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第四章 婿取り合戦がはじまるのこと
77 申陽は三種の神器を授かるのこと
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――かくして大羿は、弟子、逢蒙との弓くらべに勝った。
「ああ、あなた、惚れ直したわ。
白澤先生の良さをわかってくれるなんて……」
嫦娥は乙女のように、夫の胸に飛びこんだ。
――ポイントはそこか?
「また一緒に暮らしましょう」
「う、うん!」
大羿は、再び妻の心を射止めた。
――すると。
大羿の体は光り輝き、彼の体はふわりと空に浮いた。
「ん? なんだ?」
「あなたも神仙になったのよ!」
大羿には仙人にも等しい力があったが、嫦娥が月に出奔してから
「嫦娥め、不倫しやがって……出ていくなんて……おれが悪かったのか……」
などと、年がら年中ぶちぶち考えていた。
その重たい心が、彼を地上に引き留めていたのである!
「奥さまと復縁できてよかったですね」
申陽は感動……はしていなかったが「やれやれ、一件落着だ」とは思っていた。
「うむ。これもみな、そなたのおかげだ。礼に、この弓を授けよう」
大羿は申陽に、弓と矢筒をセットで渡してくれた。
「婚約者と仲良くな」
「ははっ、ありがたき幸せ」
「それじゃ、嫦娥さまー、月に帰ります?」
勝負の間、ずっと薄い本を読んでいて、それにも飽きると仮眠をとっていた百花は、腰をあげた。
「お、お待ちください、嫦娥さま!
どうか、我が婚約者の呪いを解いてください!」
申陽は、地に頭をすりつけんばかりにして、頼んだ。
「おお、そうだ。嫦娥タン、こいつの嫁に呪いをかけたんだってえ? いっけないぞう!」
大羿は、つんと嫦娥の頬をついた。
「ご、ごめんなさい……私、あなたがいなくて寂しくて」
嫦娥はその頃、ちょうど百花ともケンカしていたし、ダークモードに入っていたのだろう。
「本当にすまなかった、許してたもれ」
嫦娥が左手を上に向けると、カッと閃光がひらめいた。
「そなたに、これを授けよう」
虚空より取りだしたものを申陽に渡す。
「は、は……っ?」
申陽は、我が目を疑った。
それは怒張した矛そっくりで、しかも周囲にイボイボがついていた。
さらに、なんかムダに虹色で、神々しく輝いている。
「これは、かの偉大なる湾珠単于《わんじゅぜんう》が使っていた、至高の張形じゃ」
湾珠単于
匈奴の王。在位:紀元前210年 - 紀元前165年
湾珠にはテュルク語で「最も美少年を愛する者」という意味がある。
単于とは、遊牧民の王に与えられる称号である。
彼はことのほか美少年を愛し、自分が痰を吐く時は、お側仕えの小姓の口にそのままペッと吐いた。
小姓は、その仕事を最高の名誉と考え、喜んで彼の痰を飲み込んだ。
痰壺係になった小姓は、他の者たちから妬まれて、バレエシューズに画びょうを入れられるくらいだったという。
「王は小姓をお召しになる時は、ご自分で七日七晩、たっぷりしつけたのじゃ。そして最後に、いよいよこれを差し入れたのだ。
王の矛はあまりにも偉大だったので、小姓がこれを受け入れるまでに、十分に広がらないと、入れられなかったのだな。
また王は、ご自分の矛を突き入れるだけではなく、その穴を押し広げるプロセスも存分に楽しまれていたのじゃ。
この張り型は、王の慈愛と仁徳を表す、ありがたいシロモノなのじゃ」
プロセス……。
BL小説では、そういうところはサラッとすませるのがお約束ではないのか?
「王はリアル嗜好なのじゃ」
「いや、あの、これはファンタジーBL……」
特になんのSF・FT的解説もなく、男性が妊娠したり母乳を出したりしてもいいジャンルではないか!
ああ、それなのに……!
