11 / 26
花見 2
しおりを挟む
御殿の裏手に回ると池がある。池の縁には何本か山桜が生えており、桜は今年も見事に咲き誇っていた。春爛漫《はるらんまん》の景観が静かな池の水面に映って、二重の絶景だ。
「きれいですね。こんなにたくさん咲いて。雲の上にいるようです」
十和は舞い落ちてきた桜の花びらに手を伸ばした。つかもうとするが、つかめない。何枚挑戦しても花弁はひらりひらりと逃げてしまう。
いい加減あきらめたところで、月白が難なく花びらをつかんだ。続いて二枚三枚と取って、十和の手のひらにのせる。
「お上手ですね」
「何かに使うのか」
真面目に聞かれて、十和は口ごもった。
「……はしゃいでしまって。すみません」
「元気で良い」
心なし月白の目元がなごんだ気がした。雪に浮かれ騒ぐ子狐と同じにみられている気がして、十和は恥じ入った。
「……十和の目を通して見る桜は、俺とは違うのだろうな」
「月白様には桜がどう見えるのですか?」
「桜」
情緒も余韻もない、端的で簡潔な回答だった。
「何か思い出すようなことは」
「……昔、桜の木の上で寝ていたら夜中に女が」
十和がゴクリとつばを飲みこむと、月白は話を止めてしまった。
「夜中に何が起きたんですか!?」
「やめておく」
「気になります」
「来年も目いっぱい、十和には桜ではしゃいで欲しい」
のんきに浮かれ騒げなくなるようなことが起きたらしい。
桜に対して嫌な印象を持たないようにと配慮をしてくれるのは嬉しいが、十和は不服だった。
十和だって怨念に満ちた死霊をたくさん見てきている。彼らから嫌というほど世の理不尽を聞かされる。世の中がきれいことばかりだとは思っていない。
(嫌な思いをすることになっても、もっと月白様のことを知りたいのに)
人とぶつかりそうになると、月白に軽く抱き寄せられた。
見守るような温かい視線を注がれる。
こう優しくされてしまうと、月白の自分を大事にしたいという想いがしみじみ伝わってきて、十和は不満を口に出せなくなった。
(それにしても、すごく見られているわ)
十和は周囲を気にした。集まった参加者たちが、ちらちら目線を送ってくる。
黒松と吉乃同様に「だれ」と首をかしげる者が後を絶たない。正体に思い当たると、みな一様に月白の変わりぶりに目を剥いた。
「顔を半分隠しているのは、よほど顔がまずいからかと思っていたが」
「意外な一面だな」
驚くやらうらやむやら。感嘆する声が聞こえてくる。
女たちは浮わついた様子でささやきあい、酒や料理を運ぶ女中たちはしばしば足を止めていた。
十和も今一度となりに目をやって、思う存分心の中でのろける。
(月白様ってきちんとなさっていると、どこかのお国の若君みたい)
ついでに、ずっと気になっていたことをたずねる。
「月白様はどうしてお顔を半分隠していらっしゃるのですか? 不便では?」
「……不便以上の危険があって」
「危険?」
「夫のいる女に気に入られて痴話げんかに巻きこまれたり、男に好かれて付きまとわれたり、昔いた群れのヌシに『顔が不愉快』とか『ワシより目立つな』とかいわれて理不尽に殴られたり」
「……」
「この顔面、たぶん呪われている」
人によっては嫌味にもなりそうな発言だったが、月白の口調は大まじめで、少しも自慢が感じられなかった。
そもそも美醜がわからないと自称している月白だ。自分が人並外れた美貌をしていること自体まるで分かっていないのだろう。
「……十和は、この顔を見て不愉快にならないか」
「不愉快なんて! そんな、全然。……ずっと拝見していたいくらいで」
月白は後ろになでつけた前髪をいじる手を下ろした。
「ならよかった。赤城がこうした方が十和が喜ぶといっていたが正しかったんだな」
赤城の気遣いに十和は赤くなった。
婚儀の時の月白に自分が見惚れていたことを、赤城は気づいていたに違いない。
(ありがとう、赤城さん。ありがとう……!)
