金玉獣遊記(きんぎょくじゅうゆうき)

松田夕記子

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第五章 天の川に引き離された恋人たちのこと

91 金玉は悦蛇に我が身を捧げんとするのこと

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 金玉は帝の背中ごしに、煌々と照る満月を認めた。

 ――ああ、満月の日、男たちはみんなぼくの体を求めて、ケダモノのようになってしまうんだ。

「さあ金玉、我らの初夜だぞ」
 帝は金玉を組み敷き、やさしくその肌をなでる。

「やめてっ! ああ、申陽さん!」
 申陽はだくだくと青い血を流して、うつぶせに倒れている。

「ええい、妖猿のことなど捨ておけ!」
 帝は先祖の無念をはらすため、金玉が自ら求めるように仕向けようとした。

 そして二千文字ほどのやりとりがあった後、ついに金玉はこう言ってしまった。

「天佑さまっ、ぼく、もうっ……」
「ふふふ、体は正直だな。欲しいのであろう?」
「いやっ、しないっ! 申陽さんの横で、こんなこと……!」

「やはり恥ずかしいか?」
「恥ずかしくなんかないよ! ぼく、もう待てないっ!」
「よくぞ言った!」
 満足した帝は、己の剣を突き立てようとした。

 帝が「いや、待てよ。どっちからにしようかな?」と、一瞬迷った、その時!

「うーん……」
 悦蛇が目をさました。
 帝がじっくりたっぷりねちこくあれこれしている間に、薬の効き目が切れてしまったのだ。

「わわっ、金玉ちゃん! 何してるのっ?」
 悦蛇はびっくりして、触手で帝の首根っこをひっつかみ、ポイと投げ捨てた。
 その力はものすごく、帝が気を失い、剣もなえるくらいだった。

「ち、ちがうよっ! 誤解しないで……ひいいっ!」
 悦蛇は、自分の触手でぐっと金玉を持ち上げ、空に立たせた。
 にゅるにゅるしていた。

「あの、僕たち結婚するんだから、貞節は守ってほしいなぁー、なんて……」
「ご、ごめんなさいっ!」
 金玉は、全身をぬめぬめうぞうぞにはいまわられて、気が狂いそうだった。

「悦蛇さま、許して、許してえっ!」
「うん、そりゃ許すけど……だって金玉ちゃん、エッチだもんね」

「ぼく? ぼくがっ? そんなことは……」
「じゃあ、これなに?」
「ひっ!」
 悦蛇は、金玉の薔薇のつぼみに、にゅるっと触手をまきつけた。

「それに、ほら、ここ」
「あっ、だめえっ!」
 悦蛇は金玉のしとどに濡れた蜜壺に触手を入れた。
 
「でもやっぱり、金玉ちゃんはここが好きかな?」
 そして悦蛇は、ほどよく広がった後庭に太めのものを差し入れた。

「ひっ、ぼく、もうっ――!」
 金玉は、人間業ではない悦蛇の責めに、たちまち陥落してしまった。

「金玉ちゃん、ぼくが寝ちゃってたから、待ちきれなかったんだね。ごめんね?」

「ああっ、悦蛇さま……」
 荒い息をつく金玉の前に、双頭の蛇がコンニチハした。

「あっ、あの、今日は食べなくていいよ。ぼくも早くしたいし……い、いいかな?」
「で、でもっ……」
 金玉は申陽を見た。愛しい人を放っておいて、こんな……。

「ああ、あの、悦蛇さま! 申陽さんが大変なんです。
 悦蛇さまのお力で、生き返らせてくれませんか?」

「うわっ! 気づかなかったよ。
 い、いいけど……ちょっと入れてからでいい?」
 聖獣も、満月の呪いには勝てないのであった!

「ほんとに生き返らせてくれる? できるの?」
「まあ、大丈夫だけど」
 ――なぜなら神にも等しい力を持っているから!

「は、はい。ぼく、恥ずかしくなんかないからっ! どうぞ……」
 金玉は羞恥をこらえ、その身を捧げんとするのだった。

 ――だが、その時!
 申陽はうす目をあけて「いいかげんにしろよ……」とつぶやいた。
 
 そして弓のもとまでずりずりとはっていって、身を起こした。

 ――まったく! いつもいつもいつもこうだ。「いいだろ?」といわれたら、一応「ダメだよ!」とはいう。だがすぐに「ああんっ、ぼく、もう我慢できない」だ。

 もしかしてこれが運命だというのか?
 私は父の罪業により、恋人を寝取られる定めだというのか?
 ふざけるな……。

 申陽は渾身の力で、弓をひきしぼった。血がどろっと口から出た。
 ――大羿たいげいさま、お力をお貸しくださいッ!
 
「ああ、悦蛇さま、はやくぅ……」
 金玉が、本気か演技かわからない、甘い言葉をもらしている。

「う、うん、じゃあいくよ」
 金玉が禁断の法悦境に至らんとした、まさにその時!

 ――レイティングの矢が、あやまたず二頭の亀を串刺しにした!

 悦蛇のものすさまじい苦悶の咆哮は、天をもゆるがした。

 彼は金玉を抱いていた触手をしゅっとひっこめ、その正体をあらわにした。
 そのまま洞庭湖に倒れ込み、水中で巨体をのたうちまわらせた。

 悦蛇がふり回した尻尾は、不周山ふしゅうざんのてっぺんをすっとばした。
 そのおかげで、不周山を土台にしていた、天を支える柱が、根本からボキリと折れた。
 
 天空はポールを失ったテントのように垂れ下がり、大地は猫が思いきり遊んだカーペットのように斜めにずれた。
 東西南北四つの極が狂い、夏も冬も、昼も夜もない状態になった。

 さらに悦蛇は暴れ回る。
 
 大嵐が起こり、雷鳴がとどろき、おけをひっくり返したような豪雨が国中で降り、すべての河川が逆流し、すべてを飲み込む大洪水が起こったのであった。
 
 金玉の体は濁流にのみこまれ、海に浮かぶ木の葉のようになってしまった。

 ――申陽さん! 死んじゃったの?
 波間にちらりと彼の姿が見えたが、たちまち波に引きはがされ、姿を見失ってしまった。

 ――あれ? いつか、どこかで、こんなことがあったような……?

 金玉はそう思ったが、自身もまた、濁流にのみこまれていくのであった。

 以下、次号!
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