「くどい! これは天帝のご命令よりなお重い、あらがえぬ運命なのじゃ!」
「は、ははぁーっ」
「金玉を七日七晩調教して、後庭の喜びを教え込み、この張形が入るくらいにまで十分に拡張すれば、必ずや、もとの清らかな体に戻れるであろう!」
それは清らかだといえるのだろうか……。
「で、ではっ! 満月の呪いも解けますか?
結婚しても、妻が他の男に狙われるなんて、困ってしまいます!」
「うむ。それは真実の愛があれば解けるであろう」
真実の愛……その定義は?
なんだかボヤッとしたことをいう嫦娥であった。
「あ、あのですね、いま仙術を使って、パッと治して頂ければ……」
「ねえ、嫦娥さま。そろそろ夜行バスの時間ですよ」
百花が時間を調べていった。
「むっ、そうか。ではあなた、一緒に月に帰りましょうね」
「うん! これでまた家族で暮らせるな! さあ、荷物は私が持とう」
大羿は、嫦娥と百花の、ズシリと重い呪物を軽々と持った。
「まあ、すごい。嫦娥さま、冬コミは旦那さまについてきてもらいましょうよ」
(荷物持ちに便利だから)
「そうね。あなたどうかしら?」
(これで今度はもっとたくさんの本を買えるわ。鑑賞用、保存用、普及用、記念用と思い出用ね)
「もちろん、嫦娥の行くところへならどこへでもついていくよ!」
(キュンキュン、くーんくーん)
こうして大羿たちは、夜行バスに乗って月の世界へ帰っていった。
*
申陽の手には、ムダに神々しい虹色の物体が残された……。
「あっ、しまった」
申陽は、さっきから自分が明月鏡を持ったままなことに気づいた。
返さなくては……いや、その必要もないか?
大羿さまは、無限の法力をもつ仙人になったのだし、もう妻のプライバシーをのぞく必要もないのだから。
「それより、私も早く金玉のもとに帰らなくては」
申陽は、大羿の弓と明月鏡、そして湾珠単于の張形の、ありがたい三種の神器を授かった!
弓矢は重かったが、申陽の心は羽のように軽かった。
――金玉、いま行くぞ。待っててくれ!
だがこの先、彼には予想だにしない試練が訪れるのであった……。
ご期待ください!
「ああ、あなた、惚れ直したわ。
白澤先生の良さをわかってくれるなんて……」
嫦娥は乙女のように、夫の胸に飛びこんだ。
――ポイントはそこか?
「また一緒に暮らしましょう」
「う、うん!」
大羿は、再び妻の心を射止めた。
――すると。
大羿の体は光り輝き、彼の体はふわりと空に浮いた。
「ん? なんだ?」
「あなたも神仙になったのよ!」
大羿には仙人にも等しい力があったが、嫦娥が月に出奔してから
「嫦娥め、不倫しやがって……出ていくなんて……おれが悪かったのか……」
などと、年がら年中ぶちぶち考えていた。
その重たい心が、彼を地上に引き留めていたのである!
「奥さまと復縁できてよかったですね」
申陽は感動……はしていなかったが「やれやれ、一件落着だ」とは思っていた。
「うむ。これもみな、そなたのおかげだ。礼に、この弓を授けよう」
大羿は申陽に、弓と矢筒をセットで渡してくれた。
「婚約者と仲良くな」
「ははっ、ありがたき幸せ」
「それじゃ、嫦娥さまー、月に帰ります?」
勝負の間、ずっと薄い本を読んでいて、それにも飽きると仮眠をとっていた百花は、腰をあげた。
「お、お待ちください、嫦娥さま!
