魔王を討伐したので年上メイドと辺境でスローライフします!

文字の大きさ
8 / 30

家でくつろぎの一時

しおりを挟む
「ああ……美味しかったな。ラーメン」
「はい、また食べに行きましょう」

 屋敷に帰ってきた僕たちは、リビングのソファーでくつろいだ。お腹もいっぱい、とても満足した気分だ。

 ベンリさんは、使用人室のベッドと石窯を見事に修理してくれて、ピカピカの新品の銅フライパンをはじめとした調理器具たちも、これも見事に台所に収まっていた。

「ふう、ちょっと喉が渇いたかな」
「そうですね。ラーメンは美味しいですけど、スープまで完食すると喉が渇きますね。今、紅茶をおいれしますわ」

 湯沸かし器に魔力を注いで、一分ほどで湯が沸く。鉄瓶の形をした魔道具で、結構高価な品だ。サイズも二人で使うには大きい。もっと小型の物をルシアが愛用してたっけな。

 ティーポットに茶葉を入れ、湯気の立つ熱湯を注いだ。アイリさんがそれを持ってくると、アールグレイの良い香りが僕の鼻腔をくすぐった。

「さあ、召し上がれユウキさま」
「いただきます」
 一口、茶を口に含むと、花のような良い香りが口いっぱいに広がった。渋みは控えめで味は軽やか、僕はそれを少し口の中で転がして、ごくっと嚥下した。

「うん、美味しい。良いお茶だ」
 これならルシアもたぶん満足するんじゃないかな。そういえば僕はここに来てから、よくルシアのことに想いを馳せた。

 現役勇者時代は、地獄の連続で、もしもう一度あれをやれと言われれば、今の僕には不可能かもしれない。
 そんな時期の出来事で、唯一良かったと思えたのはルシアとの恋だった。

 ルシアは僕と性交渉するとき、異様なほど神経質に避妊魔法をかけ避妊具の着用を求めた。
 大聖女の第一子は必ず、大聖女が産まれる。その唯一の例外が勇者の子を妊娠したときだ。この時は大聖女の遺伝子を勇者のそれが上書きしてしまう。

 だからルシアは僕とは結婚できないと、常々口にしていた。それでも激戦のなか、僕達二人は恋をした。
 それは激務のなかでも優しく光る。暖かで確かな恋だった。

 ルシアとの恋だけが、現役勇者時代で唯一失いたくなかったものだった。でも二人の恋は終わって、僕は今辺境で自由な暮らしをしている。

「……さま……ユウキさま」
 名前を呼ばれて僕ははっと顔を上げる。紅茶の香りに誘われるまま、イメージの世界に没頭していたようだ。
「はい、アイリさん……何でしょう?」
 アイリさんは僕を見てクスリと笑う。チャーミングな笑顔だ。

「ベンリさんからお買い物のお礼に、沢山の地物のトウモロコシを頂きました。よろしければ明日の朝、ポタージュスープにでもしようかと思うのですが」
「うん、良いね。美味しそうだ」
 新鮮な野菜で作ったスープも美味しそうだな。ベンリさんには感謝しなきゃ。

「明日は何かご予定はお有りですか?」
「ん……特に何もないけど」
 明日の予定は何もない、こんなことは孤児院にいた時以来だ。もう十年以上、馬車馬の如く働いてきたんだよな。

「一息ついたところですし、ユウキさまの健康診断をお願いしてもよろしいでしょうか?」
「健康診断……? ああ、そうか」

 魔王は倒されたとはいえ、五百年後にはまた復活する。勇者の血脈は受け継がなければならない。
 僕は孤児院出身で、正確な血筋は解っていない。でもかつての僕の先祖に勇者がいたことは確実だ。だから僕は勇者に覚醒したんだ。

「それでは上半身だけでいいので、お召し物を脱いでいただいても?」
「うん、よろしくお願いします」
 僕はラフな格好のシャツを脱いだ。下は作業用の動きやすいコットンのズボンで、寝間着がわりに着ていたものだ。

「す――」
 アイリさんが僕の裸の上半身を見て、息を呑んだ。
 僕の身体は醜いほどの高密度な筋肉の束に覆われている。

「失礼しました。それでは診察させていただきます」
 アイリさんは僕の心臓の音を聴診器で聞いて、診断魔法をかけた。

「医術魔法が使えるんですね」
「幼少のおり、少々医術をたしなみました」
「へえ……凄いですね」

 暗黒魔法は究極の対人魔法だ。歴代ブラック家の将軍は戦場ではそれはそれは恐れられたらしい。

「今はアイリさんのお兄さんが魔法軍統括指揮官なんだっけ?」
「はい、兄は生真面目でとても強い人です。わたくしのことも色々と気にかけてくれました」
 兄のことを話すアイリさんはとても優しい顔つきをしていた。本当に兄を慕っているのだろう。

「お父さんは全軍総司令だったかな? 僕も凄く強そうな人だと思ったのを覚えているよ」
「はい、もう結構な歳なので、軍は引退したらどうかと勧めたんですが、まだまだいけると本人は言い張っています」

