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第四章 婿取り合戦がはじまるのこと
63 香月は婿たちに無理難題を与えるのこと
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「香月、どういうつもりなんだい」
耐雪は、おろおろして妻を見やった。
「わたくしは、ただ金玉に幸せになってもらいたいだけでございますわ」
香月は、悠揚迫らぬ態度で、答えた。
――皇帝と結婚しなくてもいいのはありがたいけど、じゃあ誰を選ぶの?
金玉には、母が何を考えているのか、まったく推しはかることはできなかった。
「まず、朱帰どの。あなたには出ていってもらいましょう」
香月は扇をとじて、ぴしりと朱帰を指した。
「ね、義姉さん……なぜ?
私が金玉の下着を盗んだからですか?
それとも、会うたびに彼をなで回して、自分のものをこすりつけていたからですか?
それとも、彼が座っていた椅子の匂いをかいで、自涜していたからですか?
それとも……」
朱帰の罪業は、まだまだ出てきそうだった。
「わたくしの目はごまかされませんことよ! あなた、ショタでしょう?」
ショタとは、正太郎コンプレックスの略である!
『鉄人28号』の主人公、金田正太郎に由来する。半ズボンをはいた小学生くらいの男子がいいなあ~、という性癖である。
「そ、それは確かに。私は金玉が小さい頃から、大好きでしたよ」
「金玉も、もう十六歳。ショタというには厳しい年ですわ。
もし朱帰どのが金玉と結婚しても、年々、その愛はさめていくでしょう」
「そんな! いや、まあ、そう言われてみれば、そうかもしれません。
小さい金玉が私に入れてくれれば、どんなに素敵だったろうか……」
それはそれで、犯罪であろう。
「おい、ショタコン! お母様がああ仰ってるんだ。おまえはガキどもと遊んでな!」
肝油は朱帰を引きずって、部屋の外へと追い出した。
「いやあ、御母堂のご判断は、まことに素晴らしい。
やはり金玉を幸せにできるのは、私だけですよ」
申陽は得々としていたが、香月はするどくつっこんだ。
「あなた、妖怪のようですけれど、新居はどこに構えるおつもり?
あの子が遠い異文化の土地で苦労するなんて、可哀そうですわ」
「も、もちろん私が婿入りしてきますから――」
「やっぱり、人間は人間と結婚するのがいちばんなんだよ!」
だが香月は、肝油にも冷たい言葉をかけた。
「金玉をさらった山賊というのは、あなたなのでしょう?
結婚前からそんな乱暴なことでは、DVの心配が絶えませんわねえ」
香月は、朱帰からそのことを聞いていたのだ。
「そ、そりゃあ、すまん……悪かったさ。今では改心したんだ! だから……」
「どうやら、御母堂には考えがおありのようですな。
では、金玉さまにふさわしい婿とは、いったい――?」
丞相は、香月の真意をたずねた。
「わたくしが望むのは、金玉が幸せになってくれることだけ。
そのためには、智慧と勇気を兼ね備えた人でなければなりませんわ。
そこには、位も身分も、人も妖怪も関係ないのです」
みなは「なるほど、もっともなことだなあ」とうなずいた。
さらに香月は続けた。
「それを試すための良い方法があります――」
「まず、陛下には『星辰の碁石』をとってきてもらいましょう」
「なんだ、それは?」
帝は素直に質問した。
「そこから自分で考えるのです!」
香月は、帝を帝とも思わない態度であった。
「肝油さんは『竜の珠』を手に入れてきてください」
竜は絵にかかれる時、だいたい珠を持っている。
その竜の珠のことなのだろう。
「申陽さんは『大羿の弓』をもってきてください」
かつて、空に十個の太陽が現れて、人々は日照りに苦しんだ。
その時、九つの太陽を弓で射て、世を救ったのが大羿だ。
耐雪は、妻をいさめようとした。
「いったい、そんな宝がどこにあるのかね。
ファンタジーRPGの設定資料集にしかのってないよ」
「――問答無用! 宝をもってきた方を、金玉の婿とします!」
「お母さま……」
「大丈夫よ、金玉。これであなたにふさわしいお婿さんが見つかるわ」
香月は、不安そうな金玉を優しくなぐさめた。
男たちは「なんて無理難題を出すババアだ。これじゃあ、先々の結婚生活が思いやられるぞ」と、未来の姑にうんざりしたものの、
「金玉と結婚せねば、生きている甲斐がない」と思ったので、それぞれ宝を探して旅立つのであった。
以下、次号!
