盟約の花婿─魔法使いは黒獅子に嫁ぐ─

沖弉 えぬ

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「魔法使いは黒獅子に嫁ぐ」後編

19心に嘘は無し

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 夜になると多忙に追われていたアスランが部屋へと戻ってきた。会う度に疲労の色が濃くなっていくアスランを交えて三人でテーブルを囲む。ケディは「難しい話はパス」だそうだ。自由気ままな猫らしいと言えばそうだが、これだからいつまでも従者として取り立ててもらえないのではと思ったのは秘密だ。
 遅めの夕食を終えたテーブルには眠気覚ましのチャイがある。癖のあるスパイシーな味は慣れると美味しいと感じるようになった。チャイには大抵砂糖がたくさん入っているのだが、甘くすると二人が飲まないのでテーブルの上にはシュガーポットが置かれている。
 魔法を使わず何でも自分の手でやる事にも慣れてきたなぁと思いつつ、カルディアはポットから一つ二つ……五つの砂糖を自分のカップに入れて混ぜる。一部始終を見ていたアスランが「げぇ」という顔をした。表情筋に針金が入っている人なので感想が顔に出るのは珍しい。
 アスランが空になったカップを置く。チンッという小気味良い音が話し合いスタートの合図になった。
「話は大体ティキに聞いた。発情期中の公表はさせない」
 賛成しないでも、認めないでもなく「させない」ときた。言葉選びにアスランの断固としたものを感じるもカルディアもこればっかりは譲れなかった。
 発情期が終わってからだというなら少なくともここから更に七日余り軟禁生活が続く事になる。七日後には足の裏から根が生えているのではないかと思うととてもではないが了承出来ない。
「発情期中だと他のαは僕を敬遠したくなるんでしょ? ティキを見てよ」
 水を向けられたティキはにこっと目で笑って返すも、鼻から下を幅広の布で覆って隠している。
「それは個人差がある。現にお前の匂いに誘われて象が一頭釣れただろ」
「あの人が珍しかったのかも」
「珍獣が他にも居ない保証はない」
 そういう言われ方をするとまるでカルディアに対して興奮するのがおかしいみたいに聞こえてムッとしつつも間髪入れずに言葉を返していく。
「発情期の僕の匂いを知らしめたらいいんだよ。そうすればアスランの番だってみんな納得せざるを得なくなる!」
「駄目だと言ってる!」
 カルディアが語気を荒げれば、アスランの拳がテーブルを叩く。カルディアのカップからチャイが飛び散り、倒れたシュガーポットの中で砂糖が割れていた。
 最悪の空気だ。じりじりと睨み合った後、はたと気付いて勢いを引っ込める。論点がおかしい。
「……お前は、俺の番として認められたいのか?」
 同じ事に気付いたようでアスランから指摘されるとカァッと熱が上ってきて目を合わせていられずに俯いた。「……そうだよ」これまでの勢いが嘘のように蚊の鳴くような声で認める。だってそのためにはるばるフォトスの森からやってきたのだから、それくらいの事を望むのに罰は当たらないだろう。しかしアスランは思わず飛び出してしまったカルディアの願いを知っても渋い顔で黙り込むだけだった。
 どうしてそんなにカルディアの事を隠したがるのだろうか。シリオの第一王子に番が出来たという報せは何も弱点を晒すという意味だけではないだろう。二人の婚姻は国の未来なのだ。二十五歳のアスランにとってはきっと遅いくらいで、王子の結婚に安心する者だっているはずだ。
 ひょっとして、という考えが今この時になってカルディアの頭に閃くようにして思い浮かぶ。
 ひょっとして、アスランには想い人が居るのではないか。カルディアをただの伴侶として公表するだけなら、番である事は隠し通せるかも知れない。そうしてどこかの誰かに番を作ってしまった事を隠したくて頑なに反対するのではないか。
