金玉獣遊記(きんぎょくじゅうゆうき)

松田夕記子

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第四章 婿取り合戦がはじまるのこと

62 母、香月のターンがやってくるのこと

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 かくして、金玉とその一行は、実家の門をくぐることになった。

「金玉、おかえりなさい!」
 母、香月は、にっこりと微笑んで、我が子を出迎えた。
 隣には父、耐雪がいる。

「お父さま、お母さま……ぼくの体のこと、聞いた?」
 金玉は、おずおずと尋ねた。
 もしかして、ぼくは太上老君の痔をなめたほうがよかったのでは……と不安になりながら。

「ええ、もう知ってるわ。でも、そんなの小さなことよ。あなたが元気でいてくれれば、わたくしはもう十分よ」

「そうそう。母さんは、おまえが帰ってくるときいたら、もう大喜びだよ。私もうれしいよ」

 耐雪は「いいのか? 息子×自分の同人誌なんて……」と思いつつも、息子が元気でいてくれたことは、天に深く感謝するのであった。

「父さん、母さん……!」
 金玉は父母に抱きつき、親子三人は再会の喜びに涙するのであった。

 *

 父母は帝を出迎えるため、盛大なホームパーティーの準備を整えていた。急いでいたのでケータリングサービスを利用したが、宴席は整えられ、みなは円卓を囲んで、大いに飲み食いしたのであった。

 金玉は父母の隣にいて、うれしそうに語らっている。

 肝油は少し離れたところからそれを見て「厄介なことになっちまったな。どうやって連れ出そうか」と悩んでいた。

 申陽も申陽で「よく考えれば、私は妖怪だからな……私が最も不利なのではないか?」と暗い思いになってしまった。

 宴もたけなわになった頃、丞相が口をきった。

「さて、そろそろ本題に入りましょうか。金玉さまは身も心も美しい方です。
 陛下は金玉さまを妻にしたいと仰っていますが、ご両親はいかがですかな」

「そ、それはもう。
 天子さまがお望みとあらば、私どもは何もいうことはありません」

 金玉は、父親の答えにびくっと身をふるわせた。
 そんな! ぼくは申陽さんと、手巾を交換したのに――。

「では、こちらで婚礼の準備を進めさせて頂きましょう。まずは結納金から――」

「お待ちくださいませ」
 香月が、丞相の言葉をさえぎった。

「わたくし、まだ賛成しておりませんことよ」
 そして、なぜかダチョウの羽を使った大きな扇子を取りだして、ふあっさ、ふぁっさとあおぎはじめた。

「は、はいっ! 決して、御母堂の意見を粗末にしているわけでは――第一正妃ですよ。国母こくぼですぞ。悪くないお話でございましょう?」
 丞相は香月の機嫌を損ねまいとして、丁重にいった。

「香月、どうしたんだ? 皇帝がお望みなんだぞ」
「あなたは黙ってらっしゃい!」
 香月はぴしゃりといった。

 若かりし頃、耐雪が「さすがにこの表現はやばいよ。ボカシを入れないと」というと「あなたは黙ってらっしゃい! こんなものR13くらいよ!」と返したように……。

「お母上……私はいやしくも大糖帝国の皇帝だ。
 金玉は必ず幸せにする。結婚を許してもらえないだろうか?」

 義両親は、自分の両親と同じ……皇帝は「なんだこのババアは」と思いつつも、婿の立場からは逆らえないのであった。

「陛下におかれましては、天下の美女財宝、手に入らないものはございますまい。
 たとえ翡翠の玉を手に入れても、瑪瑙や青金石が山と積まれていては、翡翠だけをでるわけにはいかないでしょう」

 ――金玉を正妃にしても、ほかに妃がたくさんいるのだから、金玉だけを愛するわけにはいかないでしょう? という意味だ。

「わたくしにとっては、たった一人の子どもです。
 貴人の家で埋もれるより、庶人の家で大切にしてもらったほうが、金玉にとっては幸せかもしれませんわね」

 申陽と肝油はこれを聞いて「チャンスだッ!」と思った。

「御母堂! 私は欧申陽と申す者です。
 金玉を愛する心では誰にも負けません。
 どうか、金玉を嫁に頂きたい!」

「いや、こいつは見ての通り、妖怪ですぜ!
 やっぱり人間には人間がいいですよ。
 平凡でも幸せな暮らし、ってね」

 肝油がいったあと、朱帰がばたばたと部屋にとびこんできた。

「兄さん、義姉さん! 金玉が戻ってきたと聞いて――金玉をめとるのは私です! 
 親戚同士で安心だし、金玉のことを誰よりもわかってるのは私です!」

「ほほほ。候補者が出そろったようね」
 香月は楽しそうに笑って、扇をふぁっさふぁっさとやるのであった。

 以下、次号!
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