 対軍隊用広域破壊魔法ブラックドラゴンブレス、戦場でその黒い波動を見たものは皆死ぬと恐れられている。アイリさんの父は誰でも知っているくらいの、有名魔術師だ。

 ブラックドラゴンブレス……アイリさんも使えるんだろうか? 聞いてみたかったがちょっと怖いのでやめた。

「異常はなし……と、ユウキさまは健康です。ですがまだ魔王との戦いの疲労は残っていますので、無理はいけませんよ」
「うん、ありがとう」
 僕は健康、そうと解かると今度は眠くなってきた。

「僕は歯を磨いてもう寝るよ」
「はい、ユウキさま、おやすみなさい」

 この日も僕は、とても深く眠りについた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

「餌代の無駄」と追放されたテイマー、家族(ペット)が装備に祝福を与えていた。辺境で美少女化する家族とスローライフ

天音ねる(旧:えんとっぷ)
ファンタジー
【祝:男性HOT18位】Sランクパーティ『紅蓮の剣』で、戦闘力のない「生産系テイマー」として雑用をこなす心優しい青年、レイン。 彼の育てる愛らしい魔物たちが、実はパーティの装備に【神の祝福】を与え、その強さの根源となっていることに誰も気づかず、仲間からは「餌代ばかりかかる寄生虫」と蔑まれていた。 「お前はもういらない」 ついに理不尽な追放宣告を受けるレイン。 だが、彼と魔物たちがパーティを去った瞬間、最強だったはずの勇者の聖剣はただの鉄クズに成り果てた。祝福を失った彼らは、格下のモンスターに惨敗を喫する。 ――彼らはまだ、自分たちが捨てたものが、どれほど偉大な宝だったのかを知らない。 一方、レインは愛する魔物たち(スライム、ゴブリン、コカトリス、マンドラゴラ)との穏やかな生活を求め、人里離れた辺境の地で新たな暮らしを始める。 生活のためにギルドへ持ち込んだ素材は、実は大陸の歴史を塗り替えるほどの「神話級」のアイテムばかりだった!? 彼の元にはエルフやドワーフが集い、静かな湖畔の廃屋は、いつしか世界が注目する「聖域」へと姿を変えていく。 そして、レインはまだ知らない。 夜な夜な、彼が寝静まった後、愛らしい魔物たちが【美少女】の姿となり、 「れーんは、きょーも優しかったの! だからぽるん、いーっぱいきらきらジェル、あげたんだよー!」 「わ、私、今日もちゃんと硬い石、置けました…! レイン様、これがあれば、きっともう危ない目に遭いませんよね…?」 と、彼を巡って秘密のお茶会を繰り広げていることを。 そして、彼が築く穏やかな理想郷が、やがて大国の巨大な陰謀に巻き込まれていく運命にあることを――。 理不尽に全てを奪われた心優しいテイマーが、健気な“家族”と共に、やがて世界を動かす主となる。 王道追放ざまぁ × 成り上がりスローライフ × 人外ハーモニー! HOT男性49位(2025年9月3日0時47分) →37位(2025年9月3日5時59分)→18位(2025年9月5日10時16分)

無能と追放された鑑定士、実は物の情報を書き換える神スキル【神の万年筆】の持ち主だったので、辺境で楽園国家を創ります!

黒崎隼人
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――勇者パーティーの【鑑定士】リアムは、戦闘能力の低さを理由に、仲間と婚約者から無一文で追放された。全てを失い、流れ着いたのは寂れた辺境の村。そこで彼は自らのスキルの真価に気づく。物の情報を見るだけの【鑑定】は、実は万物の情報を書き換える神のスキル【神の万年筆】だったのだ! 「ただの石」を「最高品質のパン」に、「痩せた土地」を「豊穣な大地」に。奇跡の力で村を豊かにし、心優しい少女リーシャとの絆を育むリアム。やがて彼の村は一つの国家として世界に名を轟かせる。一方、リアムを失った勇者パーティーは転落の一途をたどっていた。今さら戻ってこいと泣きついても、もう遅い! 無能と蔑まれた青年が、世界を創り変える伝説の王となる、痛快成り上がりファンタジー、ここに開幕!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

無能と追放された鑑定士の俺、実は未来まで見通す超チートスキル持ちでした。のんびりスローライフのはずが、気づけば伝説の英雄に!?

黒崎隼人
ファンタジー
Sランクパーティの鑑定士アルノは、地味なスキルを理由にリーダーの勇者から追放宣告を受ける。 古代迷宮の深層に置き去りにされ、絶望的な状況――しかし、それは彼にとって新たな人生の始まりだった。 これまでパーティのために抑制していたスキル【万物鑑定】。 その真の力は、あらゆるものの真価、未来、最適解までも見抜く神の眼だった。 隠された脱出路、道端の石に眠る価値、呪われたエルフの少女を救う方法。 彼は、追放をきっかけに手に入れた自由と力で、心優しい仲間たちと共に、誰もが笑って暮らせる理想郷『アルカディア』を創り上げていく。 一方、アルノを失った勇者パーティは、坂道を転がるように凋落していき……。 痛快な逆転成り上がりファンタジーが、ここに開幕する。

処理中です...