十和は第二の母に心からお礼をいった。
「お待たせいたしました、月白様、十和様。お席へご案内します」
案内役の女中がやって来て、二人を席へとうながす。
ついた先の景色に、十和の頬がこわばった。
「こ、今年は池の上なんですね……」
「はい。桜が間近で見られるようにと、今年はこちらで」
杭を打って板を渡し、池の上に席が設けられていた。そばではひときわ大きな桜が池むかって広く枝を伸ばしており、観桜にふわさしい席だった。
水上席に座れるのは、天遊の傘下で縄張りを任されているヌシたちだけ。特等席だ。しかし、ほがらかな案内役とは対照的に、十和の気分は沈む。
「早う座りやれ。後がつかえる」
繧繝縁《うんげいべり》の畳に座った豊乃がそっけなく十和を急かす。
「水辺は嫌などといつまでも子供のようなことを申すでない」
「申し訳ございません」
十和は青い顔で、豊乃の右側の席へ腰を下ろした。月白に顔をのぞきこまれる。
「水辺は嫌いなのか」
「……死霊が多いので不気味で。妖魔に沼に引き込まれたこともあるので苦手なのです」
十和は何度も池を気にした。池の底にはこの池のヌシである大きな鮒《ふな》がいた。ゆうゆうと泳いでいるだけで、こっちに関心はないようだ。
「昔の話なので。大丈夫です」
「あなたが溺れて以来、お父様は過保護に池の上での花見は取りやめて。甘やかしすぎよね」
向かいに座っている吉乃に言われ、十和は肩を縮めた。
十和が望んだわけではない。十和は自分だけ陸の席でも一向にかまわなかったが、天遊は水を怖がる末娘を気遣って、花見でこの席を使わなくなった。
みんなが残念がっていたのを知っているので、十和も罪悪感があった。いまだに怖いものは怖いのだが、水面に背を向け桜を仰ぐ。
「月白様、あそこ。桜の精がいらっしゃいますよ。美人ですね。天女というのはあんなふうなのでしょうか」
「どうでもいい」
同意を求めたら思い切り突き放された。何か怒らせたのかと表情が凍ったが、違った。月白は十和を連れて席を立つと、陸に座っている妖狐の一組にいった。
「席を変わってくれ」
「あそこに自分どもが座るわけには」
頼まれた二尾の妖狐たちは恐縮するばかりで承知しない。月白は言い方を変えた。
「……命令だ。席を変われ。逆らうなら池に放りこむ」
「謹んで承りますっ」
妖狐二匹は飛び上がって席を退いた。
十和はおろおろと、水上席と空いた席を見比べる。
「私はお言葉に甘えてこちらに移りますが。どうか月白様はあちらの席にお戻りください。他のヌシと話すのも大事なお役目でしょう」
「……俺は水辺にいたくない。昔、川獺の妖怪に水中に引きずり込まれて水中戦をやらされた。死ぬかと思った」
月白はさっさと空いた席に腰を落ち着けた。
「俺はここに座りたいから座るだけだ。十和も勝手にすれば良い」
嬉しさで涙が出そうになるのをこらえて、十和はそっと月白のとなりに座る。
二人が席を変わったことに、豊乃は特に何もいわなかった。簡単な挨拶があって、花見が始まった。
古株の妖狐たちが気安い微笑と共に酌をしに来る。
「見かけによらず愛妻家だな、月白殿は」
「妖狐は情愛が深いもの。伴侶は大切にせねばな」
古参の妖狐たちは女中のそでを引く黒松を横目にしつつ、月白の盃に酒を注いだ。
「それにしても、その見事な化けよう。ふだんのあのずぼらさは何だったのだ? 十和殿の影響か?」
「いやはや、うらやましい。こんなに優しく美しく気品ある姫を妻をもらったら、梅雨のような気分も五月晴れになるというものよな」
「……気分どころか世界が変わった」
一同はきょとんとして、吹き出した。
「まじめな顔で何をいったかと思えば、おぬしはノロケるときも顔色一つ変えないのか!」
「はは! 存外おもしろいのだな」
なごやかな雰囲気につられて、さらに人が寄ってきた。代わる代わる月白に酒を注ぐ。
十和は十和で年長の女性たちに手招きされた。
「十和さん、こちらへいらっしゃいな。都でおいしいと評判の桜餅を買ってきましたのよ」
「旦那さん、良い方ねえ。ずっと怖そうだと思っていたけれど今日で印象が変わったわ」
「聞いていたうわさとぜんぜん違う。とってもかっこいいし優しい方ね!」
女性陣が口々に月白を褒めるので、十和は我がことのように嬉しくなった。
つい自分だけが分かっていればいいと思っていた長所を語って聞かせる。
「本当に良い方です。威張ることはございませんし、悪いと思ったことはきちんと謝ってくださいますし、ふだんの口数は少なくとも大事なときにはじゅうぶんな言葉を下さいますし」
「まあ。まだ結婚して一ヶ月なのに。ご主人のことをよくご存知なのね」
