黒髪から、弥太郎の白い脚に冷たい雫がぽたりと垂れた。主人の無機質な目が、じっと弥太郎の裸体を見つめている。
 はだけた襦袢も屹立に巻きつくリボンもそのままだ。こんなに明るいところで生まれたままの姿を見られることなど初めてで、弥太郎は思わず太ももを擦り寄せ股間を隠そうとする。

「ちゃんと見てもらいなさい。恥ずかしいところも全部」

 久我の手が、顔をそらした弥太郎の顎をつかみ、無理やり正面に引き戻した。

「旦那様……?」

 こちらを見つめる主人の仄暗く輝く目。いつもと違うその様子に訝しいものを感じ取り、弥太郎は窺うようにその目を見つめ返す。
 主人はおもむろに絨毯に跪いた。弥太郎の陰茎に結ばれたままのリボンを指先で弄び、しゅるりと音を立ててそれを解く。
 次の瞬間、まだ反応の無いそれを、ためらいもなく口に含んだ。
 温かい舌に包まれる、生まれて初めての感覚。溢れた唾液がぬるぬると亀頭を包み込んで、きつく吸い上げられた。腰が浮き上がると同時に割れ目から先走りが溢れ出て、主人の口内を汚す。

「旦那様っ、そんな、だめ、汚いよぉ」

 弥太郎は慌てて股座に手を伸ばし、主人の髪を引く。
 濡れたその髪も、太ももを押し開く手も、雪のように冷たかった。口内の粘膜だけが、蕩かされそうに熱い。

「んん……っ!」

 口をすぼめてきつく吸い上げられると、がくがくと下肢が震えた。弥太郎の暴れる脚を押さえつけ、主人は亀頭をざらりと舌で舐めあげる。
 一方で背後から伸びる久我の両手は、五指を使って弥太郎の乳頭をくすぐるように愛撫している。
 少しもしないうちに、腹の奥のうずうずが屹立の先端まで押しあがってくる。

「あぁっ、出る、出ちゃう、旦那様ぁっ」

 ひくひくと睾丸が疼く。
 主人の口を自分の精液で汚したくなかった。懸命に欲を鎮めようと、弥太郎は拳をぎりぎりと握り締める。

「だめ、です、おねがい……」

 弥太郎の震える声に、主人は屹立を咥えたままこちらを見上げた。
 口を開け、勃起した弥太郎自身をずるりと引き出す。
 しかし彼は無情にも包皮を剥き上げると、赤く敏感な亀頭を舌でちろちろと舐め始めた。

「あーー」

 一瞬遅れて、強すぎる刺激に腰が大きく跳ねる。
 耐えようとする気持ちを砕かれるほどの強い快楽。同時に竿を扱かれると、もう我慢などできなかった。

「あぁぁ……ッ!」

 出る、と叫ぶ間もなく絶頂が訪れて、弥太郎は声も無く身を震わせた。暴れる四肢は大人二人がかりでソファーに貼り付けられ、射精する間も容赦のない口淫は続く。
 やがて、主人の口内に精を注ぎ終えると、一気に力が抜けて、弥太郎はくたりとソファーにもたれかかった。
 心臓が弾けんばかりに脈打っている。

 弥太郎は荒い息遣いの中で、おそらく男たちは満足し、解放してくれるものと思っていた。
 ところがそうではなかった。彼らは示し合わせたように、容赦のない愛撫を続けている。
 達したばかりの体を弄ばれる快楽は既に苦痛で、弥太郎は縋るように頭上の久我を見上げる。

「やめて、も、やめてください」

「どうして?」

「いま、出たの」

「そう。気持ちよかったね」

「出たから、もうやめて、おねがい」

「本当? もっと気持ちよくなりたいでしょ」

「あぁぁ……ッ!」

 主人の口内に強く吸い上げられて、達したばかりの陰茎は再び膨らみ始める。
 熱い。
 過ぎた快楽はもはや拷問に近く、弥太郎の体は苦痛から逃げようと悶える。
 しかし上半身を久我が、下半身を主人が押さえつけ、苦痛を逃すことすら叶わない。

「やめ、て、やめて、おねがい!」

「こら、おとなしくしてなさい」

「もう出ないよぉっ!」

「まだこれからだから。ね?」

 主人の舌先が残滓に汚れた亀頭を舐め回す。唾液で濡れそぼった柔らかい舌に先端を摩擦されるのが切なくて苦しい。
 先端からは精液だか尿だかわからない液体が、断続的に飛び散っている。

「でる、やだ、辛いのに……ッ」

 何度も絶頂を迎えて萎えると、陰茎の根元を指先できつく圧迫され、無理やり勃起を促された。

「やら、も、や……」

 全身を汗で濡らしながら、弥太郎はひくひくと全身を痙攣させる。

「こら、手加減してあげないと弥太郎くん失神しかけてるよ」

「……ああ」

 久我の言葉で我に返ったのか、主人はようやく股間から顔を剥がし、ぺろりと唇を舐めた。

「弥太郎くん、正気?」

 久我の手に軽く頬を叩かれ、暗くなりかけていた視界にかすかに光が灯る。

「ふ、あ……」

「続き、しよっか」

 続き。耳元で囁かれた久我の言葉の意味を察して、弥太郎は虚ろに視線を上げ、主人の顔を見た。
 手の甲で唇を拭う主人もまた、表情の読めない顔で、弥太郎の視線を見つめ返している。

