おいでませ神様のつくるミニチュア空間へ

森羅秋

文字の大きさ
40 / 65
第二章:アメミットからの協力要請

がっかり津賀留

しおりを挟む
 息吹戸いぶきどはロッジテントを見上げてから、津賀留つがるに振り返る。

「テントの中に入って荷物を置かせてもらおう」

「そう、ですね。はい」

 津賀留つがるは歯切れを悪くしながら頷いた。明らかに落胆しておりがっくと肩を落としている。

「あ、そうだ。雨下野うかのちゃん」

 息吹戸いぶきどはテントの入り口を開けようとして手を止め、雨下野うかのに振り返る。

「……なんでしょうか?」

 雨下野うかのはビクッと肩を揺らして背筋を伸ばした。表情が少し引きつっているが平静を保っている。

「このテントは東護とうごさんひっくるめてカミナシが使うもの? それとも女子だけが使うテント?」

 それを聞いた東護とうごがあからさまに嫌そうな顔をした。

「女性専用テントです。私もそこで寝ています。東護とうごさんは道路を挟んだ反対側の男性専用テントにご案内します」

「それなら良かった」

 息吹戸いぶきどはホッと胸をなでおろす。
 万が一でも東護と一緒なら、追い出す計画をたてるところであった。

「当然です。怪我や避難などの緊急時以外は一緒にしません」

 間違いがあるといけませんから。と雨下野うかのは舌の上で転がした。

「じゃあ東護とうごさんまた後で」

 息吹戸いぶきどは挨拶のつもりで片手を上げるが、東護とうごは腕を組んだまま不機嫌マッハオーラを送ってきた。あれが返事だろうと思い、息吹戸はテントの出入口の布をめくって、暖簾のれんの下をくぐるように入った。

「おじゃましまーす」

 ロッジテントの中は十台の簡易ベッドが狭い間隔で並べられおり、手すりの突起に荷物が引っかかっている。
 天上に五つほどランプが吊るされて灯があるが、光源が足りず薄暗い。
 地面に直接設置されているので土のにおいが強く、暖を取る用の四角い薪ストーブの煙突から細い煙が出るが、窓が開いており換気がしっかりされているため息苦しくはなかった。
 女性のアメミット隊員が二名、服を着こんだままベッドで寝ころんで休んでいる。
 
(ベッドがある!)

 寝袋で寝ると思い込んでいた息吹戸いぶきどは、予想よりもいい環境に両手を合わせて喜びを表した。

(こうしてみると、アメミットって警察っていうよりも自衛隊に近いのかも。取り締まるのが人間じゃなくて、異界から来るモノだけど)

「テント……はあ」

 津賀留つがるが後ろから入ってきた。
 テントをぐるっと見渡して、その殺風景と味気無さに一層落胆してしまった。

 息吹戸いぶきどは腰に手を当てて周囲を見渡す。荷物が置かれていないベッドもあるが、本当に空きがなのか分からない。
  
「どこのベッドを借りたらいいのか聞けばよかったな」

「そう、ですね……」

「ほら。荷物なくて使っているかもしれない」

「そう、ですね……」

津賀留つがるちゃんってば」

 歯切れの悪い津賀留つがるを見ながら息吹戸いぶきどは苦笑いする。
 彼女は移動中に『綺麗な宿に泊まって、大きな湯船にのんびりつかって、ふかふかな布団で眠る』ことを語り、とても楽しみにしていた。なのに実際はテント泊である。入浴も期待できないとなるとテンションが駄々下がりとなってしまった。

「すみません。勝手に期待したのが駄目だったんですが。あまりにも落差が激しくて……」

「仕事だから割り切ろうね」

 息吹戸いぶきどが窘めると、津賀留つがるが驚いて目を見開いた。

「ま、まさか、息吹戸いぶきどさんにそう言われる日が来るなんて」

「んん?」

「いつもなら真っ先に『こんなとこで寝泊まりなんて嫌!』と喧嘩したり、暴れたり、何かしらひと悶着もんちゃくあります」

「あ、ははははは……」

 息吹戸いぶきどは空笑いする。雨下野うかのから再度念押しされた理由がよくわかった。

(なるほど。息吹戸いぶきど瑠璃は外でも相当な問題児なのか。不具合も仕事だって割り切れば大丈夫なのに。中身は子供なんだね。いや、私が柔軟性ありすぎなのかな? まぁいいか)