「その話しぶり、まるで長年連れ添った夫婦のよう」
「ああ、しまった。そんな良い男なら唾を付けておくんだったわ」
「だめだめ。あなたが奥さんになったってあんな風には変わらなかったわよ」
「分かってるわよ、冗談に決まっているじゃない。言ってみたかっただけ」
あっけらかんとした明るい笑いが場に満ちる。あまりに周りが褒めてくれるので十和は照れくさくなった。
同時にふと心に不安が兆す。
(そうよ、月白様はあんなに良いお方なのだもの。きっとたくさんの女性に想いを寄せられるわ)
手に取った桜餅を食むが、動揺で味を楽しむどころではない。
(月白様が他の女性に言い寄られてその気になってしまったら……どうしよう)
さっきまで嬉しかった月白への賞賛が悩みのたねに早変わりする。
(それでも月白様は私を妻として大事に扱ってくれるかもしれないけれど。
きっと私の方が耐えられないわ)
淡い紅色をした桜餅は、甘くてしょっぱかった。
「きれいですね。こんなにたくさん咲いて。雲の上にいるようです」
十和は舞い落ちてきた桜の花びらに手を伸ばした。つかもうとするが、つかめない。何枚挑戦しても花弁はひらりひらりと逃げてしまう。
いい加減あきらめたところで、月白が難なく花びらをつかんだ。続いて二枚三枚と取って、十和の手のひらにのせる。
「お上手ですね」
「何かに使うのか」
真面目に聞かれて、十和は口ごもった。
「……はしゃいでしまって。すみません」
「元気で良い」
心なし月白の目元がなごんだ気がした。雪に浮かれ騒ぐ子狐と同じにみられている気がして、十和は恥じ入った。
「……十和の目を通して見る桜は、俺とは違うのだろうな」
「月白様には桜がどう見えるのですか?」
「桜」
情緒も余韻もない、端的で簡潔な回答だった。
「何か思い出すようなことは」
「……昔、桜の木の上で寝ていたら夜中に女が」
十和がゴクリとつばを飲みこむと、月白は話を止めてしまった。
「夜中に何が起きたんですか!?」
「やめておく」
「気になります」
「来年も目いっぱい、十和には桜ではしゃいで欲しい」
のんきに浮かれ騒げなくなるようなことが起きたらしい。
桜に対して嫌な印象を持たないようにと配慮をしてくれるのは嬉しいが、十和は不服だった。
十和だって怨念に満ちた死霊をたくさん見てきている。彼らから嫌というほど世の理不尽を聞かされる。世の中がきれいことばかりだとは思っていない。
(嫌な思いをすることになっても、もっと月白様のことを知りたいのに)
人とぶつかりそうになると、月白に軽く抱き寄せられた。
見守るような温かい視線を注がれる。
こう優しくされてしまうと、月白の自分を大事にしたいという想いがしみじみ伝わってきて、十和は不満を口に出せなくなった。
(それにしても、すごく見られているわ)
十和は周囲を気にした。集まった参加者たちが、ちらちら目線を送ってくる。
黒松と吉乃同様に「だれ」と首をかしげる者が後を絶たない。正体に思い当たると、みな一様に月白の変わりぶりに目を剥いた。
「顔を半分隠しているのは、よほど顔がまずいからかと思っていたが」
「意外な一面だな」
驚くやらうらやむやら。感嘆する声が聞こえてくる。
女たちは浮わついた様子でささやきあい、酒や料理を運ぶ女中たちはしばしば足を止めていた。
十和も今一度となりに目をやって、思う存分心の中でのろける。
(月白様ってきちんとなさっていると、どこかのお国の若君みたい)
ついでに、ずっと気になっていたことをたずねる。
「月白様はどうしてお顔を半分隠していらっしゃるのですか? 不便では?」
「……不便以上の危険があって」
「危険?」
「夫のいる女に気に入られて痴話げんかに巻きこまれたり、男に好かれて付きまとわれたり、昔いた群れのヌシに『顔が不愉快』とか『ワシより目立つな』とかいわれて理不尽に殴られたり」
「……」
「この顔面、たぶん呪われている」
人によっては嫌味にもなりそうな発言だったが、月白の口調は大まじめで、少しも自慢が感じられなかった。
そもそも美醜がわからないと自称している月白だ。自分が人並外れた美貌をしていること自体まるで分かっていないのだろう。
「……十和は、この顔を見て不愉快にならないか」
「不愉快なんて! そんな、全然。……ずっと拝見していたいくらいで」
月白は後ろになでつけた前髪をいじる手を下ろした。
「ならよかった。赤城がこうした方が十和が喜ぶといっていたが正しかったんだな」
赤城の気遣いに十和は赤くなった。
婚儀の時の月白に自分が見惚れていたことを、赤城は気づいていたに違いない。
(ありがとう、赤城さん。ありがとう……!)