「弥太郎」

 彼が獣のような低い声で唸る。

「膝をついてこちらに尻を出せ」

 主人の命令は短かった。
 久我の目の前でまぐわうということだろうか。弥太郎はふらふらと立ち上がり、乱れた袴と下帯を下肢から剥がす。ソファーの座面に両膝をつき、背もたれをつかんで体を支えると、膝立ちで尻を突き出した。
 その臀部を、待ち構えていたように背後の手がつかむ。

「えーー」

 続いて目の前に回り込んできた主人の姿に、思わず戸惑いの声が漏れた。
 背後から臀部の割れ目に押しつけられる屹立。
 久我のものだ。
 慌てて振り向く弥太郎の視線に気づいた男が、肩をすくめて笑った。

「何を驚いてるの? ご主人様は君が僕に犯されるところを見たいんだよ。そういうのが好きなんだってば」

「嫌、そんなの! 僕は、旦那様じゃなきゃーー」

「黙ってろ」

 主人の手が下から弥太郎の顎をつかみ、爪の先がきつく頬に食い込む。その痛みで思わず口を開けると、歯列の隙間を縫って指が口内に入り込んだ。

「うぅ……っ」

 見上げた主人は、自らの衝動を抑えきれないように奥歯をぎりぎりと軋らせていた。歯の隙間から荒く息を吐きながら、力づくで弥太郎の歯列をこじ開ける。

「歯ぁ立てるなよ」

「ん……っ!」

 無理やり口内に突き入れられた主人の陰茎は、その半分しか口内に収まらないほど怒張していた。先走りと唾液の混じったものが、弥太郎の顎を伝って床へと糸を引く。

「ん゛、ぅ゛……っ!」

 喉の奥を押され、思わず嗚咽混じりの声が漏れる。

「ちょっと。興奮しすぎだって」

 久我が背後でくすりと笑った。

「じゃあ、僕も楽しませてもらおうかな。旦那様と弥太郎くんも喜んでくれてるし」

「んんーーッ!」

 ぬるりと蕾を押し広げて、久我の怒張が入り込んできた。
 その太さや長さ、硬さも反り方さえも、主人のものとはまったく違う。雁首が腸壁を擦りながら、弥太郎の腸内を余すところなく埋め尽くしていく。

「あー、きついな」

「んんぅ……ッ!」

「どうしたの? まだ入れただけだよ」

 ーーおねがい、動かないで。
 主人の怒張に口を塞がれたまま、弥太郎は喉の奥で叫ぶ。
 しかし無情にも男は腰を揺らめかせ始める。

「ぅんん……っ!」

 ゆるゆると出し入れされると、いつも主人に責められている弱い箇所を擦り上げて、腹の奥が疼いた。

「んぅ゛、っ!」

 奥を突かれて前のめりになった拍子に、喉の奥を主人の陰茎が突く。湧き上がる嘔吐感。
 久我は腸内を探るように浅くかき回しては、奥まで突き入れて肉壁を堪能する。

「弥太郎くんはどこをいじめられるのが好きなの? って、今は答えられないか」

「膀胱の少し手前だ。そこを押すといつも潮を噴く」

 主人が息を切らしながら、短く口を挟んだ。

「さすがご主人様。了解」

「んう゛ぅぅ……ッ」

 男の怒張が前立腺を押し潰し、慎ましく閉じていた内壁を押し広げる。陰茎の反った部分で膀胱を圧迫され、漏れ出しそうな吐精感に喉の奥から悲鳴が漏れる。
 口内の怒張をきつく吸い上げると、主人は快楽に低く呻いた。

「くそっ、おい、そんなに吸うな。出る……っ」

 張り詰めた主人のそれが口の中で一瞬大きく膨れて、喉の奥にどくどくと体液が注ぎ込まれた。熱くてしょっぱいそれは、喉に絡みつきながら喉の奥へと流れ落ちていく。
 呻き声を上げながら呑み込む弥太郎の背後で、久我が忍び笑う。