 邪推だと思っても一度その考えが浮かんでしまったら思考はすぐにそちらを疑い始める。
 そんな事は許せない。許したくない。カルディアは故郷を離れて何より夢中だった魔法さえ使えなくなって、たった一人亜獣人の土地で生きていかなくてはならない。それなのにアスランは番を隠して想い人と睦み合うだって? どんなに女々しいとそしられようともそればかりは許容出来そうにない。アスランはカルディアの伴侶で番だ。二人はもはや運命共同体なのだから、アスランだけが心を自由にさせるのは納得がいかなかった。
 再び両者正面からにらみ合うギスギスした空気の中、一人テーブルから離れてチャイを飲んでいたティキが徐に言う。
「発情期中の公表の何がいけないのでしょう?」
 テーブルに乗ったアスランの手が怒りで震える。そのままテーブルに穴が空きそうだ。
 一方カルディアは思わぬ所からの援軍に我が意を得たりと口角が吊り上がる。
「アスラン様の番の座をかけて裏であれこれ陰謀めいた事をしていた象族が、指を咥えて着飾ったカルディア様を見上げるしかないんですよ? さぞや良い眺めでしょうね」
 援軍は確かに援軍だがずいぶんと黒い気配のする援軍だ。カルディアの顔から笑顔が引っ込む。
 象族の陰謀とやらは分からないが、ティキの意見は効果があったようでアスランは拳を解き思案するように鼻を鳴らす。
「……やっぱり、駄目だ。俺はそもそも公表自体反対なんだ。別に象族の小僧一人くらい何とでも出来る」
「何とも出来ないから国王陛下が頭を痛められているのでしょう?」
「それは」
「それに、何をそんなに反対する理由があるというんです? 公表を伏せたところでその象族の小僧とやらには知られてしまいました。そもそも象族はこちらの動きを把握して動いているのですから、遅かれ早かれカルディア様の事は知られていましたよ。だったらいっそ、公にして堂々とカルディア様をお守りすればよろしいのです」
 最早ぐうの音さえも出ないのか、完璧に論破されたアスランは額に手をやって頭を抱える。カルディアは心の中だけで称賛の拍手を送っておいた。
「アスラン」
 返す言葉が見付からない様子のアスランを労わるように呼ぶ。
「象族の人倒したの僕だって話は聞いてる?」
「……ああ」
「だから大丈夫だよ」
 あなたのΩは傷付かない。あなたの子を産むためにこの体は守ってみせると決めたから──。
 そんな思いが届いたかは分からないが、たっぷり間をあけてからアスランは「分かった」と渋々了承してくれた。
「さて、話もまとまった事ですし私は出ていきましょうかね。フェネックには馬に蹴られる趣味はありませんから」
「あ、待ってティキ。僕今夜どこで寝ればいい?」
「そんなもの──」
「ここで寝ろ」
「えっ」
 ポポポっと一瞬で頬が熱くなる。ティキが「まっ」と高い声を出しながら布の上から鼻をつまんだ。
「安心しろ、今日は何もしない」
「そ、そう」
「はいはい、では。お休みなさいお二人とも」
 ティキを見送り部屋に二人きりになると、どうしても昨夜の淫奔となってしまった自分の姿を思い出してしまう。今日はしないと言われたのに頭の中は既にその事でいっぱいだ。これが発情期というやつだと理解したところでふしだらな気分になるのを止められる訳ではない。
「アスラン、その……あれ? アスラン?」
 気付くとアスランが居なくなっていた。椅子から立ち上がり奥の間に行くと、灯りも点けずにチェストの中を漁っているアスランを見つける。暗い中でも人より夜目が利くのだろうがカルディアには見えないので、魔法の香りがするランプに火を灯す。
「見付けた。これを持っていろ。魔法燃料の使い道を探してたんだろ?」
 半ば放り投げられるようにして渡してくる何かを慌てて受け取って、次の瞬間思いもよらぬ物だった事に気付いて危うく取り落としかける。
「これ……!」
「魔法兵器だ。護身用だから大した事は出来ないけどな」
 アスランは雑談するような調子で話すのに対し、カルディアは色をなす。
「そうじゃなくて!!」
「何だ?」
