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第一章 月に呪われた美少年の巻
19 申陽と肝油は和睦の道を探るのこと
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帝からの使いがやってきたと聞いた朱帰は、はた目にもわかるくらいに、あたふたとうろたえた。
「なんだ、なんだ? 何がバレたんだ? 使い込みか、上役を陥れたことか、それとも――」
「帝は、肝油将軍の討伐の件について知りたいそうです。
妖怪を捕まえたなら、宮廷に連れてくるように、とのお達しです」
官吏は、使いの者の用件を伝えた。
肝油は討伐に行く前、これこれの件で討伐に行きます、との書類を出していたのだ。
「じゃあ、おれがこいつを連れていけばいいんだな」
「その他に、肝油将軍の妻も連れてくるように、とのことです」
「金玉を? なぜだ」
「化け猿に犯された女の顔を見てみたいそうです」
この国の皇帝は、悪趣味なのかもしれなかった……。
「それってぼくのこと? だから、妻じゃないって」
「まあいいじゃないか。金玉、私と一緒に都に行こう」
申陽は金玉を誘った。
「見世物になるんじゃないの?」
「帝にお目通りできるなんて、願ってもないチャンスだ。
私が無実であると、きちんと申し伝えよう。
そうすれば、我が一族に関する不名誉な噂も消えるだろう」
「おい、化け物……おまえ、自分の立場がわかってるのか?」
「戸籍も提出したし、裁判で私は無罪だと決定した――何か問題でも?」
「おまえは金玉にはふさわしくないと言ってるんだよ!」
「ハハハ、山賊あがりのあなたがそう仰いますか?」
ケンカしている申陽と肝油を尻目に、朱帰がいった。
「金玉、おまえが心配だ。兄さんもついていこう」
「え、ええと……」
金玉は、先ほどの朱帰の「私の胸を貸そう」という発言を思い出して、一歩、後ずさった。
「兄さんはいいよ……お仕事もあるだろうし……そうだ!
ぼくが生きてるって、父さんと母さんに知らせてよ! ねっ?」
「わかった。今すぐ、使いの者を出そう」
「そ、そうじゃなくて……兄さんが直接いってきてよ。
そうすれば、母さんだって元気になるかもしれないし……」
「肝油将軍、何をぐずぐずしておられるのですか?
帝の命令ですぞ。一刻も早く発たないと!」
「まさしく貴殿の言う通りである!
朱帰殿、世話になった。ではさらば!」
肝油と申陽は、朱帰から金玉を引き剥がして、逃げるように法廷を飛び出した。
そこまでは意見が一致したのだが……。
「金玉、おれの馬に乗れよ」
「いいや、私の方へ」
肝油と申陽は、それぞれの馬を前にして、金玉をいざなった。
肝油は本当は、申陽を檻に閉じ込めて護送したかった。
だが、そうすると兵士を用意しなければならない。
金玉のまわりに男が増えると、いろいろと厄介ごとが起きそうだ。
申陽は本当は、自分と金玉だけが帝に会えばいいと思っていた。
が、無位無官の身で、お目通りが叶うわけはない。
仕方がないので、肝油に従って行こうとしたのだが……。
二人は、まるで意見が合わなかった。
「……ぼくにも馬を用意してくれたらいいんじゃないの?」
「そんなんじゃ、サマにならねえだろうが。野暮なこというなよ」
「私だって、金玉と一緒にいたいんだよ」
「もう! 早く帝のところへ行かなきゃならないんだろ?」
旅路は、遅々として進まなかった。
夜になっても、それは同じである。
三人は、街道沿いの官舎に泊まった。
肝油というお役人がいるから、利用できるのだ。
が……。
夕食を食べたあと、金玉はこういわれた。
「金玉は、おれの寝台に入れ」
「そんなの寒いだろう。私が温めてあげるよ」
「……どうして、ぼくの寝台がない前提なの?」
「あー、もうこのクソ猿、いいかげんにしろ!
エテ公が人間さまと寝られると思ってんのか?」
「私の母は人間だ! 私には金玉と結婚する権利がある!」
「すっこんでろ!」
肝油は申陽に殴りかかったが、スッとかわされてしまった。
「やりやがったな、この野郎!」
「……いや、べつに何も……私が悪いのか?」
「澄ましかえった君子面しやがって! おれのいちばんキライなタイプだ!」
「私だって、おまえみたいに騒がしい人間はキライだ!」
「アホ!」
「バカ!」
男二人は、およそ信も義もかけらもない、どうでもいい理由でとっくみあいのケンカをするのだった。
金玉は、少し離れたところで「やっぱり兄さんについてきてもらった方がよかったかな……」と思っていた。
しばらくした後、疲労困憊した肝油は、こういった。
「あー、クソ面倒くせえことになっちまった……なんとかならねえのか?」
同じく憔悴した申陽が、こう答える。
「平和的な解決法が、なくはない……」
「言ってみろ」
「とある南蛮の国では、妻が複数の夫を持つことが許されている。
一つの家に、一人の妻と、二人の夫がいることがある。
また、妻がそれぞれの夫の家を訪なう場合もある。
我々の国とは正反対だな」
金玉は、イヤな予感がしてきた。
「昨日の敵は今日の友……我々がほんの少し、
お互いに譲り合えば、望みのものを手に入れられるというわけだ」
「つまり――三秘か」
金玉にとっては初耳な単語だったが、なんとなくニュアンスは伝わってきた。
肝油と申陽は、そろって金玉を見やり……。
「申陽さんのバカッ!」
ただならぬ気配を察知した金玉は、
身をひるがえして、男たちから逃れんとした。
――金玉の運命や、いかに?
