義理の家族に虐げられている伯爵令息ですが、気にしてないので平気です。王子にも興味はありません。

竜鳴躍

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あんまりいい思い出のない従妹だったけれど

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森を転移しながら、さきほど大熊がいたあたりを隈なく探すと、崖の下にローザは落ちていた。

頬に大きな傷を受け、落下の衝撃か、熊に齧られたか、右足がぐしゃぐしゃになっている。


大量に血を失い、ズタズタな姿を見て、シンは言葉を失った。


あんまりいい思い出のない従妹だけど、彼女はそのように育てられたのだから、恨みなどなかった。

あの家に来たばかりの幼い頃は、まだ可愛げもあって。


『おままごとのあいてをちてちょうだい。おにいたまもあいてをちてくれないの。』

『あいあとう。あなた、いいひとね。おにいたまもあなたみたいにやさちかったらよかったのに。』

『しんおにたま、あたまのいろそめたらいいわ。そばかすもおけしょうでかくせるのよ。そしたら、しんおにたまにも、おともらち、いっぱいできるわ!おとうたまもおかあたまも、おにいたまもいじわるしなくなるかも!』



我儘放題に育てられてしまった彼女は、変われなかったのだろう。
それで、修道院に行く途中で、あの女に騙されたに違いない。

娼婦の足ぬけは足がつく。


でも、ローザはそうではない。

あの女は、初めからローザとすり替わるつもりだったのだ。


「シン、まずはローザを治療しよう。このままでは死んでしまう。さっきの兵団に治療班があった。今、この時間から医師を探してもすぐには治療をしてくれまい。城がお抱えの医師もいるかもしれないが、外傷の治療に長けた者は兵団に随行していると考えた方がいい。さっきの場所に転移で戻ろう。」

ロイがさっとローザを抱きかかえ、3人は転移をした。




そして、再び転移をして。




治療を終えたローザを寝かせ、ステラを取り囲んでいる。



「僕はシン=オレリアン。バスティン王国の公爵であり、王太子であるロイの婚約者です。オレリアンは母方の曾祖父の姓で、元々の姓はヴェール。グラス王国の伯爵でした。ローザの名を騙ったのが運の尽きでしたね。」


「……ははっ。まさか、ローザの親族がここに居合わせるとはね。」


淑女を取り繕っていた仮面は剥がれ、拘束された女は毒を吐いた。



「あなたはローザに成り代わりたかったのでしょう?別の王子と結婚して幸せになるリーゼロッテ様が妬ましくて、スノー様を誘惑しようとした。リーゼロッテ様はあなたのことを覚えているし、責める。だけど、よく似た別人であれば、いいがかりとして逆にリーゼロッテ様を貶めることもできるし、何より、『足ぬけしたステラは死んだ』とすることで、自由にもなれる。」

シンは拳を握り、ロイはシンのその手を優しく握り直した。


側で話を聞いていたスノーが、口に手を当てる。

「この時期、この国の森は食べ物が豊富だ。迂闊に森に足を踏み込んで、彼らの餌場を荒らすようなことをしなければ、獣が進んで森から出て人を襲うことはあまりない。そして、ローメン王国からブリザード王国への船着き場から街にかけては一直線で、わざわざ森の付近を歩く必要はない。君はわざとローザ嬢を連れて熊の餌場付近を荒らしたな?そして、ローザを囮に使い、置き去りにし、自分は俺たちに助けを求めた。式の後で俺たちが巡回に出るのはこの国の者なら知ってるからな。どっかで聞いたんだろ?邪魔なローザを見捨て、自分が悲劇のヒロインとして俺と接触するために。」


「………よくわかってるじゃない。それで?どうするの?私には恐れるものなんて何もないわ。元々底辺にいる女だもの。」


忌々しい。

ローザは右足を切断しなければならなかった。
頬の傷は痕が残る。



ロイの顔を見る。
ロイは頷いてくれる。


今から、とても残酷な提案をしようと思ってる。



「ローメン王国の君の雇用主にお金を払って、僕が君を身請けしよう。でも、すぐ僕は君を売り払う。」


「あらいいわよ、どうぞご自由に。あんなところから出られるなら万々歳だわ。」





「カタルシスたちがいる場所に、君を売り払うよ。」




ポン、と楽しそうににやにやとスノーは笑った。

「それはいい考えだ。きっと奴らも喜ぶだろうね。」

「奴ら?」

まあ、喜ぶかもね。あんなに好きだった私が行くのなら。


何か誤解をしたまま、ステラは衛兵に拘束されて連れていかれた。
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