「魔法兵器は禁止されてるのに」
「禁止じゃない。推奨されてないだけだ。しかもその主張はフォトス側の言い分だろ」
 彼の言う事は間違っていないのに、フォトスを蔑ろにするような言い回しに悲しくなる。
「……こんなの、僕使いたくない」
「わがまま言うな」
「だって!」
 アスランが荒々しくチェストを閉める。その音にびくりと肩が跳ねた。
「音で脅かそうとしないでよ」
「んなちんけな事考えてねぇよ」
 アスランの言葉遣いが荒々しくなっている。それで分かる。彼は怒っている。
 どうしてこんなにも上手くいかないのか。昨日は発情期だったとは言え、あんなにも深く繋がっていたのに。所詮体だけだと思いたくないのに。
 けれど本当は分かっているのだ。互いに圧倒的に言葉が足りていないのだと。言葉を交わすための時間が足りていないと分かっている。アスランは日に日に疲労を蓄積させているのも、顔色を見れば一目瞭然だった。
 だから負担になりたくないと思うのに。どうにかして彼の悩みを解消してあげたいと思うのに。
 上手くいかない。
「アスラン、教えてよ。どうしてあんなに僕の事を公表したくなかったの?」
 理由は様々思い付く。だけど一番最悪なのはやはり──。
「好きな人が居るの?」
「違う! そんなものは居ない」
 アスランは真っすぐカルディアの目を見てはっきりと否定した。こんな時なのにほっとしてしまう自分が居る。
「じゃあ何で。弱いΩが番は嫌? それとも僕が嫌い?」
「ちが、……いや。そうだ。嫌いだった」
 ほっとした瞬間、その油断を刺すようにしてアスランの言葉がカルディアの胸に痛みを与えた。傷付けたはずのアスランも、何故か苦しげに表情を歪めている。
「Ωも魔法も嫌いだった。自分が将来そんなものを番にしなくてはいけない事を、ずっと呪ってきた」
 それは自分とて同じだ、と言葉を掛けるには、アスランの声はあまりにも悲痛だった。
 彼のΩ嫌い、そして魔法嫌いには何か事情があると知るには十分なほどの強い感情。胸がずん、と重くなるのは彼の感じているものがカルディアにも伝播しているのだ。
「でも……」
 アスランは嫌な夢を追い払うようにして強く目を閉じ息を吐き出した。そうすると、暗く積もっていくようだった苦しいディナミが晴れていく。
「……ここまで何度襲われたと思ってる」
 話をすり替えられたと思ったが指摘しなかった。彼の嫌うΩと魔法について語れるほど、アスランはまだカルディアに心を開かない。カルディアの事をどう思っているのかも、訊ける雰囲気ではなくなってしまった。
「襲われたのは僕のせい?」
「違う。だから、部屋から出て欲しくなかった」
「出なかったよ。それでも襲われたんなら、もう闘うしかないんじゃないか」
「そうだな……。はぁ、そうだ。お前とティキの言う事が正しい。分かってる」
 アスランは諦めるように首を振って言いたい事を飲み込んでしまったようだ。まさかそんな風に折れるとは思わず、カルディアは言葉に詰まってしまう。
 何だかとてもアスランが弱って見えた。いつもの雄々しい獅子族の王子の姿はなく、アスランという一人の男が弱り果てている。
「アスラン、僕が襲われたら困るんだよね?」
「……そうだ」
「だったらさっきの、持ってるよ僕。だけど僕があれを使わなくて済むようにして欲しい」
 傍に居たい。
 本当はたった一言、それだけだ。それだけ伝えたいのに、アスランと話す時はどうしても建前が先に出る。きっと自分でも気付かないうちに心が傷付かないように保険をかけてしまうのだろう。
「分かった」
 カルディアの事を発情期の間に公表する事。その代わり、カルディアは護身のために魔法兵器を身につける事。
 互いに譲歩した。こうやって少しずつでも歩み寄る事が出来たら、そのうちきっと、今よりもっと互いを知る事が出来るはずだ。
 今はただそう願う事しか出来ない。
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