どうか、我が婚約者の呪いを解いてください!」
申陽は、地に頭をすりつけんばかりにして、頼んだ。
「おお、そうだ。嫦娥タン、こいつの嫁に呪いをかけたんだってえ? いっけないぞう!」
大羿は、つんと嫦娥の頬をついた。
「ご、ごめんなさい……私、あなたがいなくて寂しくて」
嫦娥はその頃、ちょうど百花ともケンカしていたし、ダークモードに入っていたのだろう。
「本当にすまなかった、許してたもれ」
嫦娥が左手を上に向けると、カッと閃光がひらめいた。
「そなたに、これを授けよう」
虚空より取りだしたものを申陽に渡す。
「は、は……っ?」
申陽は、我が目を疑った。
それは怒張した矛そっくりで、しかも周囲にイボイボがついていた。
さらに、なんかムダに虹色で、神々しく輝いている。
「これは、かの偉大なる湾珠単于《わんじゅぜんう》が使っていた、至高の張形じゃ」
湾珠単于
匈奴の王。在位:紀元前210年 - 紀元前165年
湾珠にはテュルク語で「最も美少年を愛する者」という意味がある。
単于とは、遊牧民の王に与えられる称号である。
彼はことのほか美少年を愛し、自分が痰を吐く時は、お側仕えの小姓の口にそのままペッと吐いた。
小姓は、その仕事を最高の名誉と考え、喜んで彼の痰を飲み込んだ。
痰壺係になった小姓は、他の者たちから妬まれて、バレエシューズに画びょうを入れられるくらいだったという。
「王は小姓をお召しになる時は、ご自分で七日七晩、たっぷりしつけたのじゃ。そして最後に、いよいよこれを差し入れたのだ。
王の矛はあまりにも偉大だったので、小姓がこれを受け入れるまでに、十分に広がらないと、入れられなかったのだな。
また王は、ご自分の矛を突き入れるだけではなく、その穴を押し広げるプロセスも存分に楽しまれていたのじゃ。
この張り型は、王の慈愛と仁徳を表す、ありがたいシロモノなのじゃ」
プロセス……。
BL小説では、そういうところはサラッとすませるのがお約束ではないのか?
「王はリアル嗜好なのじゃ」
「いや、あの、これはファンタジーBL……」
特になんのSF・FT的解説もなく、男性が妊娠したり母乳を出したりしてもいいジャンルではないか!
ああ、それなのに……!
「くどい! これは天帝のご命令よりなお重い、あらがえぬ運命なのじゃ!」
「は、ははぁーっ」
「金玉を七日七晩調教して、後庭の喜びを教え込み、この張形が入るくらいにまで十分に拡張すれば、必ずや、もとの清らかな体に戻れるであろう!」
それは清らかだといえるのだろうか……。
「で、ではっ! 満月の呪いも解けますか?
結婚しても、妻が他の男に狙われるなんて、困ってしまいます!」
「うむ。それは真実の愛があれば解けるであろう」
真実の愛……その定義は?
なんだかボヤッとしたことをいう嫦娥であった。
「あ、あのですね、いま仙術を使って、パッと治して頂ければ……」
「ねえ、嫦娥さま。そろそろ夜行バスの時間ですよ」
百花が時間を調べていった。
「むっ、そうか。ではあなた、一緒に月に帰りましょうね」
「うん! これでまた家族で暮らせるな! さあ、荷物は私が持とう」
大羿は、嫦娥と百花の、ズシリと重い呪物を軽々と持った。
「まあ、すごい。嫦娥さま、冬コミは旦那さまについてきてもらいましょうよ」
(荷物持ちに便利だから)
「そうね。あなたどうかしら?」
(これで今度はもっとたくさんの本を買えるわ。鑑賞用、保存用、普及用、記念用と思い出用ね)
「もちろん、嫦娥の行くところへならどこへでもついていくよ!」
(キュンキュン、くーんくーん)
こうして大羿たちは、夜行バスに乗って月の世界へ帰っていった。
*
申陽の手には、ムダに神々しい虹色の物体が残された……。
「あっ、しまった」
申陽は、さっきから自分が明月鏡を持ったままなことに気づいた。
返さなくては……いや、その必要もないか?
大羿さまは、無限の法力をもつ仙人になったのだし、もう妻のプライバシーをのぞく必要もないのだから。
「それより、私も早く金玉のもとに帰らなくては」
申陽は、大羿の弓と明月鏡、そして湾珠単于の張形の、ありがたい三種の神器を授かった!
弓矢は重かったが、申陽の心は羽のように軽かった。
――金玉、いま行くぞ。待っててくれ!
だがこの先、彼には予想だにしない試練が訪れるのであった……。
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