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第二章 子授けの薬を探すの巻
50 良妻を持てば幸せになり、悪妻を持てば文人になれるのこと
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李狷はぼそっとつぶやいた。
「語り合うって、そんなもん馴れ合いだろうが……」
数ある投稿サイトの中でも、カクヨムは特にSNS的要素が強い。
李狷は、リアルでの人付き合いも、SNSでの人付き合いも苦手である。
アカウントを消したことは数知れない。
読み合いの自主企画なんて、恐ろしくて近づくことすらできない。
だがそうやって孤高をきどっているせいで、ますます己の作品は読まれないのではないかという懸念もあった。
いや、そうだろうか?
己は自主企画を開催して、個人的に全話読破してレビューをつけるという目標を掲げているが、応援コメントに返事すらもらえないことがある。
なぜ中華BLの企画にロシアを舞台にした女性が主人公の作品が投稿されるのか?
モンゴル地域が入っているならギリギリ中華世界かと我慢していたが、作中で話される言語は常にロシア語である。
念のため作者に直接きいたが、今後もBLシーンを出す予定はないそうだ。
さすがに削除させてもらった……。
自主企画に参加するといっても、どうせ果てのないディスコミュニケーションが続くだけではないのか。
とにかく李狷は、カクヨム内でのあれやこれやを思うと、よどんだ沼のような気持ちにならざるをえないのであった。
「だいたいおまえら、書籍化とか、○○賞受賞とか、コミックノベライズ化とか、なんで素人投稿サイトで遊んでんだよ! Xで作家仲間とつながってればいいだろうが! 語り合うったって、どうせおれを見下してるんだろう!
おれは『第一流の作品となるのには、どこか(非常に微妙な点において)欠けるところがあるのではないか』なんて言われてるんだぞ!
微妙な点ってなんなんだよ! それを書くのが講評だろうが!
『作者にはこの先も書き続けていってほしい』――だが、結局は選ばないんだな? そうなんだろ?
ということは、おまえにとってそれだけの価値だということだよ!
いいか、おれ以上に無価値で才能がなく不幸な人間はいないんだ。
放っておいてくれ!」
「果たしてそうだろうか?」
憂国戦隊の背後から、いきなり紫のギラギラした衣をきた老人が現れた。
――六人目の仲間だ!
「君はまだ、人生で本当の不幸を味わってはいない」
紫色がいった。
「ふん、二十年以上書き続けて、なんの成果もあげていない以上の不幸があるのか?」
「私は妻から離婚を申し渡された……」
それは古代中国においては、ほとんどありえないことである。
「離婚されたというと、ま、まさか……あなたは孔子様?」
青色が驚きの言葉をあげた。
「孔子だと! 三千人の弟子がいた有名人じゃないか。なにを不幸面してるんだ?」
李狷はたちまち噛みついた。
孔子とは、いまでは神格化されたなんかえらい人である。
「子、曰く」とは、「孔子はこういった」の意味である。
どんな言葉にも「子、曰く……」とつければ、なんとなく格好がつく!
「弟子がいたことはいたが、結局は仕官の道はかなわなかった……私は当時は、そのへんでブラブラして、何か変なことをいっているおっさんにすぎなかった」
そうかもしれないなあ。
「そして私の結婚生活は不幸の極みだった。メシマズ嫁でな。
私が『市場で買ってくる酒なんて嫌だよ。家で醸造した酒を飲みたいよ』といったら『掃除洗濯にどれだけ時間がかかると思ってるの? そのうえ買ってきた酒はイヤだなんて……あなたはワガママすぎますわ』といわれたよ」
――家で醸造した酒を飲みたい。
それは家で仕込んだ味噌しか食べたくない、自家製の醤油しか食べたくない、パンもつくっておくれよ、マヨネーズはつくりたてじゃなきゃイヤ、もちろん三時のおやつは手作りプリンだよ――に等しい。
「その他にもいろいろなことがあって『ろくな稼ぎもないくせに、なにを贅沢ばかりいってるの? もっと持参金の多い人と結婚したほうがようございましたわね!』といわれて、離婚だよ。
ただ私は人並みのご飯を食べたかっただけなのに……君はまだ悪妻を持つという不幸を知らないだろう」
悪妻だろうか……?
どの時代のどの国のどんな女性でも音をあげるのではないだろうか?
だが李狷は物知らずな独身のため、こう思ってしまった。
――確かに。おれはそこまでではない……。
さらにこうも思った。
――こいつよりはマシかもしれないなァ。
紫色は続けた。
「君子は和して同ぜず、小人は同じて和せずというではないか」
その意味は「フォローはするけど読み合いはしない」ということなのだろう。
だが、李狷はそんな言葉は聞いてはいなかった。
臆病な自尊心と尊大な羞恥心の持ち主である李狷は、あまりにもキラキラした相手と付き合うのは、引け目を感じてイヤなのであった。
孔子は有名は有名だったが、妻とは、ソクラテスとクサンチッペのごとき不仲カップルとして知られている。
――まあ、こいつらなら、いいかな。
きっと「おれはそこまで不幸ではない」と思えるだろう……。
李狷はあまりにも後ろ向きな理由で、相互フォローするのであった。
ところで、猛虎の牙に倒れた申陽の容態はどうなった?
次回からは普通のBL小説に戻る予定だ!
以下、次号!
「語り合うって、そんなもん馴れ合いだろうが……」
数ある投稿サイトの中でも、カクヨムは特にSNS的要素が強い。
李狷は、リアルでの人付き合いも、SNSでの人付き合いも苦手である。
アカウントを消したことは数知れない。
読み合いの自主企画なんて、恐ろしくて近づくことすらできない。
だがそうやって孤高をきどっているせいで、ますます己の作品は読まれないのではないかという懸念もあった。
いや、そうだろうか?
己は自主企画を開催して、個人的に全話読破してレビューをつけるという目標を掲げているが、応援コメントに返事すらもらえないことがある。
なぜ中華BLの企画にロシアを舞台にした女性が主人公の作品が投稿されるのか?
モンゴル地域が入っているならギリギリ中華世界かと我慢していたが、作中で話される言語は常にロシア語である。
念のため作者に直接きいたが、今後もBLシーンを出す予定はないそうだ。
さすがに削除させてもらった……。
自主企画に参加するといっても、どうせ果てのないディスコミュニケーションが続くだけではないのか。
とにかく李狷は、カクヨム内でのあれやこれやを思うと、よどんだ沼のような気持ちにならざるをえないのであった。
「だいたいおまえら、書籍化とか、○○賞受賞とか、コミックノベライズ化とか、なんで素人投稿サイトで遊んでんだよ! Xで作家仲間とつながってればいいだろうが! 語り合うったって、どうせおれを見下してるんだろう!
おれは『第一流の作品となるのには、どこか(非常に微妙な点において)欠けるところがあるのではないか』なんて言われてるんだぞ!
微妙な点ってなんなんだよ! それを書くのが講評だろうが!
『作者にはこの先も書き続けていってほしい』――だが、結局は選ばないんだな? そうなんだろ?
ということは、おまえにとってそれだけの価値だということだよ!
いいか、おれ以上に無価値で才能がなく不幸な人間はいないんだ。
放っておいてくれ!」
「果たしてそうだろうか?」
憂国戦隊の背後から、いきなり紫のギラギラした衣をきた老人が現れた。
――六人目の仲間だ!
「君はまだ、人生で本当の不幸を味わってはいない」
紫色がいった。
「ふん、二十年以上書き続けて、なんの成果もあげていない以上の不幸があるのか?」
「私は妻から離婚を申し渡された……」
それは古代中国においては、ほとんどありえないことである。
「離婚されたというと、ま、まさか……あなたは孔子様?」
青色が驚きの言葉をあげた。
「孔子だと! 三千人の弟子がいた有名人じゃないか。なにを不幸面してるんだ?」
李狷はたちまち噛みついた。
孔子とは、いまでは神格化されたなんかえらい人である。
「子、曰く」とは、「孔子はこういった」の意味である。
どんな言葉にも「子、曰く……」とつければ、なんとなく格好がつく!
「弟子がいたことはいたが、結局は仕官の道はかなわなかった……私は当時は、そのへんでブラブラして、何か変なことをいっているおっさんにすぎなかった」
そうかもしれないなあ。
「そして私の結婚生活は不幸の極みだった。メシマズ嫁でな。
私が『市場で買ってくる酒なんて嫌だよ。家で醸造した酒を飲みたいよ』といったら『掃除洗濯にどれだけ時間がかかると思ってるの? そのうえ買ってきた酒はイヤだなんて……あなたはワガママすぎますわ』といわれたよ」
――家で醸造した酒を飲みたい。
それは家で仕込んだ味噌しか食べたくない、自家製の醤油しか食べたくない、パンもつくっておくれよ、マヨネーズはつくりたてじゃなきゃイヤ、もちろん三時のおやつは手作りプリンだよ――に等しい。
「その他にもいろいろなことがあって『ろくな稼ぎもないくせに、なにを贅沢ばかりいってるの? もっと持参金の多い人と結婚したほうがようございましたわね!』といわれて、離婚だよ。
ただ私は人並みのご飯を食べたかっただけなのに……君はまだ悪妻を持つという不幸を知らないだろう」
悪妻だろうか……?
どの時代のどの国のどんな女性でも音をあげるのではないだろうか?
だが李狷は物知らずな独身のため、こう思ってしまった。
――確かに。おれはそこまでではない……。
さらにこうも思った。
――こいつよりはマシかもしれないなァ。
紫色は続けた。
「君子は和して同ぜず、小人は同じて和せずというではないか」
その意味は「フォローはするけど読み合いはしない」ということなのだろう。
だが、李狷はそんな言葉は聞いてはいなかった。
臆病な自尊心と尊大な羞恥心の持ち主である李狷は、あまりにもキラキラした相手と付き合うのは、引け目を感じてイヤなのであった。
孔子は有名は有名だったが、妻とは、ソクラテスとクサンチッペのごとき不仲カップルとして知られている。
――まあ、こいつらなら、いいかな。
きっと「おれはそこまで不幸ではない」と思えるだろう……。
李狷はあまりにも後ろ向きな理由で、相互フォローするのであった。
ところで、猛虎の牙に倒れた申陽の容態はどうなった?
次回からは普通のBL小説に戻る予定だ!
以下、次号!
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