「嘘でしょ、出すの早すぎない? 溜まってた? それとも、弥太郎くんが可愛すぎたのかなぁ」

「うるせえ」

 唇の隙間からずるりと引き抜かれた陰茎は脈打ちながらまだ残滓を吐き出している。

「だんな、さま……」

 飲み込めなかった体液が、口の端から床へと垂れていく。けほけほと噎せていると、主人の手が弥太郎の濡れた口元をそっと拭った。

「んんっ!」

 ぱちゅっ、と水音がして、また背後から最奥まで穿たれた。

「中に出すよ。いいよね、ご主人様?」

 久我が律動を激しくしながら息を弾ませる。

「ああ。顔見せろ、弥太郎」

「や、嫌です……っ」

 かぶりを振って逃れようとするが、主人の指先で顎を持ち上げられる。目の前でしゃがみ込んだ彼と目線が合って、その切れ長な眼がじりじりと羞恥心を焼いた。
 主人ではない男に犯されて感じている。こんなだらしない顔を見られたくなくて、せめて口を閉じようとするがそれもできない。
 心臓がばくばくとうるさくて息苦しくて、とても平常ではいられなかった。

「みないで、おねがい、だめなの」

「いい顔だ」

「だんな、さまーー」

 ふいに彼の唇が深く重なる。

「んんーー……ッ!」

 背後から前立腺を押された瞬間、下腹部が痙攣して精液が溢れ出す。
 同時に久我のそれが大きく脈打って、生暖かいものが腸内を満たした。





「あー、くそ。収まらねえ」

 主人はソファーにあぐらをかき、下履きを押し上げる自身の股間を指で弾いた。その傍らで毛布に包まった弥太郎は、肘掛けにもたれかかり力なく伏している。
 深い眠りから目を覚ましたとき、いつの間にかもう一人の男は姿を消していた。

「あの、久我さんは」

「学生のコンパに行くとかで、茶菓子の羊羹を買いに出かけた。あいつも好き者だからな」

「はあ、そうですか……」

 久我の顔と共に、先刻の自分の淫らな姿が脳裏に浮かんできて、弥太郎は思わず飛び起きて頭を振った。

「弥太郎」

「あ、はい!」

 名前を呼ばれて、慌てて背筋を伸ばす。
 傍らの主人に目を遣り、その視線を辿ると、テーブルの上にはいつも彼がコーヒーを飲む白いカップがあった。先程中座していたのは、珍しく勝手場で彼がコーヒーを淹れていたのだろう。

「おまえ、コーヒーは苦くて嫌いだと言っていたな。試しにそれを飲んでみろ」

 首を伸ばして覗き込んだカップの中身は、いつもとは違う柔らかい褐色が広がっていた。かすかに立ち上る湯気もなんだか甘い匂いがする。
 両手でカップを包み込み、おそるおそる口をつける。

「……美味しい」

 コクのある桂皮の香りが鼻に抜けた。ミルクのほのかな甘さに、コーヒーの焦げたような苦味が混じり合う。
 こくりと飲み下して、弥太郎は目を輝かせた。

「美味しいです、これ。僕でも飲めます」

「そうか」

「もしかして、わざわざ僕のために?」

 無愛想にそっぽを向いた主人が、ひとつうなずいた。

「……無理をして悪かったな」

 思いがけない言葉に、弥太郎はその表情を窺う。
 主人はいつにも増して険のある顔つきで、彼はどうやら先程の件を気に病んでいるようだった。

「無理じゃありません。旦那様が可愛がってくださるなら、僕は何でもします」

 弥太郎のその言葉に、主人は少し目を見開き、それから咳払いをひとつした。

「今朝、おまえの古巣のカフェーに行ってきた」

「はい」

「給仕服をもらってきた」

「はい」

 唐突な話に、弥太郎はきょとんとして次の言葉を待つ。
 主人が部屋の入り口をちらと見た。
 その視線の先では、彼が雨の中抱きかかえてきた風呂敷包みが、台の上に鎮座している。

「今晩、それを着て俺の部屋に来い。久しぶりにおまえの給仕服姿が見たい」

「……はい、喜んで」

 彼の横顔は少し赤らんでいて、弥太郎は思わず吹き出した。
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

お兄ちゃんができた!!

くものらくえん
BL
ある日お兄ちゃんができた悠は、そのかっこよさに胸を撃ち抜かれた。 お兄ちゃんは律といい、悠を過剰にかわいがる。 「悠くんはえらい子だね。」 「よしよ〜し。悠くん、いい子いい子♡」 「ふふ、かわいいね。」 律のお兄ちゃんな甘さに逃げたり、逃げられなかったりするあまあま義兄弟ラブコメ♡ 「お兄ちゃん以外、見ないでね…♡」 ヤンデレ一途兄 律×人見知り純粋弟 悠の純愛ヤンデレラブ。

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中  二日に一度を目安に更新しております

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

「これからも応援してます」と言おう思ったら誘拐された

あまさき
BL
国民的アイドル×リアコファン社会人 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 学生時代からずっと大好きな国民的アイドルのシャロンくん。デビューから一度たりともファンと直接交流してこなかった彼が、初めて握手会を開くことになったらしい。一名様限定の激レアチケットを手に入れてしまった僕は、感動の対面に胸を躍らせていると… 「あぁ、ずっと会いたかった俺の天使」 気付けば、僕の世界は180°変わってしまっていた。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 初めましてです。お手柔らかにお願いします。

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募するお話に、真紀ちゃん(攻)視点を追加して、倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

処理中です...