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第三章 ランジェリーショップの試着室で
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ランジェリー売り場に足を踏み入れるのは、人生で初めてのことだった。
桐谷さんの隣を歩く私は、たしかにスカートにヒール、ウィッグにナチュラルメイクという“女の子の格好”をしていた。でもこの場所の空気は、それとは違う次元の、もうひとつの「女性性」をまとっていた。
柔らかなシフォンカーテンに、香水の甘い香り。レースとサテンが並ぶ棚には、どれもが“肌に触れること”を前提とした、密やかな色と形。
私はその空気だけで、もう膝が少し震えていた。
「……大丈夫?」
彼がそう小さく聞いたとき、私はこくんと頷く。嘘ではなかったけれど、正確でもなかった。
私は“この空間に身を置けている”ことに、じんわりとした快感すら覚えていたのだ。
「こちら、お似合いになりそうですね。よろしければご試着も」
店員さんの言葉に、思わず視線を落とす。
手渡されたのは、くすみピンクのシアーなレースブラと、サイドが細いショーツ。柔らかなチュールが胸元に軽く波打ち、透け感のあるその繊細な布地が、まるで私の肌に触れる前から囁いてくるようだった。
試着室のカーテンが閉まる。
ミュートされたような静けさの中で、私は息を吐いた。
ウィッグを直し、ストッキングの縁を確かめながら、ブラを手に取る。
背中のホックを止めると、柔らかな重みが身体に寄り添ってくる。
肩紐をそっと上げると、それだけで背筋が伸びた。
胸のふくらみは、自分で詰めたパッドと、優しくフィットするレースによって、自然な丸みに整えられている。
そして──下着の中に包まれるという、その行為そのものが、私の感覚をどこか研ぎ澄ましていく。
ショーツをはき替えた瞬間、私は思わず喉を鳴らしていた。
脚の付け根を通っていく冷たいレース。
薄くて柔らかく、それでいて身体の“秘密”を軽く包むような感触。
私の身体は、確かに男の子の形をしている。でも、今この瞬間、視覚的にも触覚的にも、“女の子としての官能”が存在していた。
鏡の中の私は、思っていた以上に女の子だった。
しなやかな肩、きゅっと締まったウエスト、下から支えるブラのライン。
ふと目を伏せて、口元に指を添える。
その仕草すら、鏡の中ではすっかり“女性のもの”になっていた。
――この下着を、ただ着ているだけじゃない。
着て、見られたいと思ってる。
そして、それを可愛いって思ってほしい。
外から、控えめにノックの音。
「どう?」
「……すごく、すごく……女の子だった」
カーテンの外で、桐谷さんが笑った気配がした。
私はブラの肩紐を指でそっと引いてみる。レースがぴんと張り、胸に食い込む感覚に背筋が震える。
“見せられない快感”が、下着という形で可視化されているようだった。
このまま鏡の前で、ひとりでいたら、たぶん私は──何かを越えてしまう。
だから、そっと着替えて、カーテンを開いた。
桐谷さんが、私の顔を見て、少し息を呑んだのがわかった。
たぶん、私の頬は赤く、目元はとろんとしていたのだろう。
下着の試着ひとつで、こんなに身体が熱くなるなんて。
でもそれは、決していやなことではなかった。
「……どうだった?」
彼が静かに尋ねる。
私は、ほんの少し笑って言う。
「今夜、それを着て寝たい。……ねえ、着ていい?」
彼は返事をしなかった。ただ、私の手を取って、やさしく握った。
買い物袋の中で、柔らかなレースが揺れていた。
そのレースは、私の秘密の感覚を知っている。
私の身体の熱さを、きっと明日も覚えている。
そして私は、その熱を、もっと深く知りたくなっていた。
桐谷さんの隣を歩く私は、たしかにスカートにヒール、ウィッグにナチュラルメイクという“女の子の格好”をしていた。でもこの場所の空気は、それとは違う次元の、もうひとつの「女性性」をまとっていた。
柔らかなシフォンカーテンに、香水の甘い香り。レースとサテンが並ぶ棚には、どれもが“肌に触れること”を前提とした、密やかな色と形。
私はその空気だけで、もう膝が少し震えていた。
「……大丈夫?」
彼がそう小さく聞いたとき、私はこくんと頷く。嘘ではなかったけれど、正確でもなかった。
私は“この空間に身を置けている”ことに、じんわりとした快感すら覚えていたのだ。
「こちら、お似合いになりそうですね。よろしければご試着も」
店員さんの言葉に、思わず視線を落とす。
手渡されたのは、くすみピンクのシアーなレースブラと、サイドが細いショーツ。柔らかなチュールが胸元に軽く波打ち、透け感のあるその繊細な布地が、まるで私の肌に触れる前から囁いてくるようだった。
試着室のカーテンが閉まる。
ミュートされたような静けさの中で、私は息を吐いた。
ウィッグを直し、ストッキングの縁を確かめながら、ブラを手に取る。
背中のホックを止めると、柔らかな重みが身体に寄り添ってくる。
肩紐をそっと上げると、それだけで背筋が伸びた。
胸のふくらみは、自分で詰めたパッドと、優しくフィットするレースによって、自然な丸みに整えられている。
そして──下着の中に包まれるという、その行為そのものが、私の感覚をどこか研ぎ澄ましていく。
ショーツをはき替えた瞬間、私は思わず喉を鳴らしていた。
脚の付け根を通っていく冷たいレース。
薄くて柔らかく、それでいて身体の“秘密”を軽く包むような感触。
私の身体は、確かに男の子の形をしている。でも、今この瞬間、視覚的にも触覚的にも、“女の子としての官能”が存在していた。
鏡の中の私は、思っていた以上に女の子だった。
しなやかな肩、きゅっと締まったウエスト、下から支えるブラのライン。
ふと目を伏せて、口元に指を添える。
その仕草すら、鏡の中ではすっかり“女性のもの”になっていた。
――この下着を、ただ着ているだけじゃない。
着て、見られたいと思ってる。
そして、それを可愛いって思ってほしい。
外から、控えめにノックの音。
「どう?」
「……すごく、すごく……女の子だった」
カーテンの外で、桐谷さんが笑った気配がした。
私はブラの肩紐を指でそっと引いてみる。レースがぴんと張り、胸に食い込む感覚に背筋が震える。
“見せられない快感”が、下着という形で可視化されているようだった。
このまま鏡の前で、ひとりでいたら、たぶん私は──何かを越えてしまう。
だから、そっと着替えて、カーテンを開いた。
桐谷さんが、私の顔を見て、少し息を呑んだのがわかった。
たぶん、私の頬は赤く、目元はとろんとしていたのだろう。
下着の試着ひとつで、こんなに身体が熱くなるなんて。
でもそれは、決していやなことではなかった。
「……どうだった?」
彼が静かに尋ねる。
私は、ほんの少し笑って言う。
「今夜、それを着て寝たい。……ねえ、着ていい?」
彼は返事をしなかった。ただ、私の手を取って、やさしく握った。
買い物袋の中で、柔らかなレースが揺れていた。
そのレースは、私の秘密の感覚を知っている。
私の身体の熱さを、きっと明日も覚えている。
そして私は、その熱を、もっと深く知りたくなっていた。
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