十和は第二の母に心からお礼をいった。
「お待たせいたしました、月白様、十和様。お席へご案内します」
案内役の女中がやって来て、二人を席へとうながす。
ついた先の景色に、十和の頬がこわばった。
「こ、今年は池の上なんですね……」
「はい。桜が間近で見られるようにと、今年はこちらで」
杭を打って板を渡し、池の上に席が設けられていた。そばではひときわ大きな桜が池むかって広く枝を伸ばしており、観桜にふわさしい席だった。
水上席に座れるのは、天遊の傘下で縄張りを任されているヌシたちだけ。特等席だ。しかし、ほがらかな案内役とは対照的に、十和の気分は沈む。
「早う座りやれ。後がつかえる」
繧繝縁《うんげいべり》の畳に座った豊乃がそっけなく十和を急かす。
「水辺は嫌などといつまでも子供のようなことを申すでない」
「申し訳ございません」
十和は青い顔で、豊乃の右側の席へ腰を下ろした。月白に顔をのぞきこまれる。
「水辺は嫌いなのか」
「……死霊が多いので不気味で。妖魔に沼に引き込まれたこともあるので苦手なのです」
十和は何度も池を気にした。池の底にはこの池のヌシである大きな鮒《ふな》がいた。ゆうゆうと泳いでいるだけで、こっちに関心はないようだ。
「昔の話なので。大丈夫です」
「あなたが溺れて以来、お父様は過保護に池の上での花見は取りやめて。甘やかしすぎよね」
向かいに座っている吉乃に言われ、十和は肩を縮めた。
十和が望んだわけではない。十和は自分だけ陸の席でも一向にかまわなかったが、天遊は水を怖がる末娘を気遣って、花見でこの席を使わなくなった。
みんなが残念がっていたのを知っているので、十和も罪悪感があった。いまだに怖いものは怖いのだが、水面に背を向け桜を仰ぐ。
「月白様、あそこ。桜の精がいらっしゃいますよ。美人ですね。天女というのはあんなふうなのでしょうか」
「どうでもいい」
同意を求めたら思い切り突き放された。何か怒らせたのかと表情が凍ったが、違った。月白は十和を連れて席を立つと、陸に座っている妖狐の一組にいった。
「席を変わってくれ」
「あそこに自分どもが座るわけには」
頼まれた二尾の妖狐たちは恐縮するばかりで承知しない。月白は言い方を変えた。
「……命令だ。席を変われ。逆らうなら池に放りこむ」
「謹んで承りますっ」
妖狐二匹は飛び上がって席を退いた。
十和はおろおろと、水上席と空いた席を見比べる。
「私はお言葉に甘えてこちらに移りますが。どうか月白様はあちらの席にお戻りください。他のヌシと話すのも大事なお役目でしょう」
「……俺は水辺にいたくない。昔、川獺の妖怪に水中に引きずり込まれて水中戦をやらされた。死ぬかと思った」
月白はさっさと空いた席に腰を落ち着けた。
「俺はここに座りたいから座るだけだ。十和も勝手にすれば良い」
嬉しさで涙が出そうになるのをこらえて、十和はそっと月白のとなりに座る。
二人が席を変わったことに、豊乃は特に何もいわなかった。簡単な挨拶があって、花見が始まった。
古株の妖狐たちが気安い微笑と共に酌をしに来る。
「見かけによらず愛妻家だな、月白殿は」
「妖狐は情愛が深いもの。伴侶は大切にせねばな」
古参の妖狐たちは女中のそでを引く黒松を横目にしつつ、月白の盃に酒を注いだ。
「それにしても、その見事な化けよう。ふだんのあのずぼらさは何だったのだ? 十和殿の影響か?」
「いやはや、うらやましい。こんなに優しく美しく気品ある姫を妻をもらったら、梅雨のような気分も五月晴れになるというものよな」
「……気分どころか世界が変わった」
一同はきょとんとして、吹き出した。
「まじめな顔で何をいったかと思えば、おぬしはノロケるときも顔色一つ変えないのか!」
「はは! 存外おもしろいのだな」
なごやかな雰囲気につられて、さらに人が寄ってきた。代わる代わる月白に酒を注ぐ。
十和は十和で年長の女性たちに手招きされた。
「十和さん、こちらへいらっしゃいな。都でおいしいと評判の桜餅を買ってきましたのよ」
「旦那さん、良い方ねえ。ずっと怖そうだと思っていたけれど今日で印象が変わったわ」
「聞いていたうわさとぜんぜん違う。とってもかっこいいし優しい方ね!」
女性陣が口々に月白を褒めるので、十和は我がことのように嬉しくなった。
つい自分だけが分かっていればいいと思っていた長所を語って聞かせる。
「本当に良い方です。威張ることはございませんし、悪いと思ったことはきちんと謝ってくださいますし、ふだんの口数は少なくとも大事なときにはじゅうぶんな言葉を下さいますし」
「まあ。まだ結婚して一ヶ月なのに。ご主人のことをよくご存知なのね」
「その話しぶり、まるで長年連れ添った夫婦のよう」
「ああ、しまった。そんな良い男なら唾を付けておくんだったわ」
「だめだめ。あなたが奥さんになったってあんな風には変わらなかったわよ」
「分かってるわよ、冗談に決まっているじゃない。言ってみたかっただけ」