耐雪は、おろおろして妻を見やった。
「わたくしは、ただ金玉に幸せになってもらいたいだけでございますわ」
香月は、悠揚迫らぬ態度で、答えた。
――皇帝と結婚しなくてもいいのはありがたいけど、じゃあ誰を選ぶの?
金玉には、母が何を考えているのか、まったく推しはかることはできなかった。
「まず、朱帰どの。あなたには出ていってもらいましょう」
香月は扇をとじて、ぴしりと朱帰を指した。
「ね、義姉さん……なぜ?
私が金玉の下着を盗んだからですか?
それとも、会うたびに彼をなで回して、自分のものをこすりつけていたからですか?
それとも、彼が座っていた椅子の匂いをかいで、自涜していたからですか?
それとも……」
朱帰の罪業は、まだまだ出てきそうだった。
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「そ、それは確かに。私は金玉が小さい頃から、大好きでしたよ」
「金玉も、もう十六歳。ショタというには厳しい年ですわ。
もし朱帰どのが金玉と結婚しても、年々、その愛はさめていくでしょう」
「そんな! いや、まあ、そう言われてみれば、そうかもしれません。
小さい金玉が私に入れてくれれば、どんなに素敵だったろうか……」
それはそれで、犯罪であろう。
「おい、ショタコン! お母様がああ仰ってるんだ。おまえはガキどもと遊んでな!」
肝油は朱帰を引きずって、部屋の外へと追い出した。
「いやあ、御母堂のご判断は、まことに素晴らしい。
やはり金玉を幸せにできるのは、私だけですよ」
申陽は得々としていたが、香月はするどくつっこんだ。
「あなた、妖怪のようですけれど、新居はどこに構えるおつもり?
あの子が遠い異文化の土地で苦労するなんて、可哀そうですわ」
「も、もちろん私が婿入りしてきますから――」
「やっぱり、人間は人間と結婚するのがいちばんなんだよ!」
だが香月は、肝油にも冷たい言葉をかけた。
「金玉をさらった山賊というのは、あなたなのでしょう?
結婚前からそんな乱暴なことでは、DVの心配が絶えませんわねえ」
香月は、朱帰からそのことを聞いていたのだ。
「そ、そりゃあ、すまん……悪かったさ。今では改心したんだ! だから……」
「どうやら、御母堂には考えがおありのようですな。
では、金玉さまにふさわしい婿とは、いったい――?」
丞相は、香月の真意をたずねた。
「わたくしが望むのは、金玉が幸せになってくれることだけ。
そのためには、智慧と勇気を兼ね備えた人でなければなりませんわ。
そこには、位も身分も、人も妖怪も関係ないのです」
みなは「なるほど、もっともなことだなあ」とうなずいた。
さらに香月は続けた。
「それを試すための良い方法があります――」
「まず、陛下には『星辰の碁石』をとってきてもらいましょう」
「なんだ、それは?」
帝は素直に質問した。
「そこから自分で考えるのです!」
香月は、帝を帝とも思わない態度であった。
「肝油さんは『竜の珠』を手に入れてきてください」
竜は絵にかかれる時、だいたい珠を持っている。
その竜の珠のことなのだろう。
「申陽さんは『大羿の弓』をもってきてください」
かつて、空に十個の太陽が現れて、人々は日照りに苦しんだ。
その時、九つの太陽を弓で射て、世を救ったのが大羿だ。
耐雪は、妻をいさめようとした。
「いったい、そんな宝がどこにあるのかね。
ファンタジーRPGの設定資料集にしかのってないよ」
「――問答無用! 宝をもってきた方を、金玉の婿とします!」
「お母さま……」
「大丈夫よ、金玉。これであなたにふさわしいお婿さんが見つかるわ」
香月は、不安そうな金玉を優しくなぐさめた。
男たちは「なんて無理難題を出すババアだ。これじゃあ、先々の結婚生活が思いやられるぞ」と、未来の姑にうんざりしたものの、
「金玉と結婚せねば、生きている甲斐がない」と思ったので、それぞれ宝を探して旅立つのであった。
以下、次号!
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