いきなり話数が飛んで、未公開部分ばかりになったら、そういうことだ!
「なんだ、なんだ? 何がバレたんだ? 使い込みか、上役を陥れたことか、それとも――」
「帝は、肝油将軍の討伐の件について知りたいそうです。
妖怪を捕まえたなら、宮廷に連れてくるように、とのお達しです」
官吏は、使いの者の用件を伝えた。
肝油は討伐に行く前、これこれの件で討伐に行きます、との書類を出していたのだ。
「じゃあ、おれがこいつを連れていけばいいんだな」
「その他に、肝油将軍の妻も連れてくるように、とのことです」
「金玉を? なぜだ」
「化け猿に犯された女の顔を見てみたいそうです」
この国の皇帝は、悪趣味なのかもしれなかった……。
「それってぼくのこと? だから、妻じゃないって」
「まあいいじゃないか。金玉、私と一緒に都に行こう」
申陽は金玉を誘った。
「見世物になるんじゃないの?」
「帝にお目通りできるなんて、願ってもないチャンスだ。
私が無実であると、きちんと申し伝えよう。
そうすれば、我が一族に関する不名誉な噂も消えるだろう」
「おい、化け物……おまえ、自分の立場がわかってるのか?」
「戸籍も提出したし、裁判で私は無罪だと決定した――何か問題でも?」
「おまえは金玉にはふさわしくないと言ってるんだよ!」
「ハハハ、山賊あがりのあなたがそう仰いますか?」
ケンカしている申陽と肝油を尻目に、朱帰がいった。
「金玉、おまえが心配だ。兄さんもついていこう」
「え、ええと……」
金玉は、先ほどの朱帰の「私の胸を貸そう」という発言を思い出して、一歩、後ずさった。
「兄さんはいいよ……お仕事もあるだろうし……そうだ!
ぼくが生きてるって、父さんと母さんに知らせてよ! ねっ?」
「わかった。今すぐ、使いの者を出そう」
「そ、そうじゃなくて……兄さんが直接いってきてよ。
そうすれば、母さんだって元気になるかもしれないし……」
「肝油将軍、何をぐずぐずしておられるのですか?
帝の命令ですぞ。一刻も早く発たないと!」
「まさしく貴殿の言う通りである!
朱帰殿、世話になった。ではさらば!」
肝油と申陽は、朱帰から金玉を引き剥がして、逃げるように法廷を飛び出した。
そこまでは意見が一致したのだが……。
「金玉、おれの馬に乗れよ」
「いいや、私の方へ」
肝油と申陽は、それぞれの馬を前にして、金玉をいざなった。
肝油は本当は、申陽を檻に閉じ込めて護送したかった。
だが、そうすると兵士を用意しなければならない。
金玉のまわりに男が増えると、いろいろと厄介ごとが起きそうだ。
申陽は本当は、自分と金玉だけが帝に会えばいいと思っていた。
が、無位無官の身で、お目通りが叶うわけはない。
仕方がないので、肝油に従って行こうとしたのだが……。
二人は、まるで意見が合わなかった。
「……ぼくにも馬を用意してくれたらいいんじゃないの?」
「そんなんじゃ、サマにならねえだろうが。野暮なこというなよ」
「私だって、金玉と一緒にいたいんだよ」
「もう! 早く帝のところへ行かなきゃならないんだろ?」
旅路は、遅々として進まなかった。
夜になっても、それは同じである。
三人は、街道沿いの官舎に泊まった。
肝油というお役人がいるから、利用できるのだ。
が……。
夕食を食べたあと、金玉はこういわれた。
「金玉は、おれの寝台に入れ」
「そんなの寒いだろう。私が温めてあげるよ」
「……どうして、ぼくの寝台がない前提なの?」
「あー、もうこのクソ猿、いいかげんにしろ!
エテ公が人間さまと寝られると思ってんのか?」
「私の母は人間だ! 私には金玉と結婚する権利がある!」
「すっこんでろ!」
肝油は申陽に殴りかかったが、スッとかわされてしまった。
「やりやがったな、この野郎!」
「……いや、べつに何も……私が悪いのか?」
「澄ましかえった君子面しやがって! おれのいちばんキライなタイプだ!」
「私だって、おまえみたいに騒がしい人間はキライだ!」
「アホ!」
「バカ!」
男二人は、およそ信も義もかけらもない、どうでもいい理由でとっくみあいのケンカをするのだった。
金玉は、少し離れたところで「やっぱり兄さんについてきてもらった方がよかったかな……」と思っていた。
しばらくした後、疲労困憊した肝油は、こういった。
「あー、クソ面倒くせえことになっちまった……なんとかならねえのか?」
同じく憔悴した申陽が、こう答える。
「平和的な解決法が、なくはない……」
「言ってみろ」
「とある南蛮の国では、妻が複数の夫を持つことが許されている。
一つの家に、一人の妻と、二人の夫がいることがある。
また、妻がそれぞれの夫の家を訪なう場合もある。
我々の国とは正反対だな」
金玉は、イヤな予感がしてきた。
「昨日の敵は今日の友……我々がほんの少し、
お互いに譲り合えば、望みのものを手に入れられるというわけだ」
「つまり――三秘か」
金玉にとっては初耳な単語だったが、なんとなくニュアンスは伝わってきた。
肝油と申陽は、そろって金玉を見やり……。
「申陽さんのバカッ!」
ただならぬ気配を察知した金玉は、
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