あっけらかんとした明るい笑いが場に満ちる。あまりに周りが褒めてくれるので十和は照れくさくなった。
同時にふと心に不安が兆す。
(そうよ、月白様はあんなに良いお方なのだもの。きっとたくさんの女性に想いを寄せられるわ)
手に取った桜餅を食むが、動揺で味を楽しむどころではない。
(月白様が他の女性に言い寄られてその気になってしまったら……どうしよう)
さっきまで嬉しかった月白への賞賛が悩みのたねに早変わりする。
(それでも月白様は私を妻として大事に扱ってくれるかもしれないけれど。
きっと私の方が耐えられないわ)
淡い紅色をした桜餅は、甘くてしょっぱかった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
君は番じゃ無かったと言われた王宮からの帰り道、本物の番に拾われました
ゆきりん(安室 雪)
恋愛
ココはフラワーテイル王国と言います。確率は少ないけど、番に出会うと匂いで分かると言います。かく言う、私の両親は番だったみたいで、未だに甘い匂いがするって言って、ラブラブです。私もそんな両親みたいになりたいっ!と思っていたのに、私に番宣言した人からは、甘い匂いがしません。しかも、番じゃなかったなんて言い出しました。番婚約破棄?そんなの聞いた事無いわっ!!
打ちひしがれたライムは王宮からの帰り道、本物の番に出会えちゃいます。
おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。
猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。
復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。
やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、
勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。
過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。
魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、
四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。
輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。
けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、
やがて――“本当の自分”を見つけていく――。
そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。
※本作の章構成:
第一章:アカデミー&聖女覚醒編
第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編
第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編
※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位)
※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。
皇帝は虐げられた身代わり妃の瞳に溺れる
えくれあ
恋愛
丞相の娘として生まれながら、蔡 重華は生まれ持った髪の色によりそれを認められず使用人のような扱いを受けて育った。
一方、母違いの妹である蔡 鈴麗は父親の愛情を一身に受け、何不自由なく育った。そんな鈴麗は、破格の待遇での皇帝への輿入れが決まる。
しかし、わがまま放題で育った鈴麗は輿入れ当日、後先を考えることなく逃げ出してしまった。困った父は、こんな時だけ重華を娘扱いし、鈴麗が見つかるまで身代わりを務めるように命じる。
皇帝である李 晧月は、後宮の妃嬪たちに全く興味を示さないことで有名だ。きっと重華にも興味は示さず、身代わりだと気づかれることなくやり過ごせると思っていたのだが……
触れると魔力が暴走する王太子殿下が、なぜか私だけは大丈夫みたいです
ちよこ
恋愛
異性に触れれば、相手の魔力が暴走する。
そんな宿命を背負った王太子シルヴェスターと、
ただひとり、触れても何も起きない天然令嬢リュシア。
誰にも触れられなかった王子の手が、
初めて触れたやさしさに出会ったとき、
ふたりの物語が始まる。
これは、孤独な王子と、おっとり令嬢の、
触れることから始まる恋と癒やしの物語
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる