金玉獣遊記(きんぎょくじゅうゆうき)

松田夕記子

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第三章 金玉、ふたなりになるのこと

53 金玉のあいまいな態度に天罰テキメンのこと

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「そなたらを我が屋敷に招待しよう」
 太上老君が杖をかかげると、さっと春風が吹いて、一行はたちまち朱塗りの豪華な屋敷の前に立っていた。

「さあ、遠慮するでない」
「ありがとうございます」
 金玉は招きに応えて、門をくぐっていった。

 さっきから太上老君は、金玉だけをじっと見つめて話を進めている。
 危機感を覚えた申陽は、なにか発言することにした。

「太上老君さま、私たちの手元には蟠桃ばんとうとすっぽん水晶があります。
 子授けには十分なのではありませんか?」

「一般的にはそうだろう。だが皇帝は荒淫にふけり、体が弱っている。
 子種をつくるどころではないわ。もっと劇的な薬が必要だ」

 太上老君は言いながら、朱塗りの回廊を進んでいく。

「それにもっといえば、照胎泉しょうたいせんの水は女性用で、男性の不妊には効かないのだ。
 もしそなたらがあのまま水を持ち帰っていても、何もならなかっただろう」

 太上老君は神通力によって、まるで話を読んできたようなことをいう。
 そして、ある一室に彼らを案内した。

「わあ、すごいや」
 そこは薬品庫で、壁一面に種々の薬品を入れた壺が並んでいた。
 漢方薬特有の変わった匂いがする。
 
蟠桃ばんとうの種とすっぽん水晶を砕き、ここから子種を増やす薬を選んで調合する、さらに――」

 太上老君は、金玉の肩をがしっとつかんでいった。

「そなたの精が必要だ」
「えっ?」

「そなたは、生まれてから一度も精を出してないのだろう?
 子授けのためには、聖童貞の初精が必要なのだ」

 金玉は恥ずかしがってうつむいた。
 西風大王が金玉をさらったのも、彼が聖童貞だったからだ。

「この壺に精を入れてもってまいれ。そうすれば、すぐに子授けの薬を作ってやろう」
「は、はい……」
 金玉は壺をもち、別室へと赴くのであった。

 *

「だから、おれが手伝ってやるといってるんだよ!」
「いやいや、貴公にそんな手間はかけられぬよ。ここは私が……」

 別室の入り口近くで、肝油と申陽が言い争っていた。

「だいたい! おれと金玉は唇を交わした仲なんだからな。もう契ったも同然だ」
「それくらいなら私もしているがな」

「いつだ! おまえが金玉に無体を働いた時か?」
「そうではない、その後だ」

「金玉はおれの胸に抱きついて『大好き!』といったんだぞ」
 それは確かにいっている。

「なに? 私はまだそんなことは言ってもらってないぞ! いつだ!」
「桃花村の桃が枯れ果てた日の朝だ!」

「……ん? どうもおかしいな」
 それから男二人は、金玉がいつどういう行動をとったのか、時系列順に語り合っていった。

 *

 金玉は別室で、壺を抱えて困惑していた。
 そこは医務室らしく、簡易な寝台と、小さな薬品棚が置かれていた。

「ねえ兎児くん、これってどうすればいいのかな?」
「ん~、適当にこすって出せばいいピョン。それをこの壺に入れるピョン」

 金玉は純潔教育を受けていて、さらには男なのに「男なんて」と思って過ごしていた。
 そちらの方面にはことに奥手なのだ。

「やってみる……」
 金玉は帯を解き、下着を外し、その薔薇色のそれにおずおずと指で触れ……。

「おーっと、つれないな。一人でお楽しみかよ」
「よし、まだ出してないみたいだな」
 肝油と申陽が、部屋にずかずか入ってきた。

「わっ! な、なんなんだよ!」
 金玉はとっさに下を隠した。

「――金玉! 君の精はとても大切なものだ。
 それがなければ帝は子どもをつくれず、いずれはこの国が没落して、再び戦乱の世に戻るやもしれぬ」
 申陽は厳粛な声で告げた。

「そうそう。おまえが精を出さなきゃ、この国はおしまいなんだぜ?」
「だ、だから?」

「おれたちが手伝ってやろうっての」
 肝油はいい、あやしい手つきでにじりよった。

「や、やめっ……」
「金玉! これはやむをえないことなんだ!」
 申陽はいい、金玉を背中からはがいじめにして、簡易ベッドの上につれこんだ。

「ちょっ、なに……このクソ猿! バカ!」

「よーし、そっちおさえてろよ」
 肝油は慣れた手つきで、金玉の下の衣をぜんぶはぎとった。
 うすめの草むらと、薔薇のつぼみがあらわになった。
 
「おめえ、二股かけるとはいい根性してるじゃねえか」
 肝油はいって、金玉のそれをピンとはじいた。

「やっ。ふ、二股だなんて……」
「肝油に大好きといい、私に手巾《ハンカチ》をわたす。
 それが二股でなくてなんだというんだ?」

 申陽は金玉を背中から抱きしめたまま、その首筋に口づけを落としていく。
「そ、それはその……だめっ、くすぐったいよ」

 金玉はあいまいな態度ばかりとっていた!
 今、その報いがやってきたのである!

「そんなに二股かけたきゃあ、やってみろよ。二本いっぺんにぶちこまれたいか?」
「そんなんじゃない! ぼく、肝油は大好きですっごく感謝してるよ」

 ――助けてくれて感謝してるけど、どうしてだかやりたいって思えないんだ。

「私に手巾ハンカチを渡しておきながら、こいつとも戯れていたのか?」
「申陽さん、誤解しないで! 肝油とは体だけだから!」

 ――ぼく、申陽さんにならやらせてもいいと思ったんだ。でも、ちょっとこわい……ぼくの複雑な美少年心、わかってくれるよね?

 金玉は肝心なことを言わないせいで、ますます誤解されるのであった。 

「……お仕置きだな」
 金玉と肝油は口をそろえていった。


 天網恢恢てんもうかいかい疎《そ》にしてらさず!
 どんな悪事もいつかはバレるということだ!
 金玉は何かを漏らす必要があったが……。

 以下、次号!
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