 息吹戸いぶきど津賀留つがるの肩をポンポンと優しく叩いた。

「仕事終わったら大浴場に寄ってゆっくり浸かろう。そして美味しいご飯食べに行こう。それでいい?」

 津賀留つがるがぱぁっと表情を明るくさせて、何度も強く頷いた。

「はい! それがいいです! 約束ですよ息吹戸さん!」

 バッ、と気配が動いた。
 息吹戸いぶきどが視線を向けると、寝ていた二人の女性が上半身を起こしてこちらを見ていた。彼女たちは驚愕な表情のまま固まっていたが、みるみるうちに恐怖で顔を歪ませた。

(あっちゃ。津賀留つがるちゃんの声で起こしちゃったか)

 息吹戸いぶきどは左手で側頭部を掻きながら、「丁度いいや」と声を出す。

「お休みの所申し訳ないけど、空いているベッドを教えて。出来れば二人分」

 隊員たちは声のない悲鳴を上げて腰を浮かせてベッドから降りようとする。息吹戸いぶきどは申し訳ない気持ちから「そのままで」と声をかけた。隊員たちはピタリと動きを止めて、ベッドの上で正座すると頭を下げ「ご足労ありがとございます」と震えながら挨拶をする。

「どうも。それで空いているベッドを教えてほしいんだけど」

「あ、あちらと、こちらが……隣り合わせがいいですね!」

「すぐに荷物を移動させます! 暖かいのは中央なので、そこへ!」

 隊員たちは素早く立ち上がると置いてあった荷物を別のベッドに移動させ、布団の皺を伸ばして、周囲のゴミをかき集めて綺麗な状態に直すと、ピシっと背筋を伸ばして直立した。

「どうぞお使いください!」

 息吹戸いぶきどが目を細めて「ありがとう」と礼を述べると、彼女たちははぁと小さく細く息を吐いて、生存を喜ぶように天を仰いだ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

溺愛兄様との死亡ルート回避録

初昔 茶ノ介
ファンタジー
 魔術と独自の技術を組み合わせることで各国が発展する中、純粋な魔法技術で国を繁栄させてきた魔術大国『アリスティア王国』。魔術の実力で貴族位が与えられるこの国で五つの公爵家のうちの一つ、ヴァルモンド公爵家の長女ウィスティリアは世界でも稀有な治癒魔法適正を持っていた。  そのため、国からは特別扱いを受け、学園のクラスメイトも、唯一の兄妹である兄も、ウィステリアに近づくことはなかった。  そして、二十歳の冬。アリスティア王国をエウラノス帝国が襲撃。  大量の怪我人が出たが、ウィステリアの治癒の魔法のおかげで被害は抑えられていた。  戦争が始まり、連日治療院で人々を救うウィステリアの元に連れてこられたのは、話すことも少なくなった兄ユーリであった。  血に染まるユーリを治療している時、久しぶりに会話を交わす兄妹の元に帝国の魔術が被弾し、二人は命の危機に陥った。 「ウィス……俺の最愛の……妹。どうか……来世は幸せに……」  命を落とす直前、ユーリの本心を知ったウィステリアはたくさんの人と、そして小さな頃に仲が良かったはずの兄と交流をして、楽しい日々を送りたかったと後悔した。  体が冷たくなり、目をゆっくり閉じたウィステリアが次に目を開けた時、見覚えのある部屋の中で体が幼くなっていた。  ウィステリアは幼い過去に時間が戻ってしまったと気がつき、できなかったことを思いっきりやり、あの最悪の未来を回避するために奮闘するのだった。  

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

拾われ子のスイ

蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】 記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。 幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。 老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。 ――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。 スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。 出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。 清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。 これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。 ※週2回(木・日)更新。 ※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。 ※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載